第182話 【日々精進】あらぁ立派になって……
ラニがもともと居た異世界は、いわゆる剣と魔法のファンタジーな世界だったらしい。俗に言うところの『中世ヨーロッパ風』の、なぜだか割とよく知ってる気がする世界だ。
技術水準もそれに倣う感じだったらしく、そのためこの世界に存在する様々な『技術』の結晶に対し、彼女は大変な興味を示して見せた。
おれが『配信』を行っているパソコンや、通信に用いるネットワークの概念に始まり……タブレットPCや自動車や家庭内設備や、調理家電などなど。
もともと学習能力が高かったのであろう彼女は、数回扱い方を教えればすぐに会得して見せた。スマホやタブレットなんかは、今となっては十全に使いこなしていると言って良いだろう。
そんなラニちゃんの、最近のブーム。
それは……モリアキからPCを譲ってもらったことに端を発する、ネット対戦形式ゲームの数々だった。
「いだァ! 左奥屋根の上! ごめんちょっと下がる!」
「オッケー見えた。任せて……ッシ取った!」
「ラニちゃんつよい! カッコいい!!」
「油断しないでね。まだあと八人いる」
『エイムはええ』『のわちゃんの引きの良さよ』『ラニちゃんのカバーがうまいんだよなぁ』『あの距離でよー落とすわ』『ちゃんと敵の位置見れたのわちゃんえらいぞ』『引くことを覚えたのわちゃんえらい』『えらい』『いのちだいじに』『悲鳴もっと』
一昨日と昨日に引き続き……今日も今日とて日中をまじめにおしごとしたご褒美に、夜はラニと一緒にゲームを堪能している。わが社は福利厚生に力をいれております。
せっかくなのでと人気
……まあ、例によってラニちゃんセンパイに
「……っし取った! あと三人! 生きるよノワ!」
「おっけー今度こそ! 今度こそ!」
新たな『手』を身につけたラニは、マウスとキーボードを自由自在に操って的確に操作していく。
さすがは『元・勇者』なだけあってか、もともと思考速度と反射神経と判断力と視野の広さは非常に高水準。そこへ意のままに動かせる魔法の『手』が加わり、かつゲームの操作に身体が馴染めば……あとは、つよつよプレイヤーの誕生というわけだ。
八面六臂の大活躍を見せるラニちゃんを少しだけ助け、その何倍も助けられ、おれたちペアはサバイバルマッチを順調に生き残っていき……ついに敵はあと一人。
「ッ! ……っぶな。うわ見られてるか……ボム届かないよなぁ」
「まかせてラニ! 今度こそわたしが!」
「あっちょっとノワ! 今はまだ」
「うわーーーーーー!!!」
「ああーー!! ノワーーーー!!」
なんで、なしてや、おかしいやろ。
いまラニのほう向いてたやん。
背後から奇襲を掛け華麗に決勝点をもぎ取ろうとしていた、おれの巧みな戦術もむなしく……屋根上からの着地を綺麗に狩られ、おれのキャラ『
しかしおれの死は全くの無駄ではなかった(はずだ)。敵の注意がおれの対処に割かれた隙をついて、ラニのキャラ『
軽量で速度のあるハンドガンに持ち替え、うまいこと遮蔽物に身を隠しながら接近を試み、敵の潜む物陰に投擲物を立て続けに投げ込み、炙り出す。
爆弾の攻撃範囲から逃れるべく、敵が物陰から飛び出てくる。直後爆発音と共に爆炎が上がり、一瞬の間を置いて
一発目とは異なり、とても大人しい破裂音。
代わりに放たれるのは……辺り一面を真っ白に染め上げ、視界に重篤な
つまりは……爆発そのものの攻撃力を犠牲に、一時的な行動抑制に特化させた閃光弾。
逃げ出した先で閃光できればヨシ、もし逃げなかったら爆砕できてそれでもヨシ。爆発攻撃力の高い通常グレネードと混ぜて投げ込むなんて……味方ながら嫌らしい。
そして狙い通りというべきか……無情にもおれを下した『最後の一人』は、どうやら閃光をまともに受けてしまったらしい。その動きはふらふらと酩酊者のようで、必死のはずの索敵行動もどこかおぼつかない。
そして……われらが『勇者』は、そんな隙を見逃さない。
ほんの数メートルにまで肉薄した『
「取ったァ!!」
「うわイケメン」
閃光のデバフからやっと回復したらしい敵プレイヤーを、無慈悲に吹き飛ばしてのけた。
というわけで、試合終了。
おれたちの見事な作戦勝ちである。ふふん。
『おめでと!!!』『やったぜ!!』『今夜はカツ丼ね』『ラニちゃんつっよ』『ほんまに初心者か?熟知しすぎやろ』『最後の一人うにたそじゃん』『のわちゃんなんでジャンプしたんや……』『うにたそ狩るとかラニちゃんつっよ』『無駄ジャンプすると声と物音でバレるやで』『奇襲するなら静かにね……』『あたまよわちゃんかな』
「うぐぐぐぐ……そ、そうやったんか」
「あははは。惜しかったね、ノワ」
「うわーんラニぃー!」
「よしよし、ノワもがんばってたもんね、いいこいいこ」
『ラニちゃんママ……』『どっちが年上かわかんねーな』『これはラニちゃんがつよい』『てぇてぇ』『ちっちゃいママ……』『よわちゃんはのわめでぃあにおいて最弱』『信じられるか……局長がヒエラルキー最下層なんだぜ……』
「ぐぐぐ……で、でもまあ、視聴者さんたちの助言もあって、だんだんうまくなってきてる自覚はあるので……また明日! がんばります!」
「ふぁぁー……はふ…………もうこんな時間じゃん、やばいよ。みんなはやく寝ろ? あしたも平日でしょ?」
「そだねぇ、今日はそろそろ終了にします。また明日……は、ライブ配信だね! わたしがんばるので、皆さんもおしごとやお勉強、がんばってね!」
「それじゃあそういうわけで。……おつかれ諸君。おやすみ」
「それでは、また。
ちょっと急いだ感は拭えなかったかもしれないが……時刻的にもまあ妥当だろう。ラニちゃんがねむねむアピールしてくれたので、そこまで不自然には映らなかったと思う。
……というわけで、問題の『これ』だ。
先程の試合で最後まで生き残り、優勝したラニの操作キャラクター『
「…………えっ? うそ」
「なになに、だれだれ?」
差出人のIDは……『Wuni_Violet』。
そのアカウントの持ち主と会ったことなどもちろん無いが……見たことと聞いたことなら『これでもか』とある。
界隈で一・二位を争う超大御所事務所『にじキャラ』所属
自他ともに認めるゲーム好き、配信の九割以上がゲームの実況プレイ。当然腕前のほうもめちゃくちゃ上手い。けだるげな言動と眠たそうなビジュアルに反したつよつよプレイがチャームポイントの、可愛らしい女の子
その知名度も、活動期間も、そしてチャンネル登録者数も……ぶっちゃけおれなんかとは住む世界からして違う、雲の上の存在。
そんな彼女の名は……『
おれの相棒にして同僚のラニへと、突如届けられたメッセージ。……その内容は。
業界屈指のゲーマー
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