第161話 【準備段階】十五万八千円(税別)
おれたちが屋上駐車場に到着したときには、既にモリアキと件の冷蔵庫は到着していた。
見上げるほどに背が高い大型家電製品は、全身を段ボールと梱包プラテープでカバーされた状態で、家電量販店の名が書き込まれた台車の上に鎮座していた。
周囲をキョロキョロと見回す限り、店員さんとおぼしき人の姿は見られない。
つまりは幸運なことに、打ち合わせの通りにことを進められそうなのだ。
「ごめんごめんモリアキ、おまたせ。ささっとしまっちゃおう」
「うっす、お疲れさまっす。そうっすね、あっちの角とかなら人あんま来なさそうっす。…………
「『むぎた』をお見舞いした」
「あぁ…………」
おれたちにとって都合が良かったのは……まず第一に、店員さんが早々に引き上げてくれていたこと。
いわゆる『お車までお届けします』サービスなのだろうが、ちょっと変更が加えられたおれたちの作戦を実行するにあたり……申し訳ないが、現場を見られるわけにはいかないからだ。
そして第二に……現在屋上駐車場は車の影もまばらであり、歩いている人の姿もほぼ見られない。いちおう生命反応探知で車内に人が残っていないか探ってもみたので、大丈夫だと思う。
これによって部外者に見咎められることなく、【蔵】にしまうことが出来るというわけだ。
「やぁー……貸し出し車が無いって言われたときは、ほんとどうしようかと思ったっすよ」
「うん、なんとかなりそうで良かった。
「いや大して捻って無いっすよ。『もうすぐ知人がトラック乗って駆けつけてくれるんで、ここまでで大丈夫っす。積み終わったらすぐ台車お返ししに行きますんで』って言っただけっす」
「うーわ、息を吸うように嘘をつくとか
「はー? 言わせたのはドコのダレっすかこの悪女」
「はいはいそこまで。じゃれ合うなら場所考えないと二人も
「「すみませんでした」」
いたずらっぽい笑みを浮かべるラニの目の前で、何もない空間に突如亀裂が走る。
そのままその亀裂はバシバシと広がっていったかと思うと、あっという間に一辺
あとは……ラニの指示に従うようにその四角形がすすーっと宙を飛んでいき、直立する冷蔵庫の上から下までずずーっと呑み込むように動くと……そこにあったはずの高さ二メートルに及ぶ段ボールは姿を消し、アスファルト上の台車のみが残された。
それを見届けながら、おれは再度探知魔法を行使し……現場を見られた形跡が無いことを、あらためて確認する。
ちなみに防犯用の監視カメラもちょうど死角の位置なので、魔法が誰かに露見する心配もないだろう。
……というわけで、以上で今日のお買い物は全て完了したことになる。
いやー買った買った。おれ一人だったら絶対に終わんなかったわ、あんな量の買い物。
「……ところでモリアキさん、今日このあと……ってか明日っていうか…………その、ご予定って……いかがでしょうか」
「いやそんな恐縮せんでも良いっすよ。大丈夫っす、付き合いますって」
「ぅいぇ!? あ、あのおれまだ何も言ってな」
「家具組み立てたり、配置手伝ったり……まぁそんなところでしょ? オレも何だかんだそういうの好きですし、手伝いますよ」
「うわぁーーんありがとママぁーーー!!」
「誰が
「はいはい仲良し親子だね」
いやまじ……ほんと彼はいいやつだ。甘えっぱなしで彼の時間を消費し続けるのも申し訳ないので、さすがに片付いたらいくらか包むべきだろう。冷蔵庫の代金と併せて。
本業としてイラストレーターを務めているだけあって手先は器用だし、レイアウト能力や色彩感覚もずば抜けている。それ以外にも料理に工作に掃除にと非常に多芸で器用な人間なので、いてくれると安心感が半端無いのだ。
そして何より……おれたちの『木乃若芽ちゃん
引っ越し後の部屋作りを手伝ってほしいというのもあるのだが……
(引っ越しに片付けに動画撮影に編集に、あと生配信に
(密着動画ボクも見たよアレ。エグいよね)
確かにとても忙しくはあるが……『むぎた珈琲』の店長さんたちや視聴者さんたちのように、おれの活動を喜んでくれる人のためにも、少しでも多くの『たのしい』を発信できるよう、がんばっていきたい。
そのためにも……
幸いにして彼の同意も得られたことなので……おれたちは白谷さんに本日何度目かとなる【門】を繋いでもらい、新居へとひとっ飛びしたのだった。
ちなみに……モリアキの車は地下駐車場に置きっぱなしだ。
おまけにその車内に【門】の
いやーまったく、おれの作戦は完璧ですな。自分で自分の才能が怖くなるわ。がっはっは。
……あ、いえ……すみません……ラニちゃん様のお力あってこそでございます。ハイ。……いえ、本当すみません。調子に乗りました。……ハイ、すみません……おっしゃる通りです……ハイ……。
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