第28話 【投稿完了】はじめてのけいけん




 ―――誰か。―――だれか。



 ―――誰も居ないのか。


 ―――何も、出来ないのか。






 声が……聞こえる気がする。



 全く聞いたことの無い言語、全く聞いたことの無い声。

 恐らく……というか間違いなく、おれが会ったことも見掛けたことも無いひとの……ともするとこの国日本のひとでは無いかもしれない、誰かの声。



 血を吐かんばかりの必死さを滲ませる……救いを求める者の、声なき声。


 それが……聞こえた気がする。




(えっ、と…………あなたは……どなた様、でしょうか?)


 ―――!! 


 ―――聞こえるのか。―――僕の声が。


(ええ、まぁ……)



 こちらの思念に反応し、謎の声はその声色を驚愕に染める。

 どうやら……意思の疎通は可能なようだ。


 見渡す限りの真っ暗闇の中、謎の声の主は姿も形も見当たらないが……ほんの少しだけ安堵したような気配を伴いながら、しかし彼(?)は切々と訴えてくる。



 ―――恥であることは重々承知の上。


 ―――しかし、其方にしか頼めない。


 ―――其方以外に、居ない。


 ―――どうか、どうか助けてほしい。



 苦渋の決断、とでもいうのだろうか。

 助けを求めるべきではないと理解していながらも、助けを求めることしかできない……自分ではどうすることもできない状況に陥ってしまった、何処の誰とも知られない『誰か』。

 得体の知れない相手の、救いを求める声を聞き――



(えっ、わかった。何とかする)


 ―――えっ?


(えっ? ……助けてほしいんでしょ? おれにできることなら何とかするよ。どうすればいい?)



 おれはいちもなく、承諾した。


 であるおれは……おれに助けを求める声を、無下になんて出来やしない。

 助けることができるならば、自分にそれが可能ならば……それをすべきだと、この魂が告げているのだ。






…………………………



…………………………





…………………………









(…………んんー……?)



 ふとももの上に置かれていたスマホが断続的に震え、その動きと音で意識を呼び起こされる。


 誰だこんな朝っぱらから……と億劫な気持ちになるのを堪えきれないまま、眠い目をこすりながらのっそりと身を起こす。



 あれ……いつのまにか眠ってたんだろ……ああ、そうか。


 例の『歌ってみた』動画を完成させて、配信サイトYouScreenに投稿して、SNSつぶやいたーで宣伝したところで……どうやらそこで力尽きたようだ。

 パソコン机のゆったりチェアに腰かけたまま、リクライニングした背もたれに深くもたれて寝落ちしていたようで……なにやら身体の節々が凝ってる気がする。



 未だにしぱしぱする目を凝らしてスマホを手に取り、新着アラートへ視線を向け……


 差出人の名と文面を認識するや否や、一瞬で覚醒し跳ね起きる。



 慌ててスマホを操作し配信サイトユースクの管理ページへ飛び、目に飛び込んできた数字にまず唖然とする。


 大急ぎでSNSつぶやいたーの『若芽ちゃん』アカウントを開いてみても同様……そこに広がっていた光景に、今度は開いた口が塞がらない。



「………………え、うそ」



 仮想配信者UR―キャスター『木乃・若芽ちゃん』のアカウントには、なんと夥しい数の通知が……感想や意見や宣伝ツイートの拡散通知やブックマーク通知や新規フォロー通知等々が、これでもかと寄せられていた。


 それらの反応リアクションの数……じつに四桁。

 さらに大元、配信サイトYouScreenの再生数に至っては、十三時の時点で――投稿からおよそ七時間で――なんと間もなく五桁に届かんばかり。

 ろくな経歴もない産まれたててホヤホヤの新人配信者キャスターにしては、贔屓目に見てもなかなかの滑り出しなのではないだろうか。……というかこの時点で既に、自分の過去作をぶっちぎりで突き放している。割と泣ける。





「えっ、と…………どうしよ……」



 予想以上の反響を目の当たりにし、思考停止に陥っていたところに、スマホの振動が新たなる方針を告げる。


 もとい……既読マークが付いたことで、おれの起床を察してくれたのだろう。

 後輩にして同胞である烏森かすもりより、次なる作戦を立てるための作戦会議(というていの『お疲れさま会』の開催)を持ちかけられた。



 日時は今日の十三時半。

 開催場所は『若芽ちゃん』の収録スタジオ。


 ……つまりは、おれの自宅。



(そういえば『酒持ってく』って言ってたっけ。……あれ本気マジだったんか……)



 ……というか、どうやら既にウチの近くに到着しているらしく……更に言うとおれのリアクションが無いことから『寝落ち』を察してくれていた上、おれが自然と起きるまで待っていてくれたらしい。


 もうやめてくれ、申し訳なさがオーバーフローしてしまう。もはや手遅れだろうが、精一杯のおもてなしをさせて頂かなければ。

 REINメッセージツールに『いいよ』の絵文字スタンプを打ち込み送信しながら、とりあえずお飲み物だけでも用意しようと動き出したのだった。


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