第111話 【年末騒動】ちょっと通りますよ
おれの頼れる相棒……元勇者・現フェアリーガールの、白谷さん。
彼女の生命活動の維持、ならびに彼女が行使する魔法によって消費される魔力は、現在その全てをおれが負担するところとなっている。
おれ自身の魔力貯蔵量がそもそも非常識らしく、あまりに気にしたことは無いのだが……湯水のごとく使いまくればいつかは枯れることだろうし、そもそも『魔法』の行使に慣れていない頃なんかは頭の芯が重くなるような不快感に悩まされることもあった。
だが、幾らか魔力消費にまつわる自己研鑽を重ねたことで、今や単純に非常識な魔力保持量となっている。
そこへきて、おれと魂を重ねた相棒の存在だ。
彼女の消費する魔力はおれが負担しているとはいえ、総量に対する割合は微々たるもの。
つまりは超超巨大な貯水槽にこれまで一つだけ備わっていた蛇口に加えて……高度な自律思考能力を備え、高精度な挙動で、貯水槽に負荷が掛からない規模で適切に
……なんだか言いたいことがよく解らなくなってきたが……要するに『白谷さんの消費する魔力も元を辿ればおれの魔力』であり、白谷さんに供給する魔力も『おれの消費魔力』として計上されるということであり、結論としましては『白谷さんが使う魔法にも『豊穣』の護符の消費魔力軽減効果が乗る』という……つまりは、あれだ。税金逃れというか、知るヒトぞ知る魔力軽減のお得な裏技、てきな。伝わるかなぁこれ?
「百歩譲って言いたいコトは解るけど……キミ以外に魔力軽減の裏技が必要なヤツって誰が居るのさ」
「居ないかなぁどっかに! リ美肉おじさん居ないかなぁ!!」
「リ、ビ……? ……帰ったら調べよう。とりあえずほら、
「もー! 【
「
おれの苛立ち紛れの魔法行使を、思考の奥底で繋がった白谷さんが正確に汲み取り、荒っぽいおれのフォローをすべく魔法を重ねて展開する。
長さ百センチ程の細く鋭い円錐形の氷塊、それに速度を付与して質量弾として撃ち出す【
ついでに【回廊】の出口も塞いでしまう。コッチがわ以外を完全に閉じられた、まさに袋のネズミ状態である。
「【
「…………こいつはえげつない」
こちらの意を察して【回廊】状の狩場を造ってくれた白谷さんに応えるべく、おれも少々方針を変える。三十二本を一直線に飛ばすのではなく、微妙に射角を変えつつ放射状に一斉射。
……すると、まぁ……水平あるいはそれに近い角度で放たれた氷槍は『葉』の体を貫き、抉り、削りながら飛翔するが……そうでなかった氷槍は壁や床や天井にぶち当たり、鋭く細かな破片となって跳ね返る。
弾体が損壊し砕けようとも、一度付与された運動エネルギーが霧消することは無い。氷の散弾は『葉』の体を大きく
ほんの数秒、けたたましい破砕音が止んだ三階廊下部分には……赤黒い
「無茶するなぁ……ボクが居なかったらどうするつもりだったのさ」
「ラニが居ない生活なんて考えたくない」
「この子はもぉー! 可愛いなぁまったくもー! 好きにやっちゃって! ボクが許す!!」
「えへぇー」
間の抜ける会話をしながらも、周辺警戒は怠らない。防壁の【回廊】を解除された廊下、左右に連なる店舗テナント部分に潜んでいた『葉』を
目指すは……この駅ビル上部に潜む生命反応群、つまりは『苗』の保持者が立て籠る一画。大まかなゴール地点は把握できているので、そこへ至るためのルートを逆算していく。
とりあえず目指すべきは、階段ホールだろう。大階段で地上階ピロティと直結していたここ三階改札フロアと異なり、ここから上は階段ホールに階段が集約されているハズだ。
……もしかしたら一階部分にもその階段ホールがあったのかもしれないが、おれが普段使うルートは大階段を昇るルートしか知らない。だからこのルートを自然と選んでしまっても仕方が無いし、つまりおれはわるくない。
「…………何ふてくされてんのか解んないけど、行くよ? コンディション大丈夫? 嘘言ったら揉むからね」
「大丈夫ですゥー!」
今や敵地と化した駅ビル。その真っ只中にありながら、いまいち緊張感に欠けている自覚のある言動のおれたち。
その余裕っぷりも……まぁ、仕方の無いものだというか。実際のところ『葉』は耐久力こそ上がっているものの、その動きは相変わらず緩慢であり……数は多いが、そこまで恐れるほどの事でもなかったのだ。
駅ビル三階フロア商業スペースにて無事に階段ホールを発見したおれたちは、階段ホールにひしめく『葉』をこれまたちぎっちゃ投げちぎっちゃ投げしながら着実に進み、ついに五階フロアへと到達した。
このフロアのいちばん奥……確か百均ショップが入っていたあたりが、白谷さんの探知魔法に引っ掛かった『生命体』たちが居座る場所だ。
おれたちは気合いを入れ直し――とは言いながらも、これまで相手取ってきた『葉』の脅威度からそこまで警戒を高め過ぎることも無く――
あと少しで、目的地に到達できる。
そうすれば、すぐに事態を解決できる。
そうすれば……巫女さんのお仕事にも、遅れなくて済む。
来てくれるかもしれない視聴者さんたちを、悲しませなくて済む。
こんな局面において、そんな見当違いの思考にうつつを抜かす。
それを油断、ないしは慢心と言わずして……いったい何と言うのだろうか。
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※ねたばれ:この作品はべつに大してシリアスにはなりません。
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