第124話 【状況整理】不良在庫一掃セール
山あいの高速道路インター(といっても無人のスマートインター、しかも大変こぢんまりしたもの)にもそれなりに近い、しかしその反面電車やバスの路線は絶望的な、山の中腹に拓かれた別荘地……だった場所。
バブルの崩壊に伴い別荘地の販売が中断され、売れ残り区画を全部まとめて統合し、モデルハウス別荘も建売物件としてオマケで付けて……しかしそれでも尚買い手がつかずに長らく焦げ付いていた、坪単価にしてなんと千円そこらのワケアリ物件。ヤケクソすぎる。
眺望良好、電気水道引き込み済。別途費用により温泉引き込み可能。最寄りの温泉街まで徒歩五分。しかしながら、
肝心の別荘は、築二十五年の5SLDK。これだけでもふつうに驚く豪邸なんですけど……その敷地面積に至っては、なんと二千八百坪。
にせん、はっぴゃく、つぼ。
もう呆れるしかない。
参考までに。この浪越市の一般的な住宅地において、一軒家とちょっとした庭と駐車スペース二台分を含めた平均的な敷地面積が……だいたい四十から五十坪前後、といったところだ。
平米に直すと……なんと、じつに九千平方メートルを優に越える。
よく用いられる例えで換算するならば……東京ドームが〇.二個分かな。……うん。逆にわかりづらくなったわ。
た…………確かに、おれの思い描いていた通りの条件を満たす物件ではある。
それに、周辺は人里離れた山林。別荘地(だった場所)とはいえ最寄りの隣家も相当離れているだろうし……この分なら【
唯一の懸念となる『接道なし』および公共交通機関の脆弱さに関しても……白谷さんの【
買い物の際なんかは荷物ごと【門】で飛ばしてもらえば良いし、このご時世通販ならば自宅の玄関に届けてくれる。遠出するときとかもどこかの駅に【門】を繋いでもらえば良いし、そもそも目的地に直で飛んでも良い。
とはいえ、肝心の建物部分に相当ガタが来てないとも限らないし……もしかしたら居住可能になるまで、相当の手間と費用が掛かるのかもしれない。……かもしれない、が。
……だとしても、考えれば考えるほど『魅力的な物件である』との思いが沸き上がってくる。
田舎生まれの血が、中途半端とはいえ培われた
ちくしょう。
くやしい、でも神様すごい。
「と、とりあえず…………先輩がスッゲぇ方々とお近づきになったってのは解りました」
「…………本当に……貰っちゃって良いの? これ……」
「えーっと? 『氏子に頼まれ買い上げ、引退した神使に使わせようと画策して居たが……交通と周辺環境が不便過ぎて大変不評だった。シラタニ殿の権能が在れば活かせようと思い至り、
「リョウエイさんかな……ぇえ、まじで……まじ…………ちょっとまって……」
「あっまだ続いてるっすよ。『追伸。放送局の益々の発展、……ヨリョク? 共々期待している』だそうです」
「……ヨリキ、か。そっか。…………そっか」
おれの放送局を……魔法情報局『のわめでぃあ』の今後の発展を、
この法外な報酬は、その期待の現れでもあるということだろう。……そういえばフツノさまも『演目に対する投資』と言っていたっけか。
であれば……この誰も欲しがらなかったという物件を、活かせるおれたちがありがたく頂戴し、そこから今後よりいっそうおもしろい動画を配信し続けることが、
「…………突っ返したら……フツノさま怒るよね」
「恐らくは。あのお方の気性から察しますれば……」
「後で目を通せ、ってのがまた……手が込んでるね。お返ししようにも『一度受け取っただろうに』とか言って突っぱねるつもりなんだよ、どうせ」
「目に浮かぶようだよ。……ありがたく頂戴するしかないか」
「……左様にござりまする。頂戴しました後に改めて御礼にお詣りする方が、あのお方も喜ばれましょう」
「じゃ、じゃあ……あの、先輩。……とりあえず」
「お、おう。……そっ、そだな、……とりあえず」
やっぱり、なんだかんだでおれたちは健全な男子だ。
おれは見た目こそこんなになってしまったが……ちっちゃかわいい和服美少女にときめいてしまったり、一国一城の主にあこがれたりと……その心は紛れもなく男子だ。
であれば、こんな心踊る物件。
当然……気になるに決まっている!
「「見に行って
ここからなら……およそ九十キロメートル。高速道路を使えば、一時間半程度で到着できる距離だ。
好奇心に火のついたおれたちは、そのままモリアキの軽自動車にお邪魔することになり……ちょっとした、しかし賑やかなドライブが幕を開けたのだった。
ちょっと遅めの年始休暇、満喫させてもらおうじゃないか。
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