第159話 【突発撮影】まんぷくチャレンジ



「あ、しもしも? …………うん。REINメッセージ見た見た。やっぱそれくらいの値段するよね…………うん、大丈夫。…………観音開き? いいじゃんカッコいいじゃん。……うん、おれは不満無いよ。…………うん。おねがい。…………ありがと。じゃ、あとで」


(おぉー、いい品見つかったって?)


(うん、広々冷凍庫で六ドアだって。予算的にもまぁ許容範囲だし、購入頼んどいた)


(オッケー。じゃあボクもそろそろ出動準備かな?)


(トラック借りて、積み込むから……もうちょっと掛かると思う。だから)


「んゥ~~…………ッ!!」


(グラタン食べて、ひと段落……ってとこかな。ピザはお持ち帰りさせてもらお……あぁ可愛い)


(そうだね。……可愛い)




 注文したお料理四品のうち……現在霧衣きりえちゃんは三品目の『むぎたグラタン』を攻略中だ。

 とろっと濃厚なホワイトソースと焦げ目のついたあつあつのチーズ、様々な旨味がふんだんに絡んだマカロニとぷりっぷりの小エビ。間違いなく美味しいオーブンメニューを、予想以上に幸せそうな表情で霧衣きりえちゃんが切り崩しに掛かっている。


 鶏肉が好物らしいことが発覚した彼女は、サクッとジューシーな『からチキ』を一人で全部堪能し終えると、タマゴサンドの残りをきっちりと片付け終えた。

 四切れあったタマゴサンドの最後の一切れをおれが貰い、残すところあと二品。どっちから取りかかろうかとと悩んだ末で下した作戦は……器の特性上お持ち帰りができないグラタンを先に攻略することで、は残された『特製ピザ』をテイクアウトできるように、というもの。

 いざというときのために撤退ルートを確保し、安全マージンを確保した上での選択である。



 そして予想通りというか残念ながらというべきか、どうやらその撤退ルートを使用する形となりそうだ。いやいや、これはおれの先見の明がすばらしかったということだろう。ふふん。


 撤退の理由としてまず第一に、作戦遂行中のモリアキからREIN連絡が入ったこと。色々と吟味してくれた上で『これだ!』と選び抜いた一品の詳細とお値段が送られてきたので、おれは『それでおねがい』とゴーサインを出した。

 あとは事前の打ち合わせどおり……可能であれば幌つきの貸し出しトラックに積み込んで貰い、人目の無い場所でラニに【蔵】へとしまってもらえば作戦終了である。

 ラニに告げたように、合流まではもう少し時間がありそうなのだが……第二の理由により、そろそろ撮影は切り上げるべきだと判断した。




「ううー、おいしそ……キリちゃん、わたしもちょっと味見して良いですか?」


「はふ。……んぐっ、……はいっ! わたくしはたくさん、堪能させていただきましたので……あとは若芽様、お召し上がりください」


「わあー、ありがとキリちゃん! えへへー」



 撮影を切り上げる判断を下した、もう一つの理由。……というのも、おれたちの小さなおなかがじわじわと悲鳴を上げはじめたからだ。


 八個入りの『からチキ』を一人で食べきってしまった霧衣きりえちゃんは、グラタンを三さじほど堪能したあたりで……表情は相変わらず幸せそうなのだがさすがにおなかがいっぱいなのか、心なしか眉根が寄っているようにも見えた。

 そこでおれのほうから『あとおれが食べようか?』と含ませて持ちかけてみたところ、察しのいい霧衣きりえちゃんは『私はおなかいっぱいなので、お願いします』と譲ってくれた……というのが、先程のやり取りである。


 おれのおなかの中身は現在、タマゴサンドが二切れぶん。グラタンは残り六割程度、これくらいなら食べきれるだろう。からチキを食べ損ねたことが良い方向に転んだ形だ。

 霧衣きりえちゃんから譲り受けたグラタン皿とスプーンを手に、おれはカメラの画角に自らを収める。



「ではあらためて……いただきます」


「ふふ。ではわたくしが……若芽様のかんばせをしっかり撮らせて頂きまする」


「ふ、ふも……ぅやっ! ちょっ、ちょっと……恥ずかしいって!」


「うふふ、観念なさいますよう。……ちょっとした意趣返しにございまする」


「ぅヤーーーー!!?」


(ふふふ……仲睦まじいこと)




 表面はちょっと冷めていようとも、その中は相変わらず温かいまま。

 ごちそうを食べられるしあわせを噛み締めながら……おれは一刻でも早くカメラを奪還すべく、はしたなくない程度に急ぎグラタン攻略に臨むのだった。


 ……ちょっとべろ火傷した。ひはいいたい



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