第12話 採取先でのトラブル

「兄さん、今日はよろしくね」


「おう! こっちこそ頼むぜ? ルークの頑張りでオレ達の晩飯が豪華になるんだからな!」


 なんのこと? と尋ねたら。


「パーティ募集っつーのは、基本的に弱い奴が強い奴にお願いをすることが多い。特に今回の場合、オレ達のパーティとルークじゃ釣り合いが取れない場合があるよな?」


「うん、その場合はお金の支払いが必要?」


 兄さんはわかってねーな、と肩をすくめて首を横に振る。


「そこまでは求めないが、仕事をしてはい解散じゃあ、2度とそいつの募集には乗らないよな? 誰だって暇だから付き合ってくれるわけじゃない。場合によってはチップを弾んでくれることを期待するわけだ」


「じゃあ僕はクエストの成功報酬の何割かをその日世話になったパーティの夕食のおかずに足すことで、次もパーティ募集に応募するときに人の集まりが良くなるってこと?」


「オレ達が間に合わずとも、他の奴らに良くしてもらったって口添えぐらいは流してやれる。が、オレのコネ云々じゃそう言う連中は靡いてくれないのさ」


「僕の今後の為に教えてくれたんだ?」


「実際に俺たちの腹が膨れるのは本当だろう?」


 敵わない、と思った。

 これが冒険者って人達。

 兄さんはその人たちとの付き合い方を、実践を交えながら教えてくれているのだ。


「じゃあ、いっぱい持って帰らないと!」


「オレも行きはそれぐらいのつもりでいたんだぜ?」


「持ち帰った後には……って奴さ!」


 ニシシ、とミキリーさんが笑う。


「だがザムさんの所で勉強をしてきていると聞いている。リーダーより期待はしてますよ」


「おーまーえーらー! どうせオレは戦闘一辺倒だよ!」


「そこまで言ってないじゃないの」


 場所は変わり、近隣の草原。


「おいおいおいおい、ルークが近づくだけで雑草が根こそぎ枯れてくぞ?」


「魔法か!?」


「いや、術式の反応はない……これは!」


「あらかじめ、ザムさんから近隣の採取品からヒリング草以外の薬草をゴミとして取得しておきました。なので僕の前に現れるのこそが……」


「ヒリング草って事か!」


「はい……僕は採取に専念します。それ以外はお願いしますね?」


 僕が採取に勤しむ中兄さん達は周辺に気を配らせながら雑談をする。


「おうよ、お仕事頑張りますか。こりゃチップも期待出来んぞ?」


「ご兄弟なら無償でやるくらいしたらどうなんです?」


「それじゃあ、オレ達以外の奴と組む時に困るだろ?」


「スパルタな事で」


「オレ達だって楽な道は歩いてきてない。それでも兄貴だからな、面倒は見てやりたい」


「食い意地さえ張ってなけりゃ、良い話だったんだがね」


 ミキリーさんが喋りながら息を切る。


 土を踏み込む音、続いて何かが風を斬る。

 木に何かを擦り付けた様な甲高い音、同時に何かの生命体の威嚇する様な声が響いた。


「ギャ、ギギャ!」


「ウジュルジュル……」


「ゴブリンとレッドジェルか。ルークに近づけさせるな!」


「任せな! ストック」


「おまかせを! フィジカルアップ、ガードアップ」


「オラァ! ぶっ飛べ!」


 僕の背後で大木がへし折れる様な音、続いて倒れる様な音。


 僕は後ろを振り向きたくなる様な気分にさせられるも、仕事に集中する。


「やべぇ、レッドジェルを通した」


「バカ、何してやがる!」


「ルーク君!」


「へ?」


 続いて叫ぶ様な声に振り返ると。


 ジュワッ


 真っ赤な塊は僕に届く直前に消え去った。


 向こう側では僕にスライム片を投げかけたレッドジェルと、兄さん達が目を丸くしながら僕を見る。


「あ、スライム片もゴミにしてたんだった。言うの忘れてた」


「それを先に言え!」


「あー、ビビッた!」


「ルーク君、ナイスです!」


「えっと、すいません」


 何事もない様で安心した。

 そんな三人の声に安堵して、僕はヒリング草を採取する。


 動き回って汗まみれの三人に老廃物除去を施すと喜ばれた。


「これがシャワー免除のスキルか。やばいわね」


「汗を掻いた不快感全部飛んだぞ?」


「疲労の方は残ってるので無理は禁物ですね」


「そういやヒリング草の方はどれくらい集まった?」


「これくらい。一束10枚で15束くらいだね」


「4500ゼニスか。帰りにイタズラキノコに出会わないことを祈るしかねーな」


「ああ、そういやこの森に居たね」


「イタズラキノコの胞子なら、除去できるよ?」


 今日何度目かのキョトン顔。


 僕、ザムさんのところで獲得したゴミ、兄さんに教えたつもりだったけど覚えてなかったのかな?


「じゃあなんの憂いもないな。今から帰れば日が暮れる前に帰れるが、どうする?」


「深追いは禁物よ? リーダー」


「そうですよ、ルーク君。帰るまでがクエストです。お嬢の言う通り引き際も肝心ですよ?」


「そうですね、じゃあ帰ります。でもその前に……」


 足元に転がったゴブリンをゴミに認定した。


 その光景を見ていた兄さん達が、なんとも言えない顔をしていたのをよく覚えている。


 どうやら自衛とは言え、モンスターをゴミ認定は無理がありすぎた様だ。


 スライムができたんならゴブリンもいけると思ってやっただけだよ。

 まぁ、それは半分嘘で本当はあまりまくったスコアをここで解消しちゃいたかったんだ。


 ヒリング草以外を全部回収したのもあって、スコアがすごいことになってたからね。

 

 だからそんな顔しないでってば。

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