第97話 【配信当日】待機場観察
「…………んフフッ」
「……?」
「………………ブフッ! げっほ、え゛っほ」
「…………何してんの? さっきから」
決戦となる金曜日。時刻は二十時……もうすぐ三〇分。
ほんの先刻、【門】を借りて鶴城神宮へと行って帰ってきたおれの衣装は……狗耳白髪ロリ
色々と慌ただしかった前回の配信とは異なり、早めはやめで準備を進めてきた今回。
配信待機ページもかなり前からオープンしてあったので、配信開始時刻を間近に控えた今現在……そこでは、非常に活発なコメントの応酬が繰り広げられていた。
「白谷さんもこっちおいで。いっしょに見よ」
「んー? なになに……おお、これ全部視聴者さん?」
「そうなんですよ! ここで二十一時から配信するんだよ、おれたち!」
「ほほぉーー……彼らは待っててくれてるわけか。ノワを」
「おれだけじゃないよ、白谷さんもだよ!」
電波時計が二十時半……配信開始時刻のちょうど三十分前を示したことを確認し、
この配信ページへの直飛びリンクも張ってあった
まだ配信そのものは始まっておらず、ちょっといたずらっぽい笑みを浮かべた
配信開始時刻までのカウントダウンタイマーこそ回っているものの……現時点では取り立てて視聴するほどの価値があるページとは、お世辞にも言いがたい。
にもかかわらず……まだ放送が始まっていないにもかかわらず、おれたちの親愛なる視聴者さん達は、稼働しているコメント投稿機能を用いて
その歓談の内容は言うまでもなく『若芽ちゃん』と……謎の声こと白谷さんに関してだ。
おれがしつこいくらいに『重要なご報告があります!!』とアピールしてきたからだろう。お料理動画で、今朝投稿したモーニングルーティーン動画で、度々お騒がせしている可愛らしい『謎の声』の正体がついに明かされるのだと、みんな期待してくれているようだ。
……しかし現実は甘くない。その『謎の声』の正体発表さえ、今夜の『重要なご報告』の一部に過ぎないのだ。
「『謎の声』の中身モリアキ説……根強いなぁ。一回『ちがうよ』って明言したったハズなんだけど」
「まぁ他に心当たりというか、候補が浮かばないんだろうね」
「モリアキが『美少女』呼ばわりされてるのウケる」
「内面は可愛らしいところもあるんだけどね……」
しばらく漠然と、流れていくコメント欄に目を通していたが……やっぱり第三者がおれのことについて楽しそうにお話ししてるのを眺めるのは、なんというか……うれしくも、こそばゆい。
このページを見ている人は、つまり全員がおれの
おれに着せたい・着てほしい衣装を書き込むという、わかめちゃんスレでよく見られる光景がところどころで散見されているあたり……やっぱり
喜べ、名も知らぬ巫女服すきニキ。
今日のわかめちゃんは……開幕からおまちかねの巫女装束だぞ!
「こうして見ると……やっぱおれのコスプレって需要あるんだなぁ。同じ人が何度も書き込んでるのかもしれないけど」
「そりゃ需要あるに決まってるよ! ノワはただでさえ可愛いんだから! 良い機会だ、もっといろんな可愛い格好に挑戦してみようよ! みんな絶対喜ぶよ!」
「ら、ラニ……ちょっと落ち着いて。……ええ? そんなに? ほんき?」
「勿論、本気だよ。……うう、ボクがもっとオシャレな服持っていれば……
「どうどうどう。うーーん……白谷さんがそこまで言うなら……試してみようかなぁ」
「ほんと!? やった! 聞いたからね!? ボクも全霊で協力するから! お願いねノワ! 絶対だよ!?」
「お、おう…………えっとまあ、とりあえず……今日の配信、がんばろうね?」
「任せといて! ボクだってちゃーんと『予習』したんだ。役に立つよ!」
やる気の理由やそこに至るまでの経緯に、ほんのちょっと引っ掛かるものを感じなくも無いけれど。
白谷さんのモチベーションが高まり、気合充分で臨んでくれるというのなら……おれとしても非常に心強い。
彼女のやる気に影響されたからかどうかは解らないけど……おれの身を蝕んでいた緊張も、いつのまにかすっかり吹き飛んでいるようだ。これは都合が良い。
時間もそろそろ良い感じだ。着付けも栄養補給も、お手洗いも済ませてある。
「それじゃ、そろそろ…………行こうか」
「おっけー! えーっと……『本番入りまーす!』」
「!? ぶフッ! どッ、どごブふっ……どこでそんなの覚えてきたの!」
「んふふふ。言ったでしょ? ちゃんと『予習』したって」
……なるほど、これは確かに心強い。
白谷さんの活躍により、緊張なんていうものは既にどっかに飛んでったらしく……今となっては跡形もない。
コンディションは万全。心強いパートナーも居る。視聴者さんもこんなにたくさん、今か今かと期待してくれている。もうなにもこわくない。
時刻は……ついに二十一時。
『のわめでぃあ』生配信、放送開始です!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます