第100話 【報告配信】新役員質疑応答




 ……本来であれば。

 出演者に対しての質問は、事前に募集しておくことが望ましいのだろう。

 というか普通に考えて、それが常識であるべきだろう。


 あらかじめ寄せられた質問に目を通しておくことで、回答者も余裕を持って返答を用意することが出来るし……そもそも『答える質問』『スルーする質問』をじっくりと精査することができる。

 スケジュール管理も行いやすいし、メリットの方が遥かに多い。



 しかし、今回の配信に限って言えば……出演者の詳細も、さらに言うと質問コーナーを設けることさえ、事前にバラすわけにはいかなかった。

 そのため現代の生配信ならではの、視聴者さんたちが手にしているであろう情報ツールを積極的に活用することで、このギリッギリ直前の土壇場において質問募集を敢行。

 おれたちの駄弁ダベりで時間を稼ぐという手段に出たわけだが……幸いにして事前の仕込み依頼が項を奏し、さして尺を消費することなく最初の質問を受けとることが出来ていた。

 段取り通りではあるが……迅速に質問を送ってくれた質問者モリアキには感謝しなければならない。




「ではでは……記念すべき最初の質問です! えーっと……『先日のお料理動画のレシピ、出所は白谷さんですか? あと、好きな食べ物は何ですか?』とのことですが……どうですか? 白谷さん」


「んふふー……『良い質問ですねぇ!』。一度言ってみたかったんだよね、これ。……まあともあれ、先日の『若鶏の墓』に関してはその通りだよ。皆向けに多少改編した部分はあるけど。……あとなんだっけ、好きな食べ物? そうだね……この国は何でもおいしいけど……ヌードル系かなぁ、食べやすいし。あとは……ノワの手料理全般、かなぁ」


「何なんですかそのキメ顔は。突っ込みませんよわたしは。可愛いなぁとか思ったりしちゃうくらいで突っ込みませんよ。……では次いきましょう」


「つれないなぁ。……お風呂ではあんなに淑やかで可愛らしいのに」


「…………ッ!!」



 ハッシュタグの質問リストから顔を上げ、すぐ傍らで飄々とした笑みを浮かべる白谷さんを『キッ!!』と睨む。……という小芝居を挟む。実際には予定調和、台本通りである。

 見た目こそおれ以上にファンタジーな白谷さんを『リアルタイム現実世界投影型』と言い張り、加えて随所にリアル存在であるおれとの絡みを匂わせ、俗にいう『生活感』のようなものを漂わせることで……白谷さんの『中身』は『見た目』とは別、フェアリー種ではない実在の『誰か』なのだということをやんわりアピールしていく。

 そもそも今回の質問コーナーの趣旨も、実をいうとだ。非実在にしか見えない白谷さんだが、その実態はいわゆる一般的な『仮想配信者アンリアルキャスター』であるという……常識の範疇に収まるキャラクターである、ということのアピール。



「……じゃ、次です。わたしは突っ込みませんから。えーっと……『実在フェアリー初めて見ました! 本物ですか!?』」


「もちろん、ボクはだよ。こうしてここに存在して、カメラを通して視聴者諸君と言葉を交わすことだって出来る。……ただちょっと、ちょーっとだけ、その……まぁ、なんだ。視聴者諸君に認識できるよう姿を投影するにあたって、が掛かってしまうというだけであって……まぁ、そういうことだ。察して」


「いやぁー……色々ありました。時期的にも技術的にも大変だったんですよ、アシスタント妖精『白谷さん』を実装する…………アッ実装言っちゃった」


「言っちゃったじゃん実装」


「えへ、言っちゃった…………んんッ! フェアリー種でーす! リアルタイム現実世界投影型アシスタント妖精さんでーす!」


「シラタニでーすイェーイ」



 事実を混ぜ込み、隠したいところはぼかし……極力『嘘』を吐くこと無く、それでいて怪しまれないような設定プロフィールを公開していく。

 実際のところ軽率に視聴者諸君……というか人々に彼女の姿を見せることは出来ないので、あながち完全なホラというわけでも無い。

 あとは仮想配信者ユアキャス演者にありがちな『触れてはいけない事情』ということを匂わせて、無理矢理じみた高いテンションで押し切り、強引に切り上げることで……一丁上がりってやつよ!!



「はい! ということで次行きます次! 『出身はどちらですか? わかめちゃんと同じ世界ですか?』だそうですが……」


「出身はヤクシ……おっと違った。……そうだね、ノワとは別の世界かな。こっちの世界に引っ越してきたときにノワと出会って、ボクの姿が見える彼女に色々とお世話して貰ってるんだ。……イロイロと、ね」


「わざわざ意味深な言い方しないでください。突っ込みませんよわたしは。はい次! てきぱき捌きますよ! 『ズバリ! のわちゃんとはドコまで行ったんですか?』だそうですが……どこ? どこって…………どこ?」


「どこ……? 伊養町……はボク留守番か。じゃあ鶴城つるぎさん、とか? アッ、これ大丈夫だった? 言っちゃって……」


「オッ!! とぉ!! …………うーーん……まぁ、良いでしょう。白谷さんはあとで反省会ね。……ともあれ、もっともっと色んなところ行ってみたいねってお話はしているので、旅番組好きな視聴者さんもどうか期待してて下さいね!」


「てへへ……宜しくお願いします」


「はい次! 『白谷さんも魔法使えるんですか? さっき光っていたのも魔法ですか?』」


「ふっふっふ。まぁーフェアリー種だからね。あの程度の魔法はお手のものだよ」


「おおすごい! ちなみにどんな魔法が得意なの?」


「それはもちろん……照明魔法だろ? あとは撮影魔法、ほかには記録魔法、時間を知る魔法、記録を改竄編集する魔法」


「お、おう……?」


「目覚まし魔法とか、注意喚起魔法とか、添い寝魔法とか、ごはん食べる魔法とか、SNSつぶやいたー見る魔法とか」


「何でも『魔法』つけりゃ良いってもんじゃないからね!? はい反省会! ……あと一個くらい行ってみますか。『のわちゃんが巫女服なのは何でですか。ラニちゃん何か知ってますか』っと……どうですかね? ラニちゃん?」


「んふふ……どうだろうね? ノワ?」




 よくぞ聞いてくれました。いや実際コメント欄でも幾度となく聞かれていたんですが……改めて、よくぞ聞いてくれました。

 電波時計を確認してみると、なかなか良い時間配分だ。そろそろ次の燃料投下を行っても問題ないだろうと、相棒と視線を交わしひっそりと頷く。


 おれが今身に纏っている、コスプレ衣装とはワケが違う巫女装束。それに加えて、先程白谷さんが口を滑らせた(という演出の)『鶴城つるぎさん』という言葉。

 賢い視聴者さん達の何人かは、既に思い至っているらしい。

 更に賢明な視聴者さんに至っては……伊養町を取り上げた動画を公開したわたしが巫女装束を纏い登場した時点で、近場である『鶴城つるぎさん』へと考えが及んでいたらしい。


 というわけで、そろそろ良いだろう。

 『のわめでぃあ』本日の重大発表、その二つ目。



「なんとですね……浪越市の『鶴城つるぎ神宮』! こちらにですね! この年末の忙しいときにですね! ……なんと! 取材許可を頂きました!!」


「イェーイ!!」



 盛大に盛り上がって見せるおれたちに反して、コメント欄の反応はやや困惑気味だった。

 自分のことのように喜んでくれる視聴者さんもいる一方で、『でも……そこまで騒ぐほどのことか?』という感想を抱いた視聴者さんも、もちろん多くいることだろう。

 正直いって『さもありなん』って感じではあるが……しかしその反応を、一部視聴者は数分後にあっさりと覆すこととなるだろう。


 首を洗って待っているが良い!

 がはは!!



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