第125話 【年始休暇】おれの完璧な宣伝計画




 長距離ドライブのときの醍醐味、そのひとつといえば……なんといっても、サービスエリアでの喫食だろう。

 その土地ならではの食材を使ったり、そのサービスエリアならではの趣向を凝らした商品に仕立てあげたりと……そこでしか味わうことの出来ない、まさに『名物』とでもいうべき目玉商品。それは全国津々浦々のサービスエリアに存在する、大きなセールスポイントである。


 そんな目玉商品をスルーするなんて出来るはずもなく……おれは当然のように運転手モリアキにサービスエリアへの寄り道をねだり――ラニと霧衣ちゃんの援護射撃もあって――晴れておいしいものを食べる権利をもぎ取ったのだった。



 ……のだが、しかし。




『先輩先輩。気づいてるとは思いますが……』


「まぁそうだよな。緑髪ロリエルフと白髪和装ロリだもんな。……案ずるでない、むしろそれこそ我が策略よ」


「? ……ワカメ様?」


「んん。気にしなくて良いよ霧衣ちゃん。おいしい?」


「はいっ! わたくし、斯様かような氷菓子は初めて頂いてございまする! 牛の乳がような甘味へと化けるとは……異国の料理は大変に興味深いでございまする」


「かわいいねぇ……」


「んふふ。ノワも可愛いよ」


「なんだと、ラニのほうが可愛いよ」


『はいはい皆クッソ可愛いくてございますよ!!』



 自前の【変化】の神秘によってかわいらしい三角耳を隠した霧衣きりえちゃんに対し……最近開き直りの境地に至ったおれは、自慢の緑髪と長い耳をさらけ出したままである。

 三が日を明けたとはいえ、一月四日とあってはまだまだ年始休みの人々も多い。高速道路のサービスエリアとあっては、帰省帰りに立ち寄る人も多いだろう。

 それなりに混雑している中で当然のように人目を引くおれたちには……これまた当然のように、スマホのカメラがちらほらと向けられていた。


 おれは黒の長タイツにローブのようなニットワンピを合わせ、その上にコートを羽織ったアースカラーのコーデ。割とありふれた格好なのに対し……

 いっぽうの霧衣きりえちゃんは……紺色の和服に臙脂えんじ色の羽織を合わせ、足先には靴下ではなく足袋たびと草履という完璧な和装。


 和装はただでさえ人目を引く上……この霧衣きりえちゃんの美少女っぷりよ。まだ幼げながらおよそ完璧に和服を着こなし、その所作も非常にさまになっている。

 彼女を見た人の誰もが思うことだろう。『あの可愛い子……いったい何者だ!?』と。



「モリアキも一緒にソフト食べりゃよかったのに。ツーショット撮ってもらおうぜツーショット。嬉しいだろ?」


『ツーショットには惹かれますがSNSやいたーに上げられて叩かれるのは嫌ですんで! あのハーレム野郎○ねとか言われんのが目に見えてますんで!』


「大丈夫だよモリアキ。ラニは姿隠してるし、ハーレムっていうよりは両手に花くらいにしか見られないって」


『いやそれ何の慰めにもなってませんよねェ!?』


「…………そのお耳の機械細工にて、モリアキどのとお話されているのでございますか?」


「うん、そう。……あー、霧衣きりえちゃん用のヘッドセットも買わないとね。おれ以上にモリアキのフォロー必要そうだ」


『あっ、じゃあオレコンビニ見て来るっすよ。……ついでに一服してくるんで、ゆっくりペロッてて下さい』


「ごめん、たすかる。今度パンツ見ていいよ」


「写真は任せて。バッチリえっちな感じに押さえとくから」


『まーた喜ぶべきか怒るべきか判断に悩むことを!!』


「ソコでちょっとでも喜んだり悩んじゃうあたりさすがモリアキだよな」


「さすがだよね」


「?? さすが、でございますか……?」



 姿を眩ませたままおれの右手に腰かけた白谷さんが、茶目っ気たっぷりにヘッドセット越しのモリアキへと語りかける。屋外空間の雑踏の中では、そんなどこからともなく響く小声を気にする人なんて居やしない。

 遠巻きにスマホカメラを向ける人たちに、ラニとの会話を聞かれる心配は無い。


 そうとも。彼ら彼女らは今、緑髪のロリエルフと白髪の和装ロリという和洋折衷ファンタジーなおれたちを……この尊い空間を写真に収めるので忙しいに違いないのだ。

 いいぞ、もっと撮るが良い。おれがゆるす。撮ってSNSつぶやいたーに載せてつぶやくが良い。

 ……というのも、この世界において緑髪ロリエルフとあれば、それはそのものずばりおれのことを示すのだ。緑髪エルフの目撃情報が増えれば増えるほどおれの知名度が上がっていき、つまりはそれが『のわめでぃあ』の周知に繋がるのだ。


 これといって費用も手間もかからない、おおよそ完璧な周知作戦。犠牲となるのはおれの羞恥心のみ。

 を代償とした、ってやかましいわ。



 お上品にぺろぺろと舌を這わせる霧衣きりえちゃんと、小さなお口で可愛らしくついばむラニの様子を堪能しながら……おれは自分で自分に突っ込みつつも、この幸せな風景を心のファインダー(とちゃっかりゴップロカメラ)に、しっかりと収めたのだった。



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