第18話 ★スキル【収縮】
何日かあの子ウサギの元へ通い続けた結果。
名前はないのは困るなとたどり着く。
兄、つまり変身中の僕をロキとし、実はメスだった相手をソニンとした。
つまり妹だったってこと。
いつまでも種族名で通すのは失礼だからね。
変身時間はあれから絆LVを上げるごとに上昇した。
LV5の最長変身時間は60分だ。
それと絆LVが5を超えて変身/解除が即時可能となった。
これはありがたい。
服の方は僕の体に応じて伸び縮みする★スキル【収縮】を獲得することでなんとかしてる。
これはスライム片から獲得したスキルだ。
★スコアは6.00とキツめだが、お洋服を買い替えなくていい分、重宝している。
おかげで服を着るハンターラビットととしてソニンから白い目で見られているが、気にしないでおく。
『お兄ちゃん、どうして一緒にいられる時間が少ないの? もっと一緒にいてよ』
『無茶言わないでよ。それと僕は君のお兄さんじゃないと何度も行ってるだろう?』
『嘘! その毛色はどう見たってお兄ちゃんだもん!』
との一点張りで僕はソニンから兄として見られている。
ロキとしてはもっと一緒に居てあげたく、ソニンの要望を叶えるたびに絆レベルが上昇する形となっていた。
おかげで僕はお忍びの旅を強いられている。
変身解除中は僕にロキ程の身体能力は備わってない以上、動く時はどうしてもロキになる必要があった。
『さて、今日はこの辺で失礼するよ。くれぐれも浅瀬に来ないように』
『どうして?』
『怖い人間達が死に物狂いで僕たちを狙ってるんだ。僕はその人間達をどうにかする為に身を隠す必要がある』
『人間って餌でしょ? あんまり美味しくないけど。大丈夫、返り討ちにするから!』
ハンターラビットとと言うのはどうしてこう、野蛮なのか。
『やめておいた方がいいよ。僕や、君のお兄さんは油断してこっ酷くやられた。単体で弱くても、大勢でかかられたらソニンだってすぐやられる。人間はずる賢いんだ。だからここで大人しくしてて』
『ぶー』
ソニンは聞き分けが悪くて随分と手を焼いていた。
まるで僕の言うことを聞く気がない様子。
それでも大人しくしてくれてるのは、僕の毛色が兄を思わせるからだそうだ。
けど、絆LVの上昇にはソニンの協力が必要不可欠。
僕の戦闘力は実質ロキに変身できる時間にかかっていると言ってもいい。
そして絆LVが上がる基準は、いかにソニンが早まった真似をせずに延命できるかが鍵となっていた。
要は食事だけでなく生存戦略を同時に行わなければならなかった。
人間と違ってモンスターは全方位に敵を持つ。
安全地帯なんてなく、心休まる時もない。
なのでロキはソニンが心配でならないみたいだ。
『では行ってくる。またいつもの時間に落ち合おう』
シュバッとその場から姿をかき消す。
僕はロキの戦闘能力を実際に見た事はないけど、今の敏捷力と腕力があるのならボア相手に戦争を吹っ掛けてもおかしくないと思うのだった。
▼▼▼
「ごめーん、兄さん。急にお腹の調子が悪くなちゃって」
「遅い! こっちは待ちくたびれたんだぞ」
森の中で待たせた兄さん達がぷりぷりと怒っている。
結局遠征は空振り。旅費で溜め込んだ現金が尽きて、ホームでの生活が忘れられないと一週間で帰ってきていた。
要は僕が居ないことで起こるデメリットが浪費の原因となったらしい。
シャワー代と武器の磨き代、それが蓄積されて首が回らなくなったんだって。
なのでお腹が痛いと少し時間を取ると、ピリピリした空気を感じた。
帰ってきてからずっとこんな感じだ。
「腹の中のものは老廃物で取り除けないのかい?」
「それが、体内のものは対象外みたいなんだ」
ミキリーさんの質問に、僕はすっとぼけた。
これは嘘。
僕はおしっこもうんちもゴミ拾いで拾える。
でもそれを伝えたら僕をあちこち連れ回そうとするし、それをされるとソニンに会える時間がなくなっちゃうから仕方なく嘘をつく。
「ここら辺は浅瀬とはいえ、そこら辺に生えてる植物で毒を持つものもいる。尻を拭く紙代わりに触った植物がその系統だと、怪我じゃ済まない時があるんだ」
「そう言うのはあらかじめゴミに設定するようにしてるから」
おかげで僕の用を足すスポットは丸く刈り込まれてる。
しゃがんだ場所がスキルを発動した場所。
これをあえて残すのは、そこにいましたよと言う合図なのだ。
そしてそこに踏み込まれても構わないように手頃な岩に僕の服を着せる偽装もしておく。
結局対象が居ないと護衛としての面目が立たなくなるからね。
なので帰ったら精一杯チップを奮発するつもりだ。
昨日まで貧しい食事事情だったからこそ、思いっきり当てにされてるのはその表情から見て取れてたから。
「ルーク、またいつもの頼めるかい?」
散々飲み食いした帰り、宿の女将さんからいつものコップいっぱいの水を頼まれる。
こっちもすっかりビジネスになっている。
「かー、この一杯のために生きてる!」
感情の伴った声。
大袈裟だなぁと思いつつ、兄さんの瞳が僕の手元のコップを凝視する。
「ルーク、なんだその水。何がどうなるとああなるんだ?」
疲れ切った女将さんが元気溌剌とばかりに厨房に引っ込んだ姿を見送り、兄さんはそう質問する。
「それは体験してみればわかるんじゃない? はい」
女将さんにお水のおかわりを頼み【疲労抽出】スキルを付与。
それを飲んだ兄さんは目を見開いた。
そして僕の両肩をがっしり握り、頭を下げてくる。
「ルーク、これは売れる! 兄ちゃんに任せてくれないか?」
「僕の手は一つしかないよ?」
金に困ってる兄さんは、さっそくビジネスを思いついたように言うけど、これには明確な弱点があるんだ。
自室に戻り、弱点をお披露目する。
それと言うのは付与して1時間で効果が切れるのだ。
一時間経てばただの水。
僕は兄さんの遠征にそれを持たせてあげるつもりだったけど、そんな上手い話はないのだなと思い知ったのである。
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