第152話 【新装開店】モールだいすきの民



「いやー…………白谷さんがに気付いてくれて良かったっすよ……」


「でしょう? まぁボクもノワの保護者だからね。色々と気を張ってるわけよ。……ねぇ? ノワ」


「はい……お世話になってます……」




 朝というか午前中に鶴城つるぎさんへとお伺いして、帰宅後すぐ『引っ越し』作戦へと移行し、なんともののいち往復そこらで引っ越しそのものが完了し、霧衣きりえちゃんと天繰てぐりさんによって食品や日用品の調達が完了した……その後。

 とはいっても……なんとびっくり、この時点で現在時刻はまだ十三時。少し遅めのお昼時だ。まさかこんなに早く引っ越しが完了するとは思わなかった。ただひとえにラニの存在がひたすらに大きかった。


 ……というわけで。

 現在おれたちは先程立てた計画に沿って、霧衣きりえちゃんを伴い大型ショッピングモール……通称シオンモールへと足を運んでいた。

 目的はずばり、新生活に必要な品々の調達だ。布団や家具などかさ張るものや重量物も、どれだけ買っても問題ない。小さくてハイスペックなラニちゃんさえ居れば何も困らない。



 …………そう思っていた時期が、おれにもありました。






「【蔵守ラーガホルター】使うのは、別に良いんだよ。ボクが消費する魔力コストも、元を辿ればノワの魔力だもん。愛しいノワのためとあらば、ボクはどれだけでも働いてみせるよ」


「はい…………ありがとうございます……」


「でもさ、ノワ。…………お店で、お金払って、家具を買って、その場で【蔵】に仕舞う……ってのは、さすがに無理だよね?」


「はい……おっしゃる通りです……」


「だからこそオレの出番、ってわけっすね。店員さんに頼むにしろオレが運ぶにしろ、とりあえず車の中に運び込んじゃえば、あとは白谷さんがパパっとやってくれるわけでしょ?」


「そうそう。だからさ……悪いんだけど、頼めるかな?」


「モチロンっすよ。お安いご用っす」


「スマセン……ホント、スマセン……」




 意気揚々と買い出しに出掛けようと、とりあえずけやき駅へ【門】を開いて貰おうとしたおれに対し……頼れる相棒ラニちゃんさまは『確認なんだけど、行くのはボク達三人? どうやって品物持って帰る?』とおっしゃられた。

 さも当然のように『ラニの【蔵】に入れてもらえないかなぁって……ダメ?』とアホ丸出しな回答を述べたおれに対し、そこで全てを察した聡明なラニちゃんさまはにっこりと微笑み……おれが求めた『けやき駅』行きではなく、我らが同志『モリアキ宅』へと繋がる【門】を、どこか圧力を感じさせる無言で開けてくださった。


 行き先を知らないまま【門】を通り抜け、あんぐり口を開けてお食事中だったモリアキ氏と目が合い、こちらもお口あんぐり状態に陥ったおれの眼前にて……我らが救世主ラニちゃんさまは畏れ多くも、おれの計画の欠点をビシッと指摘して打開策をバシッと提示し、モリアキともサクッと交渉してくださったのだ。



 そうして全てを察したモリアキと、おれの危機を救ったラニちゃんさまと、クソザコ低能の間で交わされたやり取りが……冒頭の会話となるわけだ。




「まぁまぁ。誰にでも失敗はあるっすよ。気にしないで下さい先輩」


「そうだね。誰にでも失敗はあるからさ。気にしないでいいよノワ」


「えっと……誰にでも失敗はございますゆえ。お気になさらず若芽様」


「そうですね!! 仲良いねキミら!!!」



 ラニのファインプレーとモリアキの気配りに救われたおれたちは、昨日に引き続きモリアキの軽自動車にお世話になってショッピングモールへと向かっている最中である。

 明日の月曜日から仕事や学校が始まるケースが多いので、年始休み最終日である日曜日の今日は……道路の混雑はそれほど深刻じゃなさそうだ。

 休みの最後を楽しもう、という考えの人も居ることは居るんだろうけど、やっぱり翌日に備えて家にいる人も多いだろう。少なくとも昨日よりかは空いているはずだ。




「若芽様! 若芽様! 頭上に橋が……橋がどこまでも続いておりまする!」


「高速道路だね。お金払って使う道路だよ。昨日おれたちが使った道路とおんなじ」



「わ、若芽様! あれも『くるま』にございまするか!?」


「そうだね。バスっていって、人がいっぱい……三十人くらいかな? 一度に乗れる自動車だよ」



「ぴゃうぅっ!? な、な、何事にございまするか!? ま、まさか近くにニワトリが!」


「クラクション……警笛ケイテキっていってね、注意を促したりするときに鳴らすんだけど……無駄に鳴らしまくる人もいるからなぁ浪越市なみこしは」




 いわゆる『箱入り娘』という表現がぴったりであろう。今まで鶴城つるぎの神域から出たこと無かったらしい霧衣きりえちゃんにとっては、周りの様々なものが新鮮に映るようだ。

 昨日の遠出でも目を輝かせていたけれど、あれは殆どが山間部を走る高速道路だった。それに比べて都市部の下道ともなれば、興味を惹かれるオブジェクトは多種多様。次から次から質問攻めにされるおれだったが、不快感は無い。

 楽しそうに視線を巡らせる霧衣きりえちゃんを眺めるのは……楽しくさえある。


 彼女のおかげで『ほんわか』したムードの車は順調に進んでいき、幸い大規模な渋滞や交通トラブルに見舞われることも、また進入前の路上で待たされることもなく……おれたちは無事に『シオンモール浪越南』地下駐車場へと到着を果たした。




「若芽様! 若芽様! ここはまさか地の底にございますか!?」


「地下駐車場……地のってわけじゃないけど、地面の下だね。この上にシオンモール……えっと、建物全部が商店街になってるバカデカいビルが建ってるの」


「し…………しょうてん、がい? しょうてん……商店、でございます……か? 商店……がい??」


「そこからかー! こりゃあ良い反応が期待できそうですなぁ」


「フヘヘ。楽しみになってきたっすよオレ」


「ンフフ。奇遇だね、ボクもだよ」




 霧衣きりえちゃんに温かな視線を向けるラニだったが……おれとモリアキはこっそり目を合わせ、二人でひっそりとほくそ笑む。どうやら彼も考えることは同じのようだ。

 地上階部分へと昇り、シオンモールの全貌を目にすれば……恐らく、いやほぼ間違いなく、ラニも霧衣きりえちゃん同様に大興奮間違いなし、冷静では居られなくなることだろう。


 ふふふ。奇遇だね、ラニ。

 おれたちも君の反応が……楽しみになってきたところだよ。



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