第75話 【鶴城神域】神狼の主
「いやー済まない、怖がらせてしまったね。……えっとまぁ、最近ちょっと立て込んでてさ。
「は、はひ……」
先程狩衣姿の男性二人が出てきた、
人間的な感覚に基づいて判断するとすれば……座卓と座布団が設えられた客間のような部屋にて、おれ達はなんとお茶を振る舞われていた。
座布団はワケわかんないほど座り心地が良いし、出されたお茶は意味不明なほど美味しい。
ついさっきまでは冗談じゃなく死ぬんじゃないかと思っていただけに、状況のギャップに思考が追い付いていない。
「改めまして。僕はこの
「いやそんな!! 元はといえばボクが伐採とか言い出したのが悪いのであって……」
「まぁ、そうだとしてもね。我等はホラ、神使だから。俗界の者に干渉するには、本来最大限の注意が必要なんだけど…………」
「…………けど?」
そのリョウエイさんは何やら言いたげにこちらへと視線を寄越し、おれの肩の上で正座している白谷さんへ視線を向け、再度おれに視線を戻すと……しばしの思考の末、絞り出すように口を開いた。
「君達の纏う『気』がね。……俗界のヒトのものには、とても見えないんだ。マガラ達『
「は……入ったときから…………目ぇ付けられてたんですね……」
「まぁ、それだけ奇特な気を漂わせて居ればね。
「全然気づきませんでした……」
そんな奇妙なにおいを漂わせていたんだろうか。思わず袖口を鼻に近づけ、すんすんと嗅いでみる。
肩の上の白谷さんも鼻をひくひくさせ、におっていないか確かめているようだ。かわいい。
しかし……そんなにも多くのヨリキの方々に見張られていたなんて。おれ達はちっとも気づかなかったし、そんな状況下で呑気に平打うどんをすすってたんだなぁと思うと……我ながら間抜けな絵面だ。
「まぁ
「っもょ!!? えっ!? な……っ!?」
「済まないね。鼻が利く者ばかりだから。……御詫びじゃないけど、替えの着物は
「……え? 何ノワ、もしかしておし」
「ちちちちちがいます!! ひょんなことあにませんので!! ちがうですので!!」
エルフやフェアリー……ファンタジーな種族とはいえ、所詮は人間に過ぎない。人間の百万倍ともいわれる感度を誇る狼の嗅覚を誤魔化すことは……さすがに無理だったようだ。
ちくしょう。理不尽だ。一方的に脅された上に漏らしたこと共有されるなんて。報連相だかなんだか知らないが花も恥じらう乙女を辱しめるなんて、さすがに万死に値する。
……おれは中身は男だけど、配信者としての
到底手の届かない格上とはいえ、せいいっぱいの怒りを込めてマガラさんを睨み付ける。顔真っ赤で涙が滲んでる情けない顔なのは自分でもわかるが……その甲斐あってかマガラさんは複雑な表情を浮かべて、ばつの悪そうな顔で視線を逸らした。
ふふん、勝った。
「まぁ、御咎め無しとは謂ったが……少しばかり話を聞かせて貰いたいんだけど、良いね? 霊木を伐ろうとした目的もだけど……君や、君の従者の事について」
「……えっと、それは…………はい」
「念の為もう一度明言しておくけど、我等には君達に
「………………わかり、ました」
柔和な笑みを浮かべたまま、しかし穏和そうな目をほんの少し鋭く
本能、とでも言うのだろうか。理屈ではない理由によって、隠し事や嘘など無駄であるということを直感的に悟ったおれは……観念して、ここに至るまでの経緯を話し始めた。
おれ達が今日、霊験あらかたなパワースポットであるこの
始まりの金曜日。
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