第21話 【事件現場】解決だってば!!





 いくら烏森の自宅直下が現場だったからとはいえ……普段悲しいほどに小市民なおれが、銀行強盗犯の前にしゃしゃり出るような無謀を晒すはずがない。


 事件現場に乗り込んで騒動を沈静化したのは、いうなればに引きずられたせいだ。

 あのときは、さも当然とばかりに介入する気満々だったが、今にして思えば明らかに違和感が勝る。本来おれはそんなに正義感溢れる人間では無かったハズだし、あんな緊迫した場に注目を浴びに行くような度胸も無かったハズなのだ。


 だが……襲撃犯の彼が支店長をボコり始めたときの怨嗟の声を聞き『このままではヤバイ』と

 支店長だけに留まらず、彼が『復讐対象』と定めた多くの人々――浪銀なみぎんの元同僚達、出張先の都鉄都心鉄道駅員、鉄道警備隊の面々、離縁した元妻、それから彼に憐憫や侮蔑や嘲笑の視線を向けた(と彼が思い込んでいた)数えきれない道行く人々――それら全てに対して害意を抱いているということを……ということを認識し。

 気が付いたら謎の義務感に突き動かされ、結局を晒すに至ってしまった。


 ……そう、醜態。

 スイッチが切り替わり、普段の小市民なおれに戻ってきた今との感覚では……まごうことなき醜態である。




『謎の力……『魔法』とでも呼ぶのが相応しいのでしょうか。その『魔法』を駆使して被害者を救い、事件を解決に導いた謎の人物に関して、警察は広く情報提供を呼び掛けています』


『いわば『正義の魔法使い』ですか……こんなお伽噺とぎばなしのような展開ですが、是非とも詳しいお話お伺いしてみたいところですね』


『しかしですよ守山さん……警察が情報提供を呼び掛けるって、彼らは犯人捕縛の際に直接会ってたんじゃないんですかねぇ? その噂の『魔法使い』さんに』


『それなんですが……警察からは『魔法使い』について、何も公表されていません。情報が伏せられているのか、はたまた本当に情報が無いのか、現段階では何とも――――』




 ……確かに、こんな状況でホイホイ警察に出頭すればどんな目に遭うか。少なくとも数日か数週間は自由を失うだろうし、そもそも自由な生活に戻って来れる保障も無い。


 『魔法』を扱える者なんて、おれ自身見たことも聞いたことも無い。パチモンなら何度かあるが、今回のように目に見て明らかな『魔法』を放つ存在なんて……この技術と学問の時代には存在していなかったのだ。

 そんな時代に突如表れた『魔法使い』である。……本や映画の観すぎかもしれないが、こういう場合って取っ捕まったら『魔法』の知識を奪うために取り調べとか脅迫とか拷問とか人体実験とかを仕掛けられるのがなのでは無かろうか。

 あの襲撃犯の彼も……目が覚めたら、きっと拷問とかされるのでは無かろうか。恐ろしいったらありゃしない。




「モリアキ」


「はい何でしょう」


「おれ……大人しくしてる」


「……それが良いと思います。綺麗さっぱり忘れちまいましょう。先輩これから忙しくなるわけですし」


「うん……そうする。わたし動画つくる」


「ほんと何なんすかその可愛いムーヴ……」



 そうだ。今のおれにはやるべきことがあるのだ。『種』に関する情報は正直欲しいが、拘束される可能性を考えてしまうと断固として否である。



 おれは……新人仮想配信者UR―キャスター『木乃若芽』ちゃんであるからして。


 おもしろい動画をコンスタントに撮影し、編集し、投稿し……合間合間にストリーミング配信だってしていかなければならないのだ。



「それはそうと……モリアキ」


「へ? 何すか?」


「言ったよな。FAファンア頼むぞ。R-17ちょっとえっちな感じでヨロ」


「…………ッフヘ。まーかせて下さいよ!」


「今度飲み行こう。奢るわ」


「せめてメシで。今の先輩が酒飲める居酒屋とか存在しねっすよ……」


「…………畜生!!」





 世間は週末の二連休……ちょっとした大事件があったとはいえ、まだお昼過ぎ。家に帰っても充分作業時間を取ることが可能だし、そもそもが今となっては自営業。出勤も退勤も業務時間も自分で決めればいい。

 ……最悪寝なければ、時間はどれだけでも取れるのだ。


 とりあえず……素材ともども幾つかストックしてある企画から、ひとつ。帰宅したら即撮影に移ろう。目標は……明日日曜日のできれば夕方までに、一本投稿する。



 ここががんばりどころだ。……気合いを入れろよ、局長おれ


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