第98話 【報告配信】現在の業績報告





「ヘィリィ!! ご機嫌よう、親愛なる人間種のみなさん! 魔法情報局『のわめでぃあ』、局長の木乃若芽きのわかめでっす! いぇい!」



 軽快なBGMが流れ出し、静止画が取り下げられ、入力信号が繋がれたカメラがおれ若芽ちゃんの姿を捉え……ついに生配信のオープニングが始まる。

 とりあえず何はともあれ、元気いっぱいの挨拶。小さくて可愛らしい子に気持ちの良い挨拶をされて、それで気分を害する人はほぼ居ないだろう。


 つまり……おれ若芽ちゃんの元気な挨拶は、有効範囲がハチャメチャに広い万能の必殺武器なのだ。


 しょっぱなからその必殺技をお見舞いした上に……今日の若芽ちゃんは攻め手を緩めやしない。なんてったって、目にも鮮やかな緋袴での登場なのだ。

 ……ふふ、さっそく驚きのコメントが届いてますね。良い反応をありがとう。




「この年の瀬のお忙しい中『のわめでぃあ』をご視聴いただき、本当にありがとうございます。生まれたばかりの零細放送局ですが、吹き飛んでいかないように精いっぱい頑張ります! ……そう! ランクがですね! わが『のわめでぃあ』の配信者ランクがですね! 先日なんと…………オブシディアンに昇格しました!! 本当にありがとうございます!!」


「オブシディアンはですね……ユースクYouScreenさんの配信者階級ランクのうち、下から二番目ですね。放送局を開設したばっかりのときは、もちろん一番下のクォーツだったのですが……千人もの視聴者さんにチャンネル登録を頂いたことで、このオブシディアンに昇格することができたんです!」


「開設からわずか二週間弱ですよ! 驚きの速さじゃありませんか!? ちょっと……いえ、正直言いますと……かなり興奮しちゃっています!! ほんと信じられな……感無量です! 重ね重ね、本当にありがとうございます!!」



 真っ白な壁紙が張られた部屋スタジオの壁に投影した背景に、『祝・チャンネル登録者数一〇〇〇人突破!!』とデカデカ書かれた看板を投影魔法で投影する。ぱちぱちと可愛らしく拍手するおれの姿に、コメントがまた一段と加速していく。

 コメント欄には歓声の中に、一部確かな混乱が見て取れるが……あえてこの装いにはまだ触れず。あたりさわりのない――しかし大切な――ご報告と、本心からのお礼のお言葉を、まずはしっかりと伝えておこう。


 ……と思っていたのだが……ちょっと予想外な展開となっていたようだ。ちょっとここまでは予想していなかった。



「……? …………はい!?? え、ちょ……五千人!? いま!? 待って待って待って……え!? あっ! 本当!! えっ、うそ!? うそじゃない!! 五千人!! ゃわーー!!?」




 この生配信が始まる直前か、あるいは始まった直後か……どのタイミングだったのかは把握できないが、少なくとも今現在は『五〇〇〇人突破!!』しているらしい。……すごい。

 背景に投影した『祝・チャンネル登録者数一〇〇〇人突破!!』の『一』の部分にキュッキュッと書き足して……ちょっと不格好だが『五』にしてしまう。


 撮れたて新鮮産地直送の、モーニングルーティーン動画が琴線に触れた方々が多かったのだろうか。それとも『実在するエルフの女の子』という特徴的なキャラクターに、物珍しさと期待感を抱いて貰えたのだろうか。はたまた非常に完成度の高い、『本物』仕込みの巫女装束による話題性の賜物だろうか。……あるいは、それら全ての相乗効果によるものか。

 千人の大台に乗ってひとごこちついたことは覚えているのだが……ここ数日の目まぐるしいリアル事情のせいもあって、リアルタイムでのチャンネル登録者数を確認していなかった。


 そのことが幸い……というわけでは無いかもしれないが、我ながらなかなかリアルな『驚愕』のリアクションが出たと思う。いやだって、九割は素だし。



 だってだって……五千人だぞ。千人の五倍だぞ。ファイブサウザンドだぞ。フュンタウゼントだぞ。

 フュンタウゼントにんっていうたら……あれやぞ。東京国際フォーラムのAホールとか、パシフィコ横浜の国立大ホールが埋まるくらいやぞ。全国ツアーレベルなんやぞ。……わかりにくいか。


 まぁ要するに……すごくいっぱいってことなのだ!!



「…………っ、…………はふ。すみません、取り乱しました。お見苦しいところをお見せしてしまいました。……でも、本当にありがとうございます。ユースクYouScreenさんの収益支援プログラム、順調に近づいてきてますよぉ!! わたしも『のわめでぃあ』も、これから今まで以上にいろいろと頑張っていきますので……ご指導ご鞭撻お付き合いのほど、どうか宜しくお願い致します!!」


「よろしくおねがいしまーす!!」



 ピシッと『気をつけ』の姿勢を取り、綺麗なお辞儀を深々と……まるでお手本のような最敬礼。身に纏う神聖な衣装の効果もあってか、なかなかに真摯な姿勢に映ったのではないだろうか。



 それと……おれの挨拶の後に続くように、元気よく響いた可愛らしい『謎の声』。

 ちょっと予想外の……予想以上の出来事こそあったものの。おれからのアイコンタクトを的確に読み取った相棒は、あらかじめ打合せしていた通りにその存在をアピールして見せた。


 耳敏くもそれに気づいた視聴者さんたちによって、コメント欄は一気に盛り上がりを見せていく。

 ……頃合いだろう。目玉商品そのいち、そろそろ行ってみようか。




「おやおやおやおや……? 今なにか、可愛らしい声が聞こえましたか? ………………ふふふ。じつはですね、わが『のわめでぃあ』に……なんと! 新しいメンバーをお迎えしています!!」


「ふふふ。……はい、そうですね。先日のお料理動画『おはなしクッキング』のときにも、実はアシスタントとして活躍してくれていました! 今朝投稿した『モーニングルーティーン』でも……あっ、そう! 実は動画一本投稿してるんですよ! モーニングルーティーンです! まだのひとは、あとでぜひ見てみてくださいね!」


「っと、ちょっと横道に逸れちゃいましたが……そうなんです! 度々お騒がせしている、あの可愛らしい『謎の声』さんです!! ……気になります? 気になりますよね! いいですとも! ご紹介しましょう! 『どうぞ!!』」



 おれの合図の直後……部屋の照明が一気に落とされ、また白谷さんの魔法によって全ての光量が支配され……カメラが写し出す範囲はもののみごとに真っ暗闇、手作業による暗転状態へと切り替わる。

 そんな中をおぼろげな光の塊――自ら光を放ちながら飛翔する白谷さん――が、虹色の燐光を振り撒きながら縦横無尽に飛び回り……やがて画面の中央でひときわ眩い光を放つと、部屋スタジオ内に光が戻ってくる。


 今度は逆に一度ホワイトアウトした画面から、ゆっくりと映像の明度を落としていき……ついにカメラが姿を――地球史上初めてとなる、フェアリー種の姿を――全世界へと、リアルタイムで公開してのけた。




「ヘィリィ! 親愛なる人間種……わが『のわめでぃあ』視聴者の諸君! ボクはあるじに賜りしめいは『シラタニ』。……ご覧の通り、ちょっと珍しい『フェアリー種』だよ。……よろしくね、人間種諸君」





 穢れなき新雪のような、白銀に煌めく髪。

 澄みきった空のように透明感のある、天色の瞳。

 その背には薄っすらと虹色に輝く四枚のはねをもつ、手のひらサイズの高位魔法種族……フェアリー種の女の子。



 おれの大切な相棒、ラニこと白谷さんが……初めて人前に姿を表した瞬間だった。



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