第94話 【告知動画】パチモン女子の一段落





 本日の朝ごはんのお品書き。

 ホットサンド二種と、たまご(など)のスープ。


 献立だけを述べるとかなりコンパクトに聞こえるが、ホットサンドは二種類をふた切れずつ……計四切れが待ち構えている。

 コンビニのサンドイッチがいちパックふた切れ入りであることを鑑みると……コンビニサンドイッチを二パックとごった煮スープ、ということになるのだろう。

 んん、これはもしかすると……おれまたやっちゃいました系かもしれませんな……!



「で、でも……ほら、いい感じに出来たでしょう! さっすがわたし! 見事な手際ですね! ふふん」



 できちゃったからには仕方ない。幸い今は冬なので、そこまで食品も傷みやすくは無いだろう。冷蔵庫に入れておけば今日一日くらい持つだろうし、スープとかは温め直してお昼に頂けばいいか。

 つまりは……実質なにも失敗していない。いいね。



「それでは……美味しい食事にありつけることに感謝して。……いただきます」



 回しっぱなしのカメラの前で、キッチンの作業台に並べた朝ごはんをいただく。

 あつあつのホットサンドとたまご(など)スープ……ちょっと野菜が不足ぎみかもしれないけど、そこまで致命的な組み合わせでは無いだろう。

 調味に用いたのはシャンタンペーストやレトルトハンバーグ等、既にほとんど味の整えられた食材だった上、特にやらかしたわけでもないので……はっきりいって、普通に美味しい。

 ハンバーグも中までちゃんと温まっており、サクッとした食感のパンの間からトロッと溶けたチーズが顔を覗かせ……んんーっ、大変美味しゅうございます。

 パンとお肉とチーズを咀嚼し、お口のなかで濃厚な組み合わせを堪能しているところに……今度はどちらかというとすっきりした味の、チキンベースのスープを流し込む。……控えめに言って大成功ですよこれは。ぜひともシェフを呼んでお礼を言わなきゃいけませんね!



「…………ごくん。…………ほふぅー」



 ピザトーストのほうも、こちらもおおよそ完璧な仕上がりだ。それもまあ当然だろう、そもそもパクっ……参考にしたメニューが美味しいのだ、失敗するはずがない。

 トッピングの具材の数を削ったり、タマゴサンド部分を圧縮プレスサンドしたりとアレンジこそ加えてみたものの、基本的なコンセプトは変わらないのだ。

 今のおれは辛いのがあまり得意ではないので、タバスコこそ備わってないけれど……タマゴとマヨとケチャップ、それにチーズが合わさって、サクサクのパンと一緒に雪崩れ込んでくるわけで。このアメリカン極まる美味しさの前では、カロリーなんていう些細な問題は気にならないだろう。……さすがに無理か。だめか。こんどちゃんと運動しよう。


 しかし……タマゴサンド部分をホットサンドに変えたのは、我ながら良いアレンジだったと思う。ふわふわパンのタマゴサンドも当然好きなのだが……おれの口はそんなに大きく開かないので、ギュッてなっているほうが食べやすい。

 ぶっちゃけお店で食べる方が当然美味しいのだが、これはこれで。食べやすいので、忙しい朝にはちょうど良いだろう。




「はふぅーー……ごちそうさまでした。はい、以上でモーニングルーティーン『朝ごはん』クリアです! …………ハイ。ご馳走さまです。……スマセン。お昼にちゃんと食べますんで……ハイ……スマセン……」



 ホットサンドふた切れと、パン耳入り野菜スープを一杯。

 非常に燃費が良いタンク容量の控えめなおれにとっては……やはりこのあたりが限界のようだ。朝から食べ過ぎて一日のパフォーマンスが低下するのもアホらしいので、無理せずラップを掛けて冷蔵庫へ。……戦略的撤退である。


 改めてきちんと手を合わせて『ごちそうさま』をした後は、調理に使った調理器機やお皿を洗っていく。パーカーと長袖インナーを肘までまくりあげて、じゃばじゃばと。

 よごれが落ちていくのを見るのは楽しいもので、次第に上機嫌になってきた。ふんふんと適当なフレーズで鼻唄を奏でているうちに、あれよあれよと汚れ物が姿を消し……きれいになった食器類や調理器機が水切りカゴに並んでいた。



 ……というわけで。以上で朝ごはんと、その後始末も無事に完了したことになる。



「ついでに……歯磨きもここでしちゃいましょうか。キッチンですけど。ちょっと歯ブラシとってきますね」



 ホルダーにゴップロカメラを固定したまま、おれはぱたぱたと洗面所へ。愛用の歯ブラシと歯磨きチューブを手に取り、再びキッチンへと戻ってくる。

 歯磨きなんて洗面所で済ませりゃええやん、って思われるかもしれないが……先に述べた通り、おれの家の洗面所はたいへん『ゴチャッ』としていて見映えが良くないのと……



「すみません、せっかくホルダーがあったので……歯磨きしているときに手が塞がるのって、ちょっとやりづらいので……」



 片手で歯ブラシ、片手でカップを構えたいおれにとって、両手フリーで撮影できるこの場所は非常にやりやすい場所なのだ。

 普段はちゃんと洗面所で歯磨きしてるんですよ! ……などと聞かれもしない自己弁護を挟みながら、おれはお行儀よくしゃこしゃこと歯磨きを済ませたのだった。



 ……さて。最後におくちを『くちゅくちゅ』ってそそいで『ぺっ』てしたら、モーニングルーティーン『歯磨き』の部もあっという間に完了である。

 一般的なモーニングルーティーン動画は出勤するまでの流れを撮っているらしいのだが、おれはご存じの通り在宅勤務だ。出勤する必要は無く、なんなら自宅が仕事場なのだ。

 そのため出勤に際して着替えたりする必要も無いので……つまりは、以上でモーニングルーティーンを一通り消化してしまったことになる。


 こんなんで良いのかな? という感覚が無きにしもあらずだが、実際のところ以上で全てなのでどうしようもない。他に朝のルーティンなんて思い浮かばないし、まさか白谷さんの寝顔を撮るわけにもいかないので……撮影は以上で、そろそろ〆に向かう必要があるだろう。

 まぁ……朝ごはんのところだけでも、我ながら美味しそうにできてたと思う。見所が全く無いわけでもないので、良いにしよう。



「……ほふ。……えっと、ではではお片付けも終わったので……以上で『木乃若芽モーニングルーティーン』終了でございます。……わたしは自宅が職場なので、出勤シーン無いんですよね……へへ……すみません。正直なところそんなにおもしろい事件とかも無かったので、見てもあんまり面白くなかったかもしれませんが……まあ、これが普段のわたしということで、この若芽ちゃんを少しでも身近に感じて貰えたらなぁとか……思っちゃったりもしちゃいます。ハイ」



 元々、たいした準備も仕込みもなく撮り始めた動画だ。そこまで再生回数が伸びなかったとしても、正直そんなにダメージは無い。

 見てくれた視聴者さんに『こんなモン見せやがって!!』とか激怒されるような要素も……たぶん無いハズだ。


 正直なところどう評価されるかは解らないけど……とりあえずこの動画はこれでヨシとして、クロージングしてしまおうと思う。




「チャンネル登録のほうも、宜しければぜひお願いします。……こほん。それでは……『NOWAえぬおーだぶるえーITあいてぃーNOWAえぬおーだぶるえーITあいてぃー、こちらはインターネット放送局『のわめでぃあ』です。以上で今回の放送を終了いたします』、っと。……それではまた! ヴィーャばいばい!」



 放送終了の挨拶を述べ、可愛らしく手を振る。最後トリミングするにあたって充分な尺を撮ってから、ニュッと手を伸ばしてゴップロカメラの停止ボタンを押して……録画中を示すランプの消灯を確認して、『はふー』と脱力する。一発撮りはやっぱり気が抜けなかったので、無事に終わってほっとした。


 念のため撮影内容を確認しなきゃだが……おそらくだが、十中八九大丈夫だろう。大がかりな編集をするつもりも無いので、どんなに遅くとも午前中のうちには投稿できるハズだ。

 話題の種は、早く投げるに越したことはない。広まる時間を長く取れれば、それだけ今夜の配信に向けての話題性も高まるって寸法よ。ぐへへ。



 あと一息、ほんのすこし。おれは冷水をぐいっと飲んで気合いを入れ、映像の確認作業を開始した。



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