第139話 【非常呼集】追いつめられたぞおれ




「あー……やっぱ結構なニュースになってんね。犠牲者出なくて良かったけど」


「そりゃそうっすよ、空港島が霧で覆われるとか前代未聞っすもん」


「それにしてもキリちゃんすごいよね! あんな大規模な術の制御とか、今のボクでもちょっと自信無いよ」


「んっ……恐縮でございまする」




 行きは可哀想なほど震えていた霧衣きりえちゃんも、帰りはニコニコかわいい笑顔だ。なんてったって空を飛ばなくて済む、ラニちゃんお得意の【繋門フラグスディル】が使えるのだから。


 を終えたおれたちは、【座標指針マーカー】を打ち込んであった例の別荘地のお屋敷入り口へと帰還。前もってREINで連絡をいれていたお陰もあり、無事モリアキと合流することができた。

 とりあえず昼メシ代の二千八百六十円(税込)を支払おうとするおれに対し、彼はさんざん抵抗した挙げ句『じゃあキリエちゃんの分はオレが持つっすよ』などと言ってのけた。イケメンかよ。


 ともあれ今度こそ、やっとおうちへ帰れるのだ。

 来たときと同様、車通りのほとんど無い無人の誉滝インターから高速道路に乗り……来たときと同じサービスエリアで小休憩を挟み、あとはモリアキの自宅まで一直線。日帰りドライブ小旅行はエンディングへと向かっていた。




「そういえば先輩、次の動画とか用意してあるんすか? 鶴城さんシリーズ全部投げちゃいましたよね?」


「ぶっちゃけ無い。だからヤバい」


「三が日アレだったから仕方ないとは思うんすけど……やっぱ金曜夜の『生わかめ』、楽しみにしてた視聴者リスナーさん多かったみたいすよ?」


「あー…………ぐぬぬ、気を抜くのが早かったなぁ。そっか、巫女さんバイト終わらせてそのまま生配信すればよかった……」


「「いやいやいやいやいや!」」



 車載テレビから流れるニュースが、例によって無責任なコメンテーターの持論に染まり始めたのを察知してか……モリアキが話題を切り替えようと持ち掛けてくれた。

 大紋百貨店の一件直後にラニがブチギレていた、あのコメンテーターのおっさんだ。正直おれもこのひとは苦手なので、意識して認識から外す。……ていうかチャンネル回す。


 ……そう、チャンネル。大手地上波サマのチャンネルなんかよりも、まずは自分のチャンネルだ。

 今後の配信および動画投稿に関しては、ずばりおれが今まさに考えていたことだったので、彼の知恵も借りられるなら非常にありがたい。



「さすがに……あんな激務終えたあとで配信しろとか、そんな酷なこと言えないよ。三日間のノワの働きは視聴者さんたちだって解ってくれてるハズだし。そのためにずっとたんだし」


「先輩の視聴者リスナーさんお行儀良いっすからね……まぁ演者が小さい女の子ってのもあるんでしょうけど」


「うう……じゃ、じゃあ……今晩あたりゲリラ配信、とか? いやクソザコ配信者がゲリラやったって誰も来ないかもしれないけど、アーカイブは動画で残せるし……」


「あぁー……いやそんな自虐的にならんでも……というか、普通に良いと思いますよ。ひと仕事終えたんで雑談枠~とかでも。みんな喜びますよ」


「あっ。じゃあじゃあ、演出? っていうのかな……ちょっとボクにやらせてもらって良い?」


「ほえ? 演出?」


「ノワの魅力を最大限に活かして、それでいて視聴者さんに喜んでもらう演出手段にね。ちょーっと心当たりっていうか、試してみたいことがあるっていうか」


「へえすごい。よくわかんないけど……ラニがそこまで言うなら、じゃあまかせる」


「へへへ。ありがとノワ!」



 最近はタブレットやらPCやらの扱いにも慣れてきて、どんどんアシスタント性能が上がってきている頼れる相棒ラニの、そんな思ってもみなかった申し出。

 おれはそこはかとない嬉しさを噛みしめながら……そんな彼女の企てる『ひみつ』の演出とやらに、いやがおうにも期待が高まる。


 とりあえずは今晩、突発的に生配信を行うことを決定事項として……おれたちは霧衣きりえちゃんも交えて今後の動画企画の案を『あーでもない』『こーでもない』と出し合いながら、にぎやかな車内のひとときを過ごすのだった。







――――――――――――――――――――






【都内某所・某広告代理店】



「…………すっげぇなこの子。本物? ホンモノのエルフ?」


「部長現実を見て下さい。フィクションに決まってるでしょう」


「いや……でもホラ、耳。耳めっちゃとんがってる」


「そんなん付け耳とかでどうとでもなるじゃないですか。……っていうか、エルフかどうかはこの際どうでも良いんですよ」


「わーってるって。……お前が持ってきた、ってことは配信者キャスターなんだよな、この子も。例のモニタープラン絡みか?」


「勿論です。登録者数はまだ一万弱ですが、開設ひと月も経たずにこのペースは」


「ヒト月で一万!? はっえ!!」


「…………ですので、今後の成長には大いに期待が持てます。……加えて、彼女は我々が当初懸念されていた『インドア系』への影響力も大きく、彼らに効果的な宣伝が行えるかと」


「……………………本音は?」


「ファンなのでのわちゃんと直接交渉したいです」


「ハッハー良いね! 正直者は嫌いじゃ無ぇ! オッケー解った。打診してみろ」


「ありがとうございます。部長なら解ってくれると思ってました」


「ならもっと愛想良くしてくれ」


「ならもっと待遇良くして下さい」


「………………」



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