第95話 【配信当日】本日はどうか宜しく
結論からいうと……幸いなことに、映っちゃマズいものは何一つとして映り込んではいなかった。
そもそもおれのパンツとか、センシティブな薄い本とか……そういうあからさまにヤバイものを出しっぱなしにするようなオープンな性格を、おれは持ち合わせていない。
仮にカメラを水平に向けていたとして、せいぜいが部屋の内観が映り込むくらいだ。……女の子っぽさの皆無な部屋はちょっと不審かもしれないけど、それだって『映っちゃマズいもの』ってわけでもない。
ただ唯一、危なかったかもしれない場面といえば……シャワーから出たとき。
カラーボックスに収まったバスタオルへと不用意に手を伸ばし、そのとき天井を向いたままのカメラの真正面をおれの腕が横切り……腕と、肩と、腋と、なにとは言わないが裾野部分のごくごく一部が映ってしまったところくらい。
……裾野の部分とはいっても、ノンスリーブのシャツを着た際なんかに肌色が覗いている部分に過ぎず……つまりはほとんど腕部分しか映り込んでなかったので、セーフだろうという結論を下した。
仮に、なにがとは言わないが山の中腹のあたりや山頂が見えてしまったら、それはもう確実にお蔵入りにせざるを得なかっただろうが……この仮想配信者計画を始めるにあたって事前に熟読した
……というわけで。
当初の予定どおり、一発撮り長尺動画の頭と尻尾をトリミングした程度で、おれこと木乃若芽ちゃんのモーニングルーティーン動画は無事に陽の目を見ることとなった。
確認作業を終え、動画のアップロードを終え、タイトルとサムネイルとタグとキャプションを入力し終え、あとは公開ボタンを押下するだけ。
サムネイルにはちょっと悩んだけど……白谷さんが撮ってくれた、起き抜けのおれの顔を切り出したものをベースとして採用した。『ぽやん』とでも効果音が付きそうな程にゆるゆるな表情なので、やらせではないモーニングっぽさがいい感じに
(いま八時だから……あと五分。もう少しか)
PC画面右下の時計とデスク上の電波時計が、全く同時に朝の八時を示す。
投稿時刻は八時〇五分を予定している。新着順でソートした場合、八時ちょうどに投稿されたものよりも新しい作品として表示される(と思っている)からだ。
……実をいうと、完徹してもらった白谷さんにおれが起こされたのは、朝の五時頃だったりする。部屋の照明を点けて起こしてもらったので気にならなかったが、カーテンの外は真っ暗だったハズだ。
これは単純に……起床時刻が後ろにズレればズレるほど、白谷さんの負担が増えるだろうと判断したからだ。白谷さんに無理を押し付けているのだから、おれだって普段よりも早起きさせられるくらい我慢してみせる。そういう決意のもとで設定した起床時刻だったのだが……そのおかげか副次的な効果として、全ての作業を終えてもまだ朝の八時という……驚愕の事態と相成ったわけだ。
動画の尺は、一時間にもギリギリ満たない。朝ごはんの後片付けをして歯を磨いて、クロージングの挨拶をして……五十五分の一発撮り。
編集にほとんど時間を要さなかったというのも、良い方向に働いたのだろう。こんなに早い時間帯に投稿できるとは、さすがに思っていなかった。
(……っと、そろそろ良いかな。ほい『公開』っと)
軽く回顧している間に、時計表示は八時五分へと進んでいた。ここぞとばかりに全体公開に設定を切り替え、ついさっき撮ったばかりの『木乃若芽モーニングルーティーン』動画が全世界へと公開される。
すぐさま
先日投稿してあった今夜の生配信の宣伝メッセージにモーニングルーティーンの投稿宣伝を関連付けて設定することで、この動画宣伝メッセージを表示させたユーザーの画面に今夜の生配信の宣伝メッセージもツリー形式で表示されるのだ。
つまりは……モーニングルーティーン動画の宣伝メッセージが拡散されればされるほど、今夜の生配信告知メッセージも一緒に拡散されていくという……おおよそ完璧な作戦なのだ! どや!
せっかく
嬉しいことに、おれの
視聴者さんたちに優劣をつけるわけでは無いのだが……彼ら彼女らが今も変わらずおれを見ていてくれることが、またこんなにも多くの人々がおれを気に掛けてくれていることが、たまらなく嬉しい。
(……そう、うれしい。めっちゃうれしい。……んふふ)
一つでも多くの動画を公開し、一人でも多くの視聴者さんを楽しませ、一人でも多くの支援者さんを覚えておき、一言でも多く彼らと言葉を交わす。……おれにできることは、まだまだいっぱいある。
さしあたっては……コメント返しだろう。先程の動画告知に対しても、早くも返信コメントが届き始めている。返信速度が追い付かないため、寄せられるコメント全てに返信できるとは思っていないが……それでも、可能な限り多くコメントを返すのだ。
彼らは、おれを好いてくれているのだ。おれが彼らを好かない理由なんて、無い。
期待には……応えてみせる。
とりあえずは午前中いっぱいを使おうと心に決め、おれは視聴者さんたちとのコミュニケーションを図るべく……怒濤の返信ラッシュを繰り広げるのだった。
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