第141話 【背水配信】これは余裕ですわ



 魔法放送局『のわめでぃあ』が誇る専属アシスタント妖精さんによって企てられた、おれこと木乃若芽ちゃんに対するドッキリ(というつもりだったらしい)大作戦。

 仕掛人ラニと視聴者さんにとっては……どうやら無事『大成功』を収めたらしい。いいのかこれで。……そ、そっか。


 後になって聞いたことだけど……なんでもおれが困惑したり不安そうにしてたり恥ずかしがったりしている様子は、弊局の視聴者さんたちに大変大きな需要があるのだとか。

 ちょっと訓練されすぎじゃありませんか視聴者諸君。それでいいのか本当に。




「というわけで! 今日ノワにはコレをやってもらいます。もう放送始まっちゃってるからね。みんな楽しみにしてるから『待った』はできないよ! がんばってね!」


「ぇえ……いや、べつに『やれ』っていわれればこんなプレイされなくてもやりましたけど……」



『やらせてください』『たすかる』『ふてくされわかめちゃんかわいい』『「やりましたけどー」←かわいい』『不機嫌のわちゃ』『ママやさしい』『がんばって』『とんがった口かわいい』



 久しぶりに起動された例の体力作りゲーム……輪っか型のアタッチメントにコントローラーをセットしてプレイする例のやつだ。

 かなり不意打ちだったとはいえせっかくモリアキが調達してきてくれたのだから、確かに一回プレイしただけでお蔵入りするのも勿体無い。おれとしても前回の苦い思い出のまま終わるのは嫌なので、リベンジというのもやぶさかではない。


 ……というわけで。

 負荷設定を大幅に盛った前回とは異なり、今回はあくまで『高学年女の子』基準の負荷設定で挑戦していく。このあたりは前回の悲劇(もはやゲームどころじゃなくなり最初のステージで惨敗)を目撃している視聴者さんの許しも得て、安全第一で基本に忠実に進める方針が採択された。ご安全に。

 年齢・性別に続き、プレイヤーの基礎情報を順番に入力していくと……身長体重を入力したあたりで、コメントの『ざわざわ』度が上がった。

 …………そういえば普通の女の子は隠すのか。女の子じゃなくてもこのへんは隠すか。




『隠さなきゃ』『あっ……』『あっ』『身体情報さらけ出すスタイル』『ちっちゃ……』『かっる』『じょじじゃん』『おねえちゃんちっちゃい……』『身体測定たすかる』『ちゃんとごはん食べて』『ちっちゃいおねえちゃんかわいい』『食べないと大きくなれない』『リアル叙事』『まな板なわけだ』『板わかめ』『海草生える』


「まな板って言ったひと喉に魚の小骨刺され」


「よくコメント気づいたね!?」



 おっと…………平常心平常心。わたしはかしこい全能美少女エルフなので。取るに足らない茶化しは右から左へ聞き流し、リベンジに集中することにします。


 難易度設定ノーマルなゲームごときでヘチョヘチョするほど、わかめちゃんはお安くございませんことよ。











「ほッ、…………ヒョら! 余裕のよしこちゃんでヒュよ!」


「オッそうだね」



『実質クリアおめ!!!』『つよつよ』『やるじゃん』『【速報】ゲーム開始わずか二十分で記録更新』『おっ、そうだな』『脚震えてない?大丈夫??』『ヒョラって言ったぞ今』『使用済タオルちょうだい』『余裕かぁ……(遠い目)』『わかめちゃんつよい(棒読み)』『余裕ってなんだっけ……』



 配信画面に映るのは『ビクトリー』と喜びを露にポーズを取るマイキャラと……その右下にワイプで映る、膝に手を当ててうなだれるかしこい全能美少女エルフの姿。

 前回の配信とは異なり、ゲームオーバーからのコンティニューを挟むことなくストレートにステージクリア。やはりノーマル難易度程度であればあっさりとクリアできるようだ。……そのはずだ。…………そのはずなのだ。




「な、ッ……なんで、こんな……ッ、……おかしくない? ちゃんと一〇歳、女の子で……ッングっ、……設定、したでしょ!?」


「単純にノワが一般的な女の子よりもよわよわってことじゃない?」


「ほぁッ!?」



『あっ……』『言っちゃった』『あーあ……』『海草』『ド直球ストレート草』『えげつねぇ』『よわよわわかめちゃんかわいい』『絶望顔たすかる』『ラニちゃん容赦ねえな』『草』『これは海草』『かわいそうかわいい』



 いやまさか。いくらなんでも、そこまでは。


 確かに……たしかに、設定プロフィールには『魔法補助の無いの体力はクソザコ』って書き加えた記憶はあるけども……その『クソザコ』がまさかこれ程までに深刻だとは思ってもみなかった。

 明確な数値やちゃんとした比較対照を設定しなかったばっかりに『クソザコ』部分のみが強調され、その結果想像を絶する『クソザコ』として再現されてしまった……とでもいうのだろうか。やだ、ありえる。


 日常生活やのときは、大なり小なり補助魔法を……それこそ息を吸うように行使できるので、さしたる問題もない。

 だが……今回のように『補助魔法使用禁止縛り』を自らに課したフィジカルトレーニングにおいては……実際この『わかめちゃん』の体力は、一般的な一〇歳女児にという現実に直面してしまったわけだ。




「…………っ、……ない……」


「……え? ごめんノワ、なんて? ……大丈夫?」


「っ……みとめない! わたしがっ、一〇歳の幼女よりもクソザコだなんて……! わたしの体力がう◯ちだなんて!! そんなの……ぜったい認めないから!!」


「ちょっ、女の子がクソとかザコとか◯んちとか言っちゃいけま」


「つぎ! 次のステージいきますから! このわたしが……このわかめちゃんが、クソザコナメクジじゃないって! しちゅーさ視聴者しゃんさんに証明しちゅしてやみやりにゃっますぷゃらから!!」


「なんて?」



『なんて?』『何て?』『しちゅー……何?』『うんち草生える』『なんて?』『シチュニャミパッパヤ?』『どうしたわかめちゃん女児か』『メンタルまで小学生に……』『かわいいかよ』『だめだこの女児早くなんとかしないと』『パッパヤ海草』『これは海草』



 コメント欄の流れが増し、盛大に草が生い茂っている気配が伝わってくるが、おれはそれらを一時的に、あえてシャットアウトする。外野の茶化しなんてもうに入らない。

 これまじでキレた。おれキレさしたら大したもんっすよ。もうゆるさねっすよ。


 こうなったら……全力で(※ステージ1の)ラスボスを倒し、クソザコのレッテルを払拭する。それを今日の配信の目標として設定し、おれは鼻息荒く次のチャプターステージ1-2へと足を進めた。




 待ってろよ、にっくき(※ステージ1の)ラスボスめ。


 そう……全てはおれのクソザコイメージ払拭のため。

 その首、このわかめちゃんが貰い受ける!




(※ステージ1の踏破ではゲームクリアにはなりません)




――――――――――――――――――――




(※ステージ1の踏破ではゲームクリアにはなりません)


(※あたりまえです)



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