第62話 【在宅勤務】やっぱりこうなるのね



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作中の人名・名称・地名・サービス等は架空のものです。

実在するそれらとは一切関係はございません。


今更ですが、予め御了承ください。


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 ところで。

 おれが『のわめでぃあ』を立ち上げるにあたって、はじめまして放送でアピールした放送ジャンル……そこでは『グルメ、芸能、サブカル、旅行、他にもさまざま!』と述べてある。

 先日投稿した『歌ってみた』は、この中で言えば『サブカル』が該当するだろうし、つい先程投稿した『おはなしクッキング』は『グルメ』の部分に該当するだろう。




『カメラが捉えた、この騒動の元凶ともくされる『悪の魔法使い』……そしてこれを相手取る、もう一人の『魔法使い』。この常識はずれの立ち回りを繰り広げる彼らは、果たして何者なのでしょうか』




 いや、別に無理して『グルメ、芸能、サブカル、旅行、他にもさまざま!』に当てはめる必要は無いのかもしれない。しかし多くの人に興味をもって貰うためには、様々なジャンルに挑戦すること自体は悪くない。

 数字が取れるとかじゃなく、一人でも多くの人々に『次回をおたのしみに』して貰うためには、例え反応が今一つだろうと新たな層に訴求し続ける必要があるだろう。




『前回の銀行襲撃事件の際と同様、どこからともなく現れた謎の『魔法使い』……その正体、そしてその目的は、依然として謎に包まれたままです』




 どうせやるなら、当初打ち出した宣伝文句に従い……つぎは『旅行』だろうか。

 いいかもしれない。旅番組は老若男女問わず需要が見込めるし、旅先で『グルメ』要素を盛り込むことも難しくない。旅行番組であれば少なくとも『嫌い』という人は居ないはずだし、見たことの無い景色を見るのは誰だってワクワクするハズだ。




『いやー、前回のときも僕ぁ言いましたけどね? 何で警察はこんなにチンタラしてんのかって話ですよ。ああして実際に、当事者である『魔法使い』と相対してるのにですよ? 実際にお話ししておきながら『ぼくたち何もわかりませーん調べてまーす』なんて、そんなバカな話あります? この未曾有の事態に役に立たないなんて、税金泥棒って言われても仕方無いと思いますよ僕は』


『池上さんそのあたりで…………えー、番組では視聴者の皆様からの情報、ならびに映像の提供をお待ちしております。些細な内容でも結構です。情報をお持ちの方は――――』




 …………しかし、一方で。

 撮影のためとはいえ『旅行』ともなると、予算的にも日程的にもなかなかに圧迫されてしまう。


 生配信は出来ることなら定番化したいし、金曜か土曜の夜は空けておきたい。おまけに動画を撮ったら撮ったで編集する時間も確保しなければならないし、数日掛かりのロケともなると編集に丸一日は確保しておきたい。

 まず週末を除いて……ロケに二日か三日、そして編集に一日以上必要と。その間他の動画はもちろん撮影できない。


 ……ええ……時間と人手が足りなさすぎじゃね?

 コンスタントに動画投稿してる世の配信者キャスターっていったいどういう生活してるの……ヒカ〇ンとか東〇オンエアとかマジスゲェじゃん……





『そもそもですよ? あの『魔法使い』だか何だか知りませんけど、アイツがあんなにお高くとまってるところも僕ぁ気に入りませんね。何もやましいところが無いなら警察に協力でも何でもすりゃあ良いでしょうに。逃げるように姿を眩ましたって、実際に逃げる必要があったんじゃないですかぁ? 実はぜーんぶ彼の自作自演とか』


「ねぇノワ、こいつ殴って良い?」


それテレビ殴ると壊れちゃうからやめてね」




 やっぱり……駆け出しのうちは長期日程を組むのは控えておこう。予算的にも。

 手近なところで『旅行』とまでは行かずともお出掛け要素を消化して、ついでに『グルメ』要素も取り込んで……うん、近郊に日帰りなら何とかなるかもしれない。

 最悪の最悪、三十秒程度の撮りっぱなし一発ネタ動画で場を繋ぐか。チックタックみたいな。魔法をこっそり使った『種も仕掛けも無い手品』みたいな。……でもまぁ、それはあくまで最後の手段だ。




『警察も警察ですよ。あんだけ大人数で囲ってるんだから、実力行使で取っ捕まえちゃえば良かったじゃないですかね? そうすりゃぁ重要参考人も捕まえられて一気に解決じゃないですか』


『……ええと、彼は犯人ではなくてですね、どちらかといえば事態の解決に協力してくれたとの見方が強く』


『じゃあなんで逃げたんだって話ですよ。おかしいじゃないですか。僕がその場に居たら取っ捕まえて警察に突き出してやりますよ。アイツも日本人なら日本の国家権力に協力すべきでしょうに。奉仕精神が足りないんじゃないですか?』


「ぐあー腹立つ!! こいっつ……その縦長の顔を横長にしてやろうか!? 貴様ごときがボクのノワに触れようなんざ一万年と二千年早いんだよ!!」


「どうどう白谷さん。…………でもいい加減ムカつくな。チャンネル変えよっか」


「コイツの所在さえ判ればなぁ……廃人にしてやるのに」


「やめようね? おれは大丈夫だから」


「ぐぬぬ……」



 しかしまぁ……まるで自分のことのように怒ってくれる白谷さんを微笑ましく思いながらも、回せど回せど似たり寄ったりな報道が垂れ流されているニュース番組には辟易してきた。

 どの局も同じような映像を流し、同じようなどころか全く同じインタビュー音声を流し、顔も名前もいまいちピンと来ないコメンテーターが勝手知ったる顔で、勝手気ままな憶測をドヤ顔で吐き出している。


 幸いなことに、どの局も『魔法使い』の正体に辿り着いていないから良かったものの……あのとき【陽炎ミルエルジュ】を纏っていなかったら、リソース確保のために解除してしまっていたらと思うと、ぞっとする。



「今回はノワの優しさに免じて諦めるけど……仮にボクの目の前でノワをけなす馬鹿が現れたら、そのときは然るべき対処を行うので」


「うーん……怪我とかさせないようにお願いね。今度こそほんとに捕まっちゃうから」


「…………………………わかった」


「んふふ。……白谷さんは優しいね」




 まぁとりあえず、何はともあれ今日を無事に乗り切ったのだ。途中までとはいえ写真だってちゃんと撮影して貰ったし、大きめサイズで現像して貰った一枚はお買い上げさせて貰い、記念に壁に飾ってある。……我ながらちょっと、可愛いぞこれは。

 鳥神さんとの繋がりもできたし、サキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)とREIN交換もできた。少しずつだが、おれはちゃんと前へ進んでる。勝手に騒ぎ立てる彼らは置いておいて、おれは自分の仕事に専念しよう。


 火曜日がもうすぐ終わり、週末の金曜日は生配信を行いたい。今度は『告知がギリギリすぎる!』と怒られないように、早め早めで準備を行っていかなければ。明日明後日の水曜木曜は次の仕込みと、生配信の準備に追われそうだ。

 それと、日帰りミニ旅行の行き先選定も行っておかないと。バイクの車載動画でも使えれば良かったんだけど、無理なものは仕方ない。



 新人動画配信者ユーキャスターにとっては……一日一日が今後の伸びを左右する大切な時期だ。貴重な時間を無駄には出来ない。


 やることはいっぱいだが……がんばろう。

 エイオー!


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