第32話 【御礼配信】なんでや!!!
画面の中のキャラクターが軽やかなステップでコースを駆け抜け、軽快な動きで障害物を飛び越えていく。
ほんの数分前のクソザコプレイとは打って変わってスムーズな進行に、寄せられるコメントの大半は当然のように疑問符を伴い、あるいは疑問の文字が乱舞していた。
「『難易度変えたの?』いえいえ変えてませんよ。ずーっと画面つけっぱだったじゃないですか。んふふふ……あっ、ジャンプはーい。もいっちょはーい。余裕ですね」
ゲームの難易度は
息も絶え絶えだった先程とはまるで真逆、澄ました顔でステージを進んでいくその様子は違和感でしかなく……物的証拠がないとはいえ、不正を疑われるには充分だっただろう。
……実際のところ、ちょっと小細工をしているのは確かなので……そこに関しては、指摘されるまでしらばっくれていようとは思っていた。
「はっはー! どーですか! これが若芽ちゃんの実力ですよ! 容姿端麗、文武両道、出前迅速、光の天使、泣く子も黙る木乃若芽ちゃんのお通りですよー!」
さっきとは打って変わって余裕たっぷり、無駄口を叩きながらプレイを続ける様子は……まさに『調子に乗っている』という表現が非常によく合うと思う。
もちろんこれも演出のひとつであり、コメントの流れがおれの意図している方向に向かいつつあることを認識しながら、満足げな心持ちで
そしてついに、待ちに待った(と言うほど大袈裟なことでもないが)視聴者からのコメントが届きはじめ……それを受けて
『username:バフ魔法はドーピングでは?』
『mob-user:変な魔法使ってない???』
『morikas:リアルチートやめーや!!』
「ふォっ!? そ、そ、そ、そんな!? 失礼な、違反じゃありませんよ!? ……ありませんよね!?」
目に見えて分かりやすく取り乱して見せ、否定するどころか一部内容を肯定して見せる。
指摘された通り(というよりは指摘されることを心待ちにしていたのだが)……現在おれはいわゆる『
状況は再び真逆に変わり、涼しい顔から一転して挙動不審となるプレイヤー……ほんのさっきまでは難なく踏破していた落とし穴に引っ掛かり、障害物に
ポンコツスイッチが入った若芽ちゃんは見ていて可哀想になる程に取り乱し、視聴者の取り調べに対して辿々しく抗弁し始める。
「で、で、でも! 補助魔法使っちゃダメってルールに無いですし! 補助魔法も含めてわたしの実力ですし! 実力を測定するなら使っても問題ないはずですし!」
『randamid:体力測定ゲームなので……』
『ippanjin:ルールには無いけどさぁ』
『gaya:リアルチート公言しちゃったかー』
『morikas:そもそもそういうゲームじゃねぇからこれ!!』
「そ、そんな…………」
『禁止事項に書かれていないのだから不正ではない!』と訴える若芽ちゃんの持論はしかし……視聴者より寄せられる数多くの至極真っ当な正論により、あっという間に勢いを失っていく。
この世界、この時代、この国の常識において、『魔法』の使用に関する
若芽ちゃんには可哀想、かつおれにとっては体力的に非常にしんどいのだが……この一連の流れは正直言って、非常に『おいしい』と思っている。さりげなく誘導コメントを入れてくれたモリアキにも感謝せねば。
……と、いうわけで。
世間の常識と世論の圧力により……若芽ちゃんは自身に掛けられていた
化けの皮を剥がれたエルフの少女は先程に引き続き、その
「たすけて…………だめ……やめて、やだ…………まっ、まって、まっ…………あっ」
途中の仕掛けを突破するためのノルマを――
ゲーム画面の中では『チャレンジ失敗』の文字と共に、いかにもザコ敵といった様相の可愛らしい生物と、その足元で無様に伸されたプレイヤーキャラクターが虚しく映し出されている。
画面の中で倒れ伏すキャラクターを、身をもって操作していたプレイヤー……身体年齢十歳相応なのに調子に乗って
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ンっ、はぁっ、はぁっ…………オェッ、ッグんっ、っはぁ……っ、……ごめん、だざ…………ゆるぢで…………ゆるして…………ごべんな、さい…………たすけて……ゆるして…………たすけて……」
配信画面の片隅、
ちなみにその間の視聴者数ならびにコメント数は……前代未聞のものすごい勢いで伸びていった。
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