第63話 【在宅勤務】遅くまでお疲れさま
てらろん てれれん ぽぺぽんぴん
てれれん てぺれん れん れん
お風呂が沸きました。お風呂が沸きました。
「…………んえ?」
唐突に鳴り響いた電子音声に、ふと我に返って時計を確認すると……なんと、もう日付が変わってしまっている。
モリアキに送ってもらって帰宅した後、写真を壁に飾ってテレビをつけて、案の定ニュース番組をお騒がせしているのを遠い目で眺めながら今後の予定を漠然と立てて、とりあえず昼間に撮った『ランチついていってもイイですか』動画の編集に取り掛かったのが……たぶん十八時頃だろうか。
かれこれ六時間くらいぶっ通しでPCにかじりついていたらしく……こうして我に返ったことで、これまで抑えつけられていた生理現象が一気に主張し始めたらしい。
要するに、おなか減ったしおしっこしたい。
しかし……お風呂が沸きました、か。
おれはずーっと作業に専念していたので、湯沸かしスイッチを入れた記憶はない。いったい誰が……とはいっても、思い当たる選択肢は一人しかいない。
「おや、帰ってきた? ノワ」
「んう……白谷さん?」
「集中するのは良いことかもしれないけど……ちょっとは身体休めないと。お腹も空いてるだろう? 何度も鳴ってたよ」
「えっ!? マジで……はずかしい」
若芽ちゃんボディの集中スキルのお陰で、編集作業は極めてハイスピードに行えるのだが……代償というべきかなんというか、その他のことに対して非常に無頓着になってしまうようだ。
おなかが鳴るくらいならまぁ、まだいいけど……作業に集中しすぎておしっこ漏らしたとかなったら、さすがに笑えない。我ながら引く。
「ふふ……はい。夜食どうぞ」
「ふわ……!? おいしそ……いいの?」
「モリアキ氏が食いっぱぐれたやつだから、彼に感謝して食べてね。あと、戻ってきたついでにお風呂も入っちゃって。少し肩の力抜いた方がいい」
「…………おかあさん」
「??? ふふ……変な子だなぁ、ノワは」
脇目も振らずに机にかじりつくおれを見かねて、白谷さんがお湯張りのスイッチを入れてくれていたらしい。家の中の設備やタブレットの使い方は一通り教えたけど……早くもモノにしているようだ。さすが元勇者、とても順応力が高い。
……しかし、こうしておれの身を心配してくれる子がすぐ傍に居るというのは、とても助かる。見目麗しく可愛らしい女の子であればなおさらだ。
精神的に安らぐのもあるし、おれの手の回らない点をフォローしてくれるのも非常にありがたい。
心優しく、器用、そして可愛い。
こんな良い子と縁を結べたことを、おれは非常に誇りに思う。
「んんー…………っ。……じゃあ、半分だけたべて……そしたらお風呂入ろう。食べた直後にお風呂入ると、本当はよくないらしいけど」
「え? そうなの?」
「んう。なんかねー消化器の働きが下がるから、三十分か一時間は空けたほうがいい……らしい」
「な、ん……だって…………? ……そうなのか……ごめんノワ。配慮が足りなかった。……すまない」
「いや、そんな。元はといえばおれが時間見なかったのが悪いんだし」
「だとしても……そもそもボクという存在は、キミの
「そんな思い詰めなくても……じゃあ、食べ終わったらちょっと……三十分くらいお散歩しよっか。夜の一人歩きは不安だから、白谷さんに付いてきて貰えると嬉しいなぁーって」
「…………わかった。そういうことなら……お安いご用だ」
「ふふ。ありがと、白谷さん」
異世界の勇者だったときの癖なんだろうか……白谷さんはどうにも職業意識が高いというか、妙なところで責任感が強すぎるところがある。
おれに対して気を遣いすぎがちなところもそうだし、おれに恩義を感じてくれているからこそなんだろうけど……ちょっと真面目すぎるというか、『一瞬の油断が命取り』だと考えてしまいがちというか。
少なくとも、この世界はそこまで危険に溢れているわけではないのだけど……白谷さんの常識がまだ異世界を参考にして居る以上、ある程度は仕方ないのかもしれない。
まぁ、そこは少しずつ諭していけばいいだろう。おれとしても白谷さんと一緒に居ることは嫌いじゃないし、白谷さんにこの世界の常識を教えていくのは……ちょっと、たのしい。
とりあえず、せっかくの白谷さんの気配りだ。その厚意に甘えるとしよう。
夜食を頂いたらちょっと夜風に当たって、すっきり気分転換。その後はお風呂に入って身体をほぐそう。……完璧だ。
まぁ……食後すぐの運動も本当は身体に良くないと知ったのは、残念ながら数日は後のことだった。
そもそも夜更かしすること自体あんまり身体に良くないんだけどね!
それを言っちゃあおしまいだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます