第128話 【年始休暇】個性派管理人さん




 報奨目録に添付されていた鍵を使い、報酬として用意されたという別荘物件に足を踏み入れたおれたち。

 そこでおれたちを待っていたのは……天狗の半面を被った重装備メイド少女という、なかなかに個性的な管理人『狩野カノ天繰テグリ』さんだった。


 自己紹介の後に詳しい話を聞いたところ……やはりというか思った通りというか、この物件がきれいなまま保たれているのは、彼女の功績によるものらしい。

 その腰にガチャガチャと提げているツール類は、思った通り飾りなんかじゃなかったらしく……二十五年間もの間この物件を守り続けていた、いぶし銀の武器だったのだ。




「えっと……つまりテグリさんは、結界の外でも活動できる……んですか?」


「……そうですね。これでも一応は『天狗』の身となりますので。普段は山中を跳ね回っております。……あぁ、しかし今の私は契約で縛られておりますので……基本的には、この屋敷から離れることは叶いませんが」


「その、『契約』……っていうのが、このお家の維持管理……ってことですか?」


「……ええ、その通りです。『入居者が決まるまで建物の管理保全に努め、即日居住可能なように環境を維持し続ける』……それが、手前に求められた契約内容です」


「ちょっ、あの……入居者が決まるまで、って……あの」


「……御察しの通りです。現に手前はこの二十五年間、この屋敷とその近郊に縛られ続けることとなりました。……かつての大天狗が、今となっては座敷童の真似事です」


「「「………………」」」




 二十五年にも及ぶ放置プレイをかまされたと聞いて、おれとモリアキとラニの顔があからさまに引きつる。……というかつまり俺が今回この話を蹴ったりしたら、天繰テグリさんのがまた延びるということじゃないか。しかも上限なし。

 ……いや、ちょっ……断りにくいだろ。

 なんだかもう、何から何までフツノさまのてのひらの上で弄ばれてるような錯覚さえ感じてきた。あのひとおれの性格理解しすぎだろ。




「二十五年…………あの、まさか……ずーっとこのお家の中に?」


「……いえ。工具や資材を調達せねばなりませんし……もございますので。手前はこの屋敷から遠く長く離れること叶いませんが、麓や隣の裾野程度ならば遠出もこなせますので」


「え、あの……副業? 副業って何…………あっ、ごめんなさい。聞いて大丈夫なことでした?」


「……問題ありません。龍影様の許可も頂いておりますので。……ここよりすぐ下、川沿いに集落がありまして。何らかの設備や家屋が壊れた際にはその補修を請け負い、見返りとして若干の金銭や……生活に必要な資材を頂戴しておりました」


「便利やさん、ってことっすかね。……器用なひとは本当ありがたがられますから」


「あー……川沿いの集落って、あの『滝音谷温泉』のことか。……ええすごい、テグリさんあの温泉街の人と顔見知りなんだ?」


「……そうですね。それなりに良好な関係を維持出来ているかと」


「おぉー……すごい」



 このお家を万全の状態に保つための、いろんな工具や様々な技術……それらを腐らせることなく、ご近所さんの求めに応じて活かしてきたという。

 それはとても立派なことだと思うし、やはりテグリさんは根っからのいい人なんだろう。一見とてもクールで、ともすると冷徹とも取られそうな口調なのだが……彼女の言動の端々には、きちんと他者に対する思いやりを垣間見ることができる。


 何よりも……この個性的な格好にもかかわらず人々に受け入れられているなんて、そこに至るまでには並々ならぬ努力と苦労を要したことだろう。




「とっ、とりあえず……おれたちはその『入居者候補』ってことになるんだけど……お家の中、見て回っても良い?」


「……構いません。もとよりそのつもりですので。……御家族四名様、ということで宜しいですか?」


「!! はい!」


「ちょっ!? オレは付き添いっす! こちらの三名で! 何シレッと同居させようとしてんすか!?」


「だ、だって…………寂しいんだもん……」


「『もん』じゃないんだよなぁ!!」


「……それでは、僭越ながら手前が御案内を。この屋敷に関しましては、誰よりも詳しい自負がございますので」


「アッ、ハイ」「お願いします」



 とりあえず荷物や資料やその他もろもろをリビングスペースに置かせてもらい……ぴしっとした動作がきれいなテグリさんの先導によって、わくわく物件内ツアーが始まるのだった。





「……いやぁ、ボクは割とお似合いだと思うんだけどね、あの二人。さっさと同棲しちゃえば良いのに(ひそひそ)」


「えっ!? ま、まだ縁を結んでおられないのですか!?(ひそひそ)」


「そうなんだよね……あんなに仲良いのにさ(ひそひそ)」


「はぁ……奥手なのでございますね(ひそひそ)」


「だからさ、ほら。キリちゃんも積極的に行かないと、ノワ振り向いてくれないよ? 草食系だから(ひそひそ)」


「わ、わたくしは……わぅぅ……(ひそひそ)」



 ……背後から聞こえるひそひそ話は、あえてシャットアウトさせていただこう。おれはなにもきこえない。エルフイヤーだって休みたいときもある。

 おれは男だ。それこそこの若芽わかめちゃんのような、かわいい女の子が好きなのだ。


 ラニ帰ったら覚えてなさいよ。



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