第27話 怪しい男

「失礼しますよぉ」


 僕がギルドでソニンに魔力を込めた人参を与えてる最中、ギルドに冒険者らしからぬ軽い声がかかる。


 厳つい冒険者達がなんだなんだと振り向き、そしてすぐに興味なさげに自分達の取り掛かっていた作業へと移った。


 僕もソニンのブラッシングへと移行する。


 その男は目立つ真っ白なコートを羽織り、真っ直ぐに受付へと向かう。

 そして手提げ袋から怪しげな薬を一本取り出し、こう告げた。


「また、困ってるんじゃないかと思いましてぇ、やってきましたぁ〜あ」


「ああ、コンドーロさん。お久しぶりです。今マスターを呼んでまいります。奥の部屋へご案内しますね?」


「ありがと~ぉね?」


 独特のイントネーションがいつまでも耳に残る。

 なんというか薄気味の悪さが勝る人だった。


「アレがいつもの薬売りの人ですか?」


 隣で一緒にソニンをあやすオレノーさんへと尋ねる。


 ブラッシングしただけでソニンがふにゃっとしている。


 真夜中はロキと共にこの地域の生態系を乱すハンターラビットとして君臨してるのに、その姿は見る影もない。


 僕のスキル範囲内では伸縮させたのもあり、僕が一抱え出来る大きさになっている。

 

 本来はウルフくらいの大きさあるからね、ハンターラビット。


「そうだな。でも薬を売りにくる連中と言ったようにアレは複数いるうちの一人でしかない。だが真っ先に売りにくる一人でもある」


 オレノーさんが戻って来た受付のお姉さんへと目配せすると『無事誘導できました』とガッツポーズで答えてくれた。


「見事檻に通ってくれた。坊や、悪いがここから談話室の隣へと移動する。そこで実際に拾ったことのないゴミが出て来たら教えて欲しい」


「分かりました。でも教えるだけでいいんですか?」


「こう見えて薬のことに詳しいんだ」


 命を狙われすぎて知りたくもないのに知っちゃった感じかな?


 まぁ僕は言われた事をやるだけだ。

 ソニンを抱っこして部屋を移動する。


 ゴミ拾いを発動し、周辺で見知らぬゴミがないかを索敵する。


 まだ指定ゴミの選択はしてないので対処可能かどうかが出てくる。


「普通にギスギの花粉が検出されてますね」


「街の中は平気だが、外はそれこそ酷いだろうからな」


「ですがどうしてあの方は目の痒みを訴えてなかったんでしょうか?」


「その特効薬を売り出す仕掛けがあるんだろう。引き続き索敵を頼む」


「はい」


『お兄ちゃん、あの人間から夜の森で嗅ぎ慣れた匂いがする。それも複数の気配だ。なんだアレ、ちょっと怖い』


 嗅ぎ慣れた?

 普段ふにゃふにゃなソニンが、夜の森でしか見せない顔をする。


「ん? 急に鳴き出してどうしたソニン。人参が欲しくなったかー?」


「いえ、あのコンドーロという人がどうもこの子が夜の森で嗅ぐモンスターの匂いを漂わせているとの事で」


「なんだかきな臭いな。花粉どころかモンスターの方もだって?」


 オレノーさんが真剣な顔つきになる。


「心当たりは?」


「あるっちゃある。俺が冒険者に志願した翌月ぐらいから、花粉と共にモンスターが強くなったんだ。本来はこの緩やかな気候と共に強いモンスターは寄り付かなかったんだが、一気に強くなって駆け出しの時はえらい苦労したもんでなぁ」


「ではあの人が何かしたと?」


「まだそうと決まったわけじゃない。怪しすぎるという点だけが目立ってるが、まだ証拠は何も揃ってない。夜の森で実際に何をしてるか見つけるまでは動けねぇな」


 ということで頼むぜ、と僕の肩をポンと叩く。

 今夜はロキ任せにせず、僕も夜更かししないとだ。


 談話室から独特のイントネーションの男の人が出ていく。


 索敵で拾ったゴミは大量のギスギの花粉だけだった。


 僕がいる間はゴミ拾いをオフのまま、男がギルドを出るのを確認してからオンにする。


 すでに何人かかゆみの症状を訴える冒険者が複数いた。

 コンドーロという男はこれは売れると薄笑いしてることだろう。


 まぁ僕のゴミ拾いの対象範囲内なら、すぐに解決できちゃうんだけどね。


 あとは証拠を掴むだけだ。

 外にクエストに行っていた兄さんと合流し、夜出かけるから今のうちにお昼寝する事を話したら「頑張ってこいよ、お前の頑張り次第で俺たちの夜食が豪華になるんだからな!」と割と豪華な食事を突いて応援(?)してくれた。


 もともとCランク冒険者だったのもあり、僕がいなくても食いっぱぐれない実力もあるのだけど、このチップをねだるような言い方は遠巻きに僕を励ましてるんだなぁ、と最近になって気付いた。


 普通に頑張るだけじゃ、ダメな時もある。


 そこで誰かのことで頑張る事で、僕は力を発揮しやすいのだと知っていた兄さんは『オレが頼んだから、失敗したら責任は全部俺が取る』と、暗にそう言ってくれてるのだ。


 一緒に行動してなくても、守られてるなぁと思いほっこりする僕だった。


 オレノーさんも「いい兄貴に恵まれて良かったな」と僕の背中を叩く。


 自慢の兄です、と誇るとオレノーさんも「うちの兄貴もそうだったら良かったんだが」とどこか哀愁を漂わせた顔をした。

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