第123話 【状況整理】正当な対価ァ!?



 白ごはん。だし巻き玉子と、お味噌汁。

 サバみりん干し、青菜のおひたし。


 おはようございます。朝の一句、お届けしました。

 どうですかこの見事すぎる一汁三菜。おれのために早起きして朝ごはん作ってくれたんですって。お嫁さんかな。

 ……にしてもサバとか青菜とか、そんな食材買ってあったっけ?



「モリアキ氏のトコにちょこっとお邪魔してね。くすねてきた」


「くす――――!?」


「っていうのは冗談だけど……ノワの朝ごはんに良さそうなモノをね、ちゃんと相談した上で恵んでもらった。軽くご報告がてら、ね」


「……そだな、モリアキにも報告いかないと。霧衣きりえちゃんありがとうね、ごはん」


「いえ、お気になさらず! 当然のことをしたまででございます」



 アッこれはやばい。得意気な霧衣きりえちゃんの笑み、これはとてもやばい。思わず抱っこしてあたまなでなでしたくなるくらいヤバイ。

 というかシチュエーションが既にヤバイ。白髪狗耳和服美少女がおれのために朝ごはんを作ってくれたというシチュエーションで既にごはん三杯分くらいヤバイ。

 ずばり『わかめちゃん』の設定に現れているように、ぶっちゃけおれは恥ずかしながらがあるのだ。控えめに言って霧衣きりえちゃんは、なにがとは言わないがとても。何かが色々とヤバすぎてつまりおれの理性と語彙力がヤバイ。


 おれの中に存在する悪しき性癖を、なけなしの理性を総動員して押し留め……おれは表面上は平静を保ち、お盆に載った朝ごはんを自室のコタツテーブルへと持っていく。

 ……食卓も用意しないとな、本当に。




「えっと、じゃあ……いただきます」


「「いただきます」」



 小さなコタツテーブルを囲み、三人で健康的な朝ごはんをいただく。

 ……最初はおれ独りぼっち。そこへ小さな相棒が増えて……ついには三人。いつのまにか賑やかに、そして華やかになった。

 それ自体はとても嬉しいことだろうが……この部屋と食卓の密度を改めて眺めると、悠長なことも言ってられなさそうだ。白谷さんはコンパクトに収まっていたとはいえ、霧衣ちゃんはそうはいかない。


 やっぱり、すべきだろうな。……引っ越し。



「ワカメ様……? お口に合いませんでしたでしょうか……」


「えっ!? ……あ、ちがう! ちがうちがう、すごい美味しい! ……ごめんね、食事中に考え事すべきじゃなかったね。ごはんありがと、霧衣きりえちゃん」


「…………ん。……恐縮に……ございまする」


「ヴッ…………」



 霧衣きりえちゃんのKAWAIIに当てられ、下唇を噛んで必死に理性を保ちながら……おれはこの幸せながらも試練じみた朝餉を堪能したのだった。





……………………………





「……というわけで! 物件を探そうと思うんですよね!」


「いやいやいやいやいや! どういうわけっすか!? …………ってかこの子どなたっすか!?」


鶴城つるぎさんからお預かりしました霧衣きりえちゃんです。一緒に住むことになりました」


「いっ……!? 住むって…………えっ!?」


「そう、それ。だいたいモリアキが今思ってる通りの懸念がまさにあるわけだ。……察して」


「アッハイ。そういうわけっすね」



 朝ごはんを食べ終え、後片付けを頑として譲らない霧衣きりえちゃんにおれが根負けして、おれがシャワって身支度を整えた後……おれたちご一行様はラニに【門】を繋いでもらい、頼れる同志モリアキ氏の自宅へと強襲を仕掛けたのだった。

 ラニにとってはついさっきぶり、おれにとってはしばらくぶりとなる訪問。

 霧衣きりえちゃんにとっては……当然、初めての対面となる。



霧衣きりえと申しまする。まだまだ若輩者の身にございますが……宜しくお願い申し上げまする」


「エッ、アッ……ど、どうも。……モリアキ、と……名乗ってます。ハイ」



 ツヤッツヤのキラッキラで綺麗な白髪と、ぱたぱたと跳ねる三角形の耳。どこか幼さを残しながらも整った鼻筋と、頬から顎にかけてのまるみをおびたラインが美しい和服美少女が、三つ指突いてご挨拶を述べているのだ。

 おれ同様女性に対する免疫が乏しいモリアキが挙動不審になるのも致し方ないことだったし……だからこそ、おれの今現在の葛藤をすぐさま理解してくれた。


 女の子といえば画面の中、彼女といえば一個下(※次元が)としか付き合ったことの無いおれたちのような人種にとって……美少女との同居など、ぶっちゃけ『嬉しい』を通り越してちょっと『こわい』のだ。



「でも実際、引っ越しっつっても先立つものが必要なわけでしょ? 先輩、今動かせる資金って余裕あるんすか?」


「まぁ……おれの口座にまだ幾らか残ってるし。物件契約して諸費用払って引っ越しして、三ヶ月くらいなら家賃賄えると思うし……それに、今日中には報酬が振り込まれるらしいし」


「はっやァ!? ぇえ、昨日の今日っすよ? スゲェっすね鶴城つるぎさん……」


「そう、すっげぇんだわ……もうびっくり」



 そうだ、そういえばフツノさまは『幾らか色を付ける』と言っていた気がする。

 魔法情報局『のわめでぃあ』としてお仕事したぶんの報酬に手を付けることは憚られるが……おれに対する『迷惑料』としてられた部分だったら、引っ越しその他諸々の費用として充てても怒られないのではないだろうか。

 ……というか、そもそもおいくら振り込まれてるんだろうか。まずはそこだ。



「そだそだ霧衣きりえちゃん、目録って見せてもらって良い?」


「はい。こちらに。失礼致しまする」


「いやぁー…………クッソ可愛いっすね」


「わかる」「それね」



 おれやラニとは根本的に違う、生まれも育ちも百パーセント純粋な美少女。

 見るからに女の子らしいその完璧な所作に、中身が男のおれたち三人は少なからず心をときめかせながら、しずしずと差し出された報奨目録を手に取り、開き……



 開、き………………






「先輩」


「………………」


「正直に吐きなさい。何やったんすか先輩」


「……………………しら、ない」




 そこに記された金額……ゼロが六つ並んだ支給額に、言葉を失った。




「巫女さんのアルバイトって! せいぜい時給千円前後でしょう!? 夜勤手当てと長時間手当て考慮したとしても、どんだけ多く見積もっても一日三万は届かないっすよ!?」


「し、しらない! おれわるくない!」


「じゃあ何なんすかこの七桁は!! ナニで稼いだんすかこの七桁!! 延長で三が日頑張ったのは知ってますけど、だとしても大晦日と合わせて四日間すよ!? 明らかに桁ひとつ違いますよねえ!?」


「ちがうの、これはちがうの」


「あのね、モリアキ氏。……言いにくいんだけど」


「なんすか!?」「ちょっ、ラニ!」



 白熱するモリアキの追求に差し込まれた、ラニの発言。

 思ってもみなかった相棒の裏切りに驚愕するおれだったが……事態はそんな生易しいものじゃなかった。




「ボクちょっとまだニホンゴ読むの自信無いんだけどさ……『土地』と『家屋』」


「……土地と家屋?」


「うん。『土地』と『家屋』を譲渡する……って見える気がするんだよね」


「「…………は?」」


「っていうか、これ。これさ……もしかしなくても、カギだよね」


「「……………………は??」」





 確認すると良い、って言ってたのは……つまりは、そういうことか。


 あの場で確認させなかったのは……そういうことだったのか!




「先輩。…………何があったんすか」


「…………えへっ。……えへへ」



 はあはあ。なるほど。そーいうことね。

 いやもう、本当に鶴城つるぎさんは……フツノさまは、やばい。


 そんなやばい神様とおちかづきになってしまったという、やばすぎる事実。

 おれはさすがにそろそろ誤魔化しきるのは無理だと判断し……モリアキにことの顛末を包み隠さず共有することを試みた。



 ……そこ。

 最初から無理があったとか言わない。



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