第153話 【新装開店】並行攻略作戦



 今回最も優先すべきはまず、霧衣きりえちゃんとおれの寝具。ついで食器だろうか。


 最低限今晩ゆっくり休める場所の確保と、食事を摂る環境の整備を早急に完了させなければならない。その他の家具――本棚やらソファやらローテーブルやらテレビボードやら――なんかはまぁ……買えるなら買ってしまいたいが、最悪後日に回してしまっても問題ない。

 あぁ、ダイニングセットは優先しないと。これは食事に必要なものだ。


 というわけで、まずは最優先でそのあたりの調達を目指す。

 幸いなことにこのモールには、価格以上の満足感が得られると評判の家具店チェーンが出店している。全国的に有名なその家具店であれば、ベッドから寝具からダイニングセットまで揃えられるだろうし……そういえば確か食器類やカトラリーも置いてあったような気がする。

 ……ヨシ、決めた。第一目的地はそこにしよう。モリアキと目的地の共有を済ませ、おれは館内マップを眺めながら一階奥のテナントへと狙いを定める。



霧衣きりえちゃーん大丈夫? 動くよー? きりえちゃーん?」


「…………はっ!? は、はいっ! 大丈夫めぴゅです! 問題ごじゃいございばみぇんません!!」


「なんて??」



 吹き抜けから上層階を見上げておくちあんぐりしていた霧衣きりえちゃんを正気に戻し、おれの肩の上で姿を消したまま同様におくちあんぐりしているラニちゃんはそのままに……おれたち三人(プラスおくちあんぐり硬直してる小さな一人)は、賑やかなモール内部を進んでいった。




 新生活の準備というのはどういう形であれ、少なくともおれにとってはわくわくするものだ。

 高校を卒業して大学へと進学し、親元を離れ独り暮らしを始めたとき。誰の意見も受けずに自分だけのセンスで(※ただし予算は考慮した上で)家具や家電をひとつひとつ選んでいったあのときのことを思い出す。

 就職に伴う転居の際はあくまでその当時持っていた家具家電に買い足した程度だったのだが……しかし今回は規模が違う。

 自室一部屋まるまる、リビングダイニング部分全て、そして霧衣きりえちゃんのお部屋全てと……おれ史上初めてとなる超大規模な調達なのだ。さすがに気分が高揚しますね。


 というわけで、やってきました価格以上。

 調達すべきものを頭の中で思い出し、おれはしばし攻略法を思案する。



「んー……モリアキ、ごめん。ちょっと頼みってか相談なんだけど」


「ほいほい何でしょ。ちなみに先輩かなり人目引いてるんで、口調とか気を付けて下さいね。地が出てます」


「っ!! ご、ごめん……なさい。……だからさっきからよそよそしかったんですね。……じゃあ電話する……します」


「あー、そうっすね。それが良いかもしれません。……じゃ」



 ……何にせよ、揃えるべきものが多すぎるのだ。

 もちろん今日だけで全て揃える必要はない。数日かけて揃えていっても良いのだろうが……買った品物を持ち帰るため(のアリバイづくり)には、モリアキの協力が必要なのだ。そう何日も彼を拘束するのも良くないので、出来ることなら今日じゅうに大物は揃えたい。


 一方で……霧衣きりえちゃん。独り暮らしはもちろんショッピングモールに来るのも初めてなこの子は、当然『何が必要か』なんてわからないだろう。仮に知っていたとしても、彼女の性格からすると『買ってもらう』ことを避けたがることは想像に難くない。

 なので、彼女の買い物にはおれがついている必要がある。



「もしもし、きこえますか?」


『ウィ、オッケーっす。……それで、頼みってのは?』


「ん。……えーっとですね、あのおうちのLDK……いえ、リビングは後回しで良いので、ダイニングとキッチン部分……ですね。テーブル椅子セットと、人数分の食器類と、基本的な調理器具類。そのあたりの品定めをお願いできないかなぁ、と……」


『えーっと……オレのセンスでいいんすか?』


「そんな奇妙奇天烈キミョーキテレツなセンスじゃないってことは解ってますので、お任せします。常識の範囲内で。……あ、別に高級品は要らないですから、実用性優先で。多く見て六人分……かな? DKダイニング・キッチン全体で十万……んー、十五万くらいまでを目安に」


『おぉ、なかなか大盤振る舞いっすね。……まぁ楽しそうですし、いいっすよ。やってみます』


「すみません、助かります。お願いします」




 正直なところ、おれはインテリアにそこまでこだわるタチではない。配置にしても品物にしても実用性重視、極端な話見た目なんかはどうでもいい。そんな基準でこれまで過ごしてきた。

 モリアキのことは信用しているし、彼の部屋のインテリアや食器類のセンスを見る限りでは結構良い感じで揃えられている。あんな感じで纏めてくれるなら何も文句は無いし、むしろ彼が手ずから選んでくれるということがなんだか嬉しい。……支払いが自分だとしても、だ。


 なので……あっちのことは彼に全て委ねるとして。

 おれたちは、おれたちのお部屋づくりに集中する。



 目指すのは、インテリア雑誌なんかに載るようなお部屋。実用性の高さはそのままに、それでいて統一感があり、綺麗に纏められているお部屋。


 まぁ要するに……映っても恥ずかしくないお部屋、ということだ!



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