第15話 【緊急事態】だんだん雲行きが
さてさて。
ゆっくりと休息を取り、シャワーを浴びてさっぱりして、美味しい朝ごはんをばっちり頂き…………お手洗いもきちんと済ませて。
時刻はざっくり十時半、ゆったりとした土曜日のお昼前である。
(そだ、エゴサしよエゴサ)
昨晩の放送から一夜明けて、果たして話題のほどはどんなもんだろうか。
すると……出るわ出るわ盛り沢山。『かわいい』『髪きれい』『次の放送楽しみ』『チョロそう』『妹にほしい』『ぱんつみせて』等々。
加えて、直接送られる
所々に欲望に忠実なお下品な
中には初回放送で告知したように、『何か歌って踊ってほしい』『カツ丼ならここがオススメ』『エフエフやりませんか』『すこやかハンバーグのレポを』『沖縄のビーチで海水浴を』『ファッションショーを』
心の保養にもなるし、ネタ作りの助けにもなる。やっぱり視聴者からの声は、嘘偽り無く非常に嬉しい。
若芽ちゃんを見守ってくれている彼ら彼女らの期待に添えるように、もっともっとがんばらないと。
しばらくの間ニヨニヨだらしない顔で
「『魔法ホンモノですか』……か。…………ホンモノなんだけどなぁ……説明したところでなぁ」
若芽ちゃんのアカウントに直接送られる
以前から使っていた
若芽ちゃんの演出を誉める言葉かと、文字通り『魔法』のように鮮やかな演出を讃える表現かと、しばしの間鼻高々でいたのだが…………それにしては何やら、少々様子がおかしいことに気付く。
「……銀行……強盗? え、ちょ、は!? 魔法使いが!?」
驚くべき記事が……
慌ててテレビを点けてみると、たちまち緊迫したレポーターの声が響いてくる。くだんの銀行強盗事件は今まさにニュース番組で取り上げられている真っ最中らしく、
それによると犯人はまだ銀行内部に立てこもっているらしく……しかも犯人は摩訶不思議なチカラ、それこそ『魔法』としか言いようがない異能を行使していたという。
民間警備会社の警備員も、警察の機動隊も、正体不明の異能に為す術なく返り討ちに遭い……襲撃を受けてからこちら、未だに状況は何一つとして進展していないのだという。
……そういうことも『あるかもしれない』とは思っていた。
おれ以外にも、非現実的な能力を授かった者が居るかもしれないということは、確かに考えていた。
だが……よりにもよって、こんなド派手なことをやらかすとは。
おれと同類でありながら、犯罪行為に手を染める輩が現れようとは。
これでは……下手をすると
上手く釈明しなければ……それこそ演出ではなくホンモノの『魔法』を使っていると知られれば、今テレビに取り上げられている銀行強盗犯の同類と見なされ、社会全体から敵対認識を受けてしまう恐れだってある。
『こちら現場上空のアツタです! 今朝未明より続いている
(うーわ……神宮支店ってこのへんじゃね? そんな大騒ぎになってたんか……)
『アツタさんこちらスタジオです。周辺住民に避難の指示が出たとのことですが、映像を見る限りではマンションが立ち並ぶ区画のようなのですが……その、逃げ遅れた人とかは居ないのでしょうか? 住民の方の安全とかは、その』
(うへぇ……近くに住んでる人は不安だろうなぁ……)
『……………………はい! 県警が主導となって周辺のお宅一戸一戸訪ね、一軒家マンション問わず避難を呼び掛けたとのことです! …………えー……ご覧のように封鎖区画の外側では、住民の方と思しき人々が、現在も不安そうに行く末を見守っています!』
(そんな大掛かりに避難呼び掛けてたんか……あれ、このへん何も聞こえないけど遠いんかな……? いやでも神宮支店って近くのハズだし……あっ、あのファミレス見覚え……ある…………し?)
「ああ!!?」『はああああ!!?』
後方、ドア二枚を隔てたお手洗いから、
一方、おれの手もとのスマホからは
「…………おェあ!? ウチの一階じゃないすかコレ!! ナンデ!? ニュースナンデ!!?」
「………………ご、めん……おれだ」
「は!? え、ちょ!? 銀行強盗!? ……え、だって、こんな静か……は!?」
スマホに表示された新着メッセージ、何度か原稿合宿を共にした身内からのメッセージには……『マサキ起きろwwwwモリアキ氏宅がニュース出てるwwww』との一文。
テレビからの情報と、身内からのタレコミ……これらの情報を統合することで浮かび上がる事実は、もはや一つしか考えられないだろう。
「えっと、えっと……ごめん。謝る。ごめん。……【
「ウェワアアアア!?」
先程まで堪能していた『のんびりゆったりした土曜の朝』は跡形もなく消し飛び……静寂を押し退け飛び込んで来るのは、消防車輌のサイレン音と報道ヘリのローター音、そして犯人に呼び掛けているとおぼしき拡声器越しの大声などといった……紛れもない
誰がどう見ても『逃げ遅れた』としか思えない状況に……おれたちは呆然と顔を見合わせるのだった。
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