第99話 【報告配信】今期役員のご紹介
暗転の中で白谷さんが飛び回り、光量と明度が復帰した、その直後。
カメラに映ったものが、画面に映ったものが、その目に映ったものが……それが
コメント欄のスクロールが一瞬とはいえ明らかに停止し、親愛なる視聴者諸君が等しく混乱している様子が見て取れた。
それもそうだろう……おれのせいでファンタジーな出来事に免疫がついていた視聴者さんたちであっても、さすがに妖精さんの出現は予想だにできなかったに違いない。
なんでも、おれこと若芽ちゃんの検証wikiなんてものがあったらしく……いわく『木乃若芽ちゃんは実在する』『
まぁ、その結論が出された直後におれが伊養町に出没したとのことで……SNS上での多数の目撃証言と併せて『木乃若芽ちゃんが実在している』という説は事実であると、多くの人々が知るところとなったらしい。
しかしながら……そんな事実をとりあえずとはいえ受け入れてくれた、よく訓練された視聴者さんたちにとってみても。
漫画やゲームやラノベの世界でしかお目にかかったことの無い存在が出現したとなれば、やはり困惑と混乱は避けられなかったようだ。
「やーっとお披露目できたね白谷さん! わたしも白谷さんと共演できるの、本当たのしみにしてた!」
「んふふふふ。嬉しいこと言ってくれちゃって。……でもなぁ、そんな『白谷さん』なんて……他人行儀な呼び方されたら、ボク悲しいよ。…………ね?
「んんっ。……ごめんって。………えっと……………
「どぉーーよ視聴者諸君! 今の見た!? 聞いた!?
「待って待って待って待って!! 『ボクの』って何よもう白谷さん!! 視聴者さんたちもほらあ! 真に受けちゃダメで……ちょっ…………ダメだってばぁ!!!」
呆然自失となっていた視聴者さんたちも、白谷さ…………もとい
そんな非常に喜ばしい
「もぉ…………改めまして。……わが『のわめでぃあ』の新スタッフにして、わたしの頼れるアシスタント妖精さん。その名も『白谷さん』です!」
「どうもどうも。ご紹介に
「わたし以上にファンタジーな種族ですからね……日本国の命名規則に
「おっけー。ボクはこの『のわめでぃあ』で、主にノワの補助や裏方を担当している。たまにこうして……今みたいに、ノワと二人並んで動画に出ることもあるだろうけど、そのときはどうか宜しく。二人じゃなきゃ出来ないようなことにも、積極的に挑戦していきたいね。好きなものはノワと可愛い女の子と小さくて可愛いエルフの女の子。苦手なものは……早起きと…………孤独、かなぁ」
「待ってわたしは聞き逃さないですよ。『孤独、かなぁ(物憂げ微笑)』なんてキメ顔しちゃってるところ申し訳ないですけど、わたしは流しませんよ! 白谷さんの自己紹介なんですから。真面目にやってください、真面目に!」
「んフフフっ。……心外だなぁ、ボクはいつだって大真面目なのに」
「ウソはいけませんー! わたしにウソはつうじませんー! ……まったく、これだからフェアリーっ子は」
生真面目で良い子ちゃんな若芽ちゃんと、飄々としているようで一途で器用な白谷さん。どちらも(中身はこの際気にしないことにして)ファンタジー色が非常に濃い、それでいて可愛らしい女の子だ、
見目麗しい女の子どうしの、根底で深く信頼し合っているからこそ出来る言葉の応酬。両者の深い信頼関係を垣間見てくれたのだろう、視聴者さんたちも好印象で受け入れてくれたようだ。何はともあれ、見た目は非常に華やかなペアだと思う。中身はこの際気にしないことにして。
ふと何気ない風を装い、カメラの横に置いてある電波時計をこっそりと確認する。
ここまでは概ね
質疑応答、プラン『T』。
「……というわけで、白谷さんへの質問を……今から! 募集します! わたしの
「そういえば『どしどし』っていう言葉さ、あれほぼ『おたよりを送ってもらうとき』専用になってるよね。他で使ってるケース無くない?」
「えっ? …………あっ? ………ああ、……ほんと…………かも?」
「あとさ……あれ。『川上から大きな桃が流れてくるとき専用』の擬音語もあるよね。ニッチすぎない?」
「なんでそんな日本人離れした容姿なのに日本語文化に詳しいの? 頭バグるんだけど??」
「そりゃあ『とても賢いエルフの女の子』のアシスタントだから、肩書きに恥じないようにね。こう見えて勤勉なんだよボクは。知
「その調子で
「こいつは手厳しいことで」
とりとめのない会話をしているようで、その実のところは単純に時間稼ぎだ。単に『ぼーっ』と突っ立って待っているのも芸がないので、今回は『せっかく二人いるんだからくっだらねえ会話で駄弁って時間潰そうぜ』作戦を適用した形である。
おれの
やっぱり二人いると、場の繋ぎひとつとっても非常にやりやすい。次回以降は白谷さんの出演と協力が見込めるので、演出の幅も広がることだろう。
……というわけで、そろそろ良いだろう。
なにせ、世界初となるフェアリーの女の子である。気になることも、聞きたいことも、人々の興味は際限無く涌き出てくるに違いない。
「ではではまぁまぁ、質問コメントも集まってきたので、そろそろ始めていきましょう! 題して……質問コーナー『ラニおしえて』!」
「題してっていうか……驚くほどそのまんまっていうか……」
「細かいこと気にしないの! さあどんどんいくよ! 覚悟しなさい!」
「ぇえぇ……まぁいいや。受けて立とうじゃないか」
巫女服姿のエルフの少女が妖精の女の子へと話しかけ続け、それがインターネットで全世界へ発信されるという……冷静に考えてみれば情報量がとにかく多い、ただただ混沌きわまりない謎だらけの配信。
狂乱の宴はまだまだ始まったばかりだぞ。
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