第23話 【日常風景】寄り道をしよう
神曲として名高い、某有名ゲームの代表的BGM……ちょっと気分が乗ったので口ずさんでみたら、なぜだか理不尽に怒鳴られることとなった。
なにやらこっち向いてぼーっとしていたモリアキに前方注意を促したら、どういう因果かいきなり叱られた。青信号に気づいていなかった彼にそのことを知らせてあげただけなのに……感謝されるならまだしも、一体どうして怒鳴られなければならないのか。
内心の不満を隠そうともせず、抗議の意味も込めて不満と不快感を露にする。具体的には……頬を膨らめ、睨みつける。
「……だから、そういうとこですって先輩」
「なにがよ。おれがどうして怒られなきゃならないってのよ」
「何の前触れも無くいきなり神曲に神ボーカル生えてきたんすよ。鳥肌めっちゃヤバイし心臓止まるかと思いましたもん」
「おお、やっぱ良さげだった? 動画としてイケそう?」
「歌は文句無し、武器として戦えると思います。あとは音源というか演出というか…………あれ、そもそもゲームミュージックって包括権利契約に含まれてるんでしたっけ?」
「歌ってみた動画が既に出てるってことは、一応何とかなってるんじゃね? その投稿者が直接スエクニ社と契約交わしたわけじゃないだろうし」
「じゃあまあ……権利関係はとりあえずクリア、と」
いちおう、以前底辺
以前使っていた『旧アカウント』と現在進行形の『のわめでぃあ』では
後ろめたい点もほぼ無いことだし、あとは音源さえ確保できれば『歌ってみた』デビューも可能だろう。
最後の問題は……その音源をどこから持ってくるのか、といったところだ。
ゲームのサウンドトラックを背後で流す、という手は……ほぼ黒よりのグレー……というか、ぶっちゃけ黒だろう。カラオケトラック以外のカラオケ利用はNGだと聞いたことがあるし、そもそも原曲にもコーラスが入っている以上、歌声を魅せてこそである『歌ってみた』の音源としては適さない。
かといって、原曲のコーラスパートを編集で取り除く……なんていうのは言語道断だ。他者の権利物を無許可で勝手に改変し用いるのは一発アウト、罪の認識があろうと無かろうと明確な犯罪行為となる。
となると……オフボーカルの音源を一から作るか、もしくは直接演奏するしか道は無い。
前者は一朝一夕で出来るとは思えないし……ならば、後者か。
「モリアキ……おまえ
「ぅえ!? 先輩ギター
「わからん」
「………………はぁ?」
「い、いや、ごめんて。……その、だっておれ、エルフだし……」
「…………あぁ……なるほど。でもすみません、持ってないんすよ。自分オタマジャクシ適性は全くからっきしで」
「いやいいよ、無理言った。すまん」
しかし……幸いなことに、ここ
これはもしかするかもしれない、と……裏で神曲を流し続けるスマホを操作し情報を探す。検索エンジンにキーワードを入力し、ヒットしたページを開き、営業時間や料金や備品や設備を確認し……そして立地を確認する。
重ねて幸運なことに……
「モリアキ、その……頼みがあるんだけどさ。……今日このあと、用事って立て込んでる?」
「急ぎの納品も無いので大丈夫っすよ。先輩今色々と大変そうですし、今日一日お手伝いします。良いように使って貰って構いませんよ。車だとこっそり移動するのも楽でしょう」
「ありがとうモリアキ好き。後でパンツ見ていいよ」
「軽率に『好き』とか言うんじゃありません!! ……あっ、パンツは興味あります。何なりとお申し付け下さい先輩」
「お前のそういう正直なとこ好きだよ」
助手席にてスマホを操作し、件の店舗へと電話を掛けて色々聞いてみる。どうやら今日は
設備と機材の確認を済ませ、部屋の予約とレンタルの申し込みを済ませて電話を切る。
前提条件は……これで全てクリアだ。あとはおれ自身の技量、果たしてギターが弾けるようになっているのかという一点に、全てが懸かっている。
不安ももちろん、無いわけではないのだが。
「楽しみだな!」
「そっすね!」
新たな動画をつくることが……若芽ちゃんの魅力を広める算段を立てることが、今は何よりも楽しみだった。
神曲の弾き語り……やってやろうじゃん!
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