第143話 【背水配信】にげられない!!
めちゃくちゃ前向きな抱負を提示することで、とりあえず目先の追加プレイからラニと視聴者さんの意識を逸らすことに成功したわけだが……しかしこのまま配信を終了してしまうには、時間的にも内容的にも少々物足りない。
というわけで、困ったときの雑談枠。みんな大好き雑談枠だ。特に最近は
一応、都度都度目を通すくらいはしているのだが……いい機会なので、いくつかピックアップして読み上げていこうと思う。おたよりコーナーっぽく。
「……というわけで、
「オッケー。じゃあボクが読み上げるから……ノワはトレーニングモードね」
「なんにぇぇぇぇぇぇ!!?」
トレーニングモード……それはさっきまで挑戦していたストーリーモードとは異なり、鍛えたい部位ごとに纏められた様々なエクササイズを、すぐに、直接、好きなだけ、徹底的に楽しめるモードである。
そんな地雷がひしめいている殺伐とした地雷原とゆるゆるふわふわの
「大丈夫大丈夫。メニュー軽いヤツにしていいから」
「んやっ!! そうではなく!! どうしてかすてらとトレーニングが結び付くのかが知りたい!!」
「流れとしては、まずボクがかすてらや質問箱から拾った質問を読み上げます。そしたらノワに回答を考えながら単品トレーニングをこなして貰って、単品ワンセット終えたところで答えてもらうの」
「フレンズパークかよ!!?」
「ボクもおもしろそうな演出、いろいろと勉強してるんだよね。だからノワにはがんばって……実験台になってもらおうかと」
「言い方がひどい!!」
なんてことだ。スムーズに雑談枠へと移行し、運動から逃れられたかと思ったら……逃げた先にまでフィットネスがついてきた。
なるほどな……『しかし、回り込まれてしまった!!』っていうときの心境はこういうものか。なるほどなるほど。
にこにこ笑顔のいたずら妖精さんと、おれを苛めることに盛り上がりを見せるコメント欄の空気を、嫌というほど肌身で感じ……おれは全ての抵抗を諦めた。
この世界に神などいない。
……あっ、ちがうんですフツノさま。そういう意味じゃないんです。言葉のアヤってヤツで。
「じゃあノワの準備が整ったようなので……第一問」
「うわぁーん!!」
「『わかめちゃんこんにちわ。いつも動画楽しく見させてもらってます。次また旅行動画撮影する予定はありますか。またあるとしたら、目的地はどこを予定していますか』……旅行動画の行き先候補、三つお答えください。はいスタート!」
「ほぇぇぇぇ!?」
ラニの合図と共にスタートするカウントと、手渡されるコントローラー。どうやら今回の設定は『指定通りのリズムでスクワット・十五回』らしい。
ゆっくり膝を曲げて腰を落とし、またゆっくりと膝を伸ばし立ち上がる。この『ゆっくり』というのがまた嫌らしく、なかなかどうして思うようにカウンターが進まない。
わかったぞ。これ十五回ってめっちゃ苦しいやつだ。
「……っ、……はっ、……はっ、…………はっ、ングぇっ…………りょこう……みっつ……」
「だ、大丈夫……?」
「ンッ……だい、じゅぶ。…………えっと……北海道と、沖縄と……北陸?」
「おお。端から端まで。ちなみに理由とかは?」
「理由……っ、はぁっ、んぐっ……いや、漠然と……日本を端から端まで制覇してみたいなぁ、とか……いや、全制覇、できるかどうかは、おいといて。あくまで、構想……っていうか」
「へぇー。たしかに楽しそうだね。ちなみにこの中で、次の旅行動画候補として一番可能性が高そうなのは?」
「ぇえ……この中なら…………沖縄かなぁ。冬なら直行便安そうだし」
「実現できるよう全力で支援するね」
「そ、そう? ありがと……」
疲労状態のまま勢いに任せての回答なので、お世辞にも賢い返答だったとは言いがたいが……しかし少なからず考えていたことだ。
四十七都道府県すべてを制覇できる、なんて自惚れているわけではないが……鶴城さんでのアルバイトを告知した際の地方在住視聴者さんの嘆きが、とても印象に残ってしまっている。
おれは……計画としては
まだラニにも提案してないことだけど……沖縄とか北海道とか、その現地ならではのアルバイトに手を出して、その様子を動画にしてみてもおもしろいかもしれない。ご当地ダ◯シュみたいな。
……まぁ、撮影許可降りるバイト先を探すのが、まずもって大変そうなのだけど。
「じゃあ…………次、いける? 言い出しといてなんだけど……ノワがここまでボロボロになるとは思わなかったから……」
「………………ふつうに、雑談枠で……」
「アッ、ハイ」
『これは英断』『もう虫の息じゃん……』『のわのわよわちゃん』『ラニちゃんやさしい……』『よわちゃんかわいい』『意思の弱さ』『リングから逃げるな』『「自分を追い込んでいこう!!」』『赤ら顔たすかる』『荒い息づかいたすかる』『えちち顔たすかる』『これは事後』
コメント欄の空気も、おおむねおれに同情的だった。
たすかる。ひと欠片の慈悲、たすかる。
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