第43話 【調理動画】完成と次なる方針
『――――ではでは、年の瀬のお忙しい時期ですが……体調を崩さないよう、皆さんくれぐれも気をつけて下さいね! ご覧の放送は魔法情報局『のわめでぃあ』、お相手はわたくし
「「またねー!」」
「…………何この公開処刑」
月曜日の夜も更け……とりあえずの作業を終えたおれは、半ば放置プレイをかましてしまった烏森に詫びをいれつつも、その一方で確かな達成感に浸っていた。
烏森と白谷さんの二人、彼らは話し込むうちになにやら意気投合したらしく……『作業にのめり込むおれを刺激しないように』という気遣いからか隣室に殆んど引っ込んだまま、辛抱強くおれのことを待ってくれていた。
しかし、まぁ……その代償というか条件というか……『出来たばかりのお料理動画を見せてくれ』という要求つきではあったのだが……まぁそれ自体は別に良い。どのみち披露するつもりだったのだ。
長時間待たせたことに対して重ね重ね詫びながら、出来立てほやほやの動画を再生する。……ここまでは別に良い。どうってことない。問題はそこからだ。
動画が流れ始めると……烏森と白谷さんはまるで示し合わせたかのように、二人揃って執拗にベタ褒めし始めたのだ。
「何度見ても可愛いっすね……エプロン姿めっちゃ似合ってるっすよ」
「指がまた綺麗だね。小さい手で頑張るのがまた愛らしい……まぁボクより幾分大きいけど」
「あー声すき。めっちゃ声可愛い。喋り口も穏やかだし本当なごむ」
「首筋がまた良いと思わない? 普段髪で隠れてるだけに」
「良いっすね……若芽ちゃんの貴重なうなじ御馳走様です有難うございます」
「まーた美味しそうに食べるね。いい笑顔だ。……可愛いなぁ」
……等々などなど。
しかもそれらがお世辞やおべっかではなく、一切の嘘偽りを含まない本心からの賛辞とあっては……彼らを怒ることも出来やしない。
結果として……おれがなんとも微妙な表情を浮かべる中、試写会はしめやかに幕を閉じ……二人の審査員による批評(という名のベタ褒め)が再び始まった。
「……ごめん。わかった。待って。わかった。わかんないけど、わかった。……何で? 何でそんなヨイショヨイショされてるのおれ」
「いやぁ、九割は本音っすよ。オレも白谷さんも」
「そうだね。実際に……シューロク? に居合わせた身としては、なおのこと感慨深いよ。良く纏まっている」
「えっと……それは、まぁ嬉しいんだけど…………うん。単刀直入に訊くね。
さっきまでの作業中……おれが烏森をほったらかしにしていた間。白谷さんと烏森が何やら話し合っていたというのは、さすがに解る。
べつにそれが悪いことだと言うつもりは、当然まったく無い。元はといえばおれが彼らを憚らず作業に没頭し始めたのが悪いんだし、烏森も白谷さんもおれにとっては大切な仲間……身内なのだ。
彼らが何を話していようと、彼らの自由だ。本来おれに詮索・介入する権利なんて、無いのかもしれない。
……だが。
こうもあからさまにヨイショされると……なんというか、ちょっとこそばゆい。
烏森はことあるごとにおれを――というか他人を――褒めてくれる神なのだけど……それにしても、いつも以上に熱が入っている気がする。
その理由を……違和感の理由を、おれだけが知らないというのは……ちょっとだけ、寂しい。
「……シュンとした表情もまた可愛いね、ノワ」
「そうっすね……じゃなくて。えっとまぁ、秘密にしようと思ってた訳じゃないんすけどね」
「えっと……おれが集中してたから、だよな。……ごめん」
「いえ、お気になさらず。……ええと、じゃあまぁ……オレらが何を話してたか、っすけど……」
烏森と白谷さんは視線を交わし、互いに頷く。
その雰囲気に一瞬気圧されそうになるが……しかし『彼らがおれに理不尽なことを言うはずがない』という安心感はあったため、大して気構えることもなかった。
事実として、彼らの表情は別段深刻そうには見えず。
どちからといえば……『良いことを思い付いた』とでも言わんばかりの、ひどく朗らかな表情で。
「先輩をですね、外に連れ出してみようと思いまして」
「は?」
「こんなにも可愛いんだからさ。もっと多くのヒトにノワの可愛さを知って貰いたいねって」
「は??」
「公園デビューじゃないっすけど……そろそろ衆目に慣れるべきなんじゃないかな、って」
「は????」
言葉は通じるのに、何を言っているのか解らない。
そんな稀有な経験をすることになるとは……思っても見なかった。
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