第89話 【帰途談話】とりあえず夜食




 数日ぶりとなる、同志モリアキ氏の自宅。

 おれの家のなんかとは比べ物にならないほど居心地のよいリビングスペースにて……おれたちは途中寄り道してテイクアウトしたロースかつ丼を、三人並んではふはふと掻き込んでいった。……期間限定で三九〇円だって。めっちゃ安い。そのうえうまい。



 ちなみに今更だけど、白谷さんは普通にごはんを食べる。

 とはいっても……そもそも彼女はおれから供給される魔力で生命維持が行われているらしく、実際それだけでも体調含めて問題無いらしいので、どちらかというと娯楽的な側面が強いらしい。

 つまりぶっちゃけ食事の必要は無いんだけど、『ボクも……ノワと同じもの、一緒に食べてみたいから……』なんて上目使いで言われちゃったらもうお嬢ちゃん可愛いねオジサンが何でもご馳走してあげるからね好きなものいっぱいお食べなさいなグヘヘヘってなるに決まってるじゃん!!


 まあでも、身体つきからわかる通りにおなかの容量は大きくないので……モリアキが人数分調達したロースかつ丼のうちふたつと四分の三以上は、おれとモリアキで処理する必要がある。

 ちなみにおれのおなかの容量は、せいぜいがロースかつ丼ひとつ分だ。頑張って詰め込んでこのざまだ。……がんばれモリアキ。



 そんなおれの、声なき応援が届いたのだろうか。それとも縫針みたいなサイズのマイ箸を必死に操る白谷さんが愛らしかったおかげだろうか。

 多少眉が八の字になっていたが、そこまでしんどくは無さそうな様子で……無事に三つの空き容器が姿を現したのだった。



 おなかいっぱいになりながら、これまでの経緯と今後の予定をなんとか全て(ちょっと漏れた事件以外)共有し終え……数日後に迫った修羅場に向けて、おれたちは決意を新たにする。

 ……まぁ、それよりも前に明日の配信だな。本番は夜の二十一時からを予定しているので、まだ少し時間はある。今回は数日前から予告してあるので、割と時間的にも精神的にも余裕を持てているのだ。


 ちょっとひと手間、加えてみても良いかもしれない。

 よし。帰ったら白谷さんと打ち合わせだ。……一緒にお風呂入りながらでも。




「じゃあ、そんな感じで。元旦の初詣、一緒に行けなくなっちゃったけど……ごめんな」


「いや仕方無いっすよ。どっちみち今の先輩に人混みは厳しいでしょうし。頑張って下さいね、アルバイトも……明日の配信も」


「まーかせとけ! 今回は事前告知もバッチリだし! ついに白谷さんのお披露目だもんな……気合入れないと」


「んふふ。なんだかボクも楽しみだよ」


「オレも楽しみにしてますから! ……お疲れ様っす」



 久しぶりにモリアキと会って言葉を交わし、おれはバッチリと英気を養う。

 彼にお礼と別れの挨拶を告げ、例によって白谷さんに【門】を開いてもらい、おれたちは一切人目に触れずに自宅へと戻る。

 ……話には聞いていたけど実際【門】を目にするのは初めてらしいモリアキは、若干ひきつった顔ながらも興奮を隠しきれない複雑な表情で見送ってくれた。

 帰る前に烏森宅へマーカーを打ち込んで貰うのも忘れない。これは大事なこと。


 あぁ、しかし……白谷さんに協力してもらえば、烏森宅マンション駐輪場に置きっぱなしにしている原付を回収することも難しくないのか。

 さすがに自室へと運び込むのは褒められたもんじゃないので、近くの路上のどこかにマーカーを置き直す必要はあるだろうけど……やはり気軽に使える『足』が有るのと無いとだと、行動範囲がかなり違うだろう。

 まぁ、運転の際は人目を気にする必要があるかもだけど。……こっちのほうも思いついた解決策が無いわけではないので、年明けになって落ち着いたら対策を進めないと。




「ただいまー……っと」


「んふふ。おかえりノワ」


「ん。……エヘヘ」



 しかし今は、直近に迫った明日金曜日の配信に注力する。


 既に日も暮れて久しいとはいえ、まだまだ夜はこれからだ。日付が変わるまでには時間があるし、おれはおれの仕事をこなさなければならない。

 白谷さんとのお風呂は……もうちょっとお預けだな。まずは動画のデータをとりあえず転送しておこう。


 おれは気持ちを切り替え、仕事モードに。

 情報局局長の戦いが、いま始まるのだ。


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