第19話 共犯者
一方で弟をしながら、もう一方で兄を演じる二足の草鞋生活は続く。
「そういやルーク、お前オレに隠してることねーか?」
「え、なんのこと?」
もしや黙ってソニンに会いに行ってるのがバレたか? と思っていたら、どうにも話の方向がおかしい事に気がついた。
兄さんの話の持っていき方は、森で純白に輝く毛色を持つハンターラビットを何度も見た。
そんな噂である。
間違いなくソニンが僕の言いつけを守らずに浅い場所にまで来ている。
けど、それを知らない兄さんからしたら僕が内緒で変身して息抜きしてるんじゃないかと言い出したのだ。
「それは僕じゃないよ」
「じゃあ、もう一匹いるのか?」
「居るには居るんだけど、これはなんと言っていいのか」
僕はその場でロキへと変身する。
兄さんは「こんな場所で?」と目めを丸くするが、すぐに変身を解くことで「変身時間に制限があるんじゃなかったのか!」とすぐに詰め寄ってきた。
いつまでも黙ってられないからと、兄さんにはソニンの情報を開示する。
お金に汚い兄さんだけど、物事の物差しは僕よりもきっちりしてる人だからと、そこは信用していた。
「マジか。もう一匹いたのか。オレはてっきりお前が面白半分で変身して遊んでるなら即座にやめさせようと思ってたんだ。今回ばかりは親父も本気だ。実の親であろうとあの人を信じるのはやめとけ。親子だからこそ、命令を聞けと強要してくるぞ?」
一体過去に父さんとなにがあったんだろうと言うくらい、兄さんの言い分は真に迫っていた。
それはそれとして面白半分で変身してたって思われてたのは心外だ。
変身した時の能力の変化についての説明も付け加えた。
「ふむ、変身出来るだけじゃない? 変身した同種族のモンスターとの会話も可能だと?」
「僕は普通に喋ってるんだけど、なぜか向こうには普通に会話が通じるね。その子に優しくしてあげるたびに最大変身時間は伸びていく感じ。今は最長一時間かな?」
「ボアの討伐も単独で可能と?」
「変身中なら」
「まだまだ守ってやんないとって思ってたけど、どんどん置いてかれるな」
「でも、変身時間は一時間だよ? ずっと強くはないもん」
これは本当。
いつでも戦える兄さん達と比べたら拙さはどうしたって出る。
変身解除後の弱体化は自分でもどうしようもないんだけど、だからこそ拾えるゴミを増やすのは護衛術にもなるのだ。
どれだけ多くのモンスターをゴミとして拾えるかで、僕の安全は変わってくるからね。
「十分だよ。オレ達だって戦闘し通しはごめん被りたい。戦闘中だけでも背中を預けられる時点でこっちも気が楽だ」
「変身中は姿見られたくないんだけど?」
「だからこそ、俺たち以外と組めないだろ? あの場でハンターラビットを見捨てて置いてなんだが、中身がお前だと知ればそこまで薄情にはならねーよ」
「そうなのかな?」
「そうだよ。実際、遠征中はお前の名前を連呼してたからな」
「あはは」
シャワー関連然り、疲労抽出スキル然り。
採取による失敗もない。遠征中はそれこそ稼げない、無駄に浪費するで散々だったそうだ。
そこへ新たに変身時の戦力アップも加われば、断るどころか二つ返事で了承してくれると言う事だった。
それをミキリーさんとストックさんへ話した結果。
なんとも言えない顔をしていた。
腕を組み、悩み込んだ末に絞り出した声は疲れ切っていた。
「正直、あたしも大層な生まれじゃないけどね、下手すりゃ国相手に喧嘩売るような真似、ごめん被りたいところだよ」
「じゃあ、協力は難しいですか……」
発言を聞いて、説得はできなかったかと落ち込むと、その頭に手を置かれた。
「最後まで話をお聞き。確かに国に楯突くって言うんなら考えるが、そうじゃないんだろ?」
「でも僕はあの子を助けたいです。それは最終的に人類を裏切る事になったりしないですか?」
「ならないねぇ。逆にあたしならこう言うよ? ハンターラビットも飼い慣らせる。あたし達はその第一人者だって自慢してやる。その代わりすこーし、演技してもらう必要があるけどいいかい?」
「演技って?」
「リーダー、この件を受けるにあたってちぃとばかし出資して欲しいが聞いてくれるかい?」
一体なんの企みだ、と兄さんの眉が顰められる。
ミキリーさんが兄さんに耳打ちすると、なるほどなぁと相槌を打った。
僕は話についていけなくて首を傾げた。
「ルーク、オレたちは今から流れのサーカス団となる。基本的には冒険者だが、興行としての側面を持たせる。そこでお前の言うもう一人も匿えないかって作戦だ。オレたちはお前の共犯者になってやる。どうだ?」
「そんな事が……可能なの?」
「正直、自分で言ってて相当無理はする。けどな、ルーク。ここでお前を見捨てた後、オレ達は果たして胸を張って冒険者を続けられるかと思った時、絶対にお前を見限った時を思い出してケチな人生を過ごすだろうと思った。だからな、ルーク。これはオレたちの為でもあるんだよ」
「兄さん……ありがとう」
僕は兄さんに打ち明けて良かったと涙する。
だけどまだ協力者を得られただけだ。
ソニンを従えたわけじゃない。
僕を庇ってくれる味方は居ても、ソニンが問題を起こしたとすれば話が別だった。
ここから先は、僕がなんとかしなくちゃいけないんだ。
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