1-11 脱出を諦めるぞ!

「で、この塔から脱出する方法だが」


 レイヴナーが偉そうにテーブルに腰かけて言った。


「内側から出る方法と、外側から出る方法がある」


 夜、香菜は100階を再び抜け出して、タオルとともにレイヴナーの部屋にいた。

 作戦会議をするぞとレイヴナーから招集がかかったためだ。


「それはそうだろ」


 タオルが言った。

 

「あの、外から出るのはなるべく嫌なんだけれど」


 香菜がおずおずと手を挙げると、レイヴナーはふんと鼻を鳴らした。


「当たり前だ。外から出た方が早いのは確かだが、精霊どもの気配がする。なぜ襲ってこないのかはわからないが、外は危険だ。となると、中から階段で降りる方法が確かだ」


 香菜はほっとした。あの手帳の映像で見たような目には絶対に遭いたくない。


「ところで、精霊ってよく聞くけど何なの?」


 香菜が尋ねると、タオルとレイヴナーが信じられないという顔をした。


「私、変なこと聞いちゃった?」


「そりゃそうだよ。精霊のことを知らないなんてさ。まあ、おいらも精霊が何かって聞かれたらうまく説明はできないんだけど」


「精霊とは人間に害をなす悪なる存在だ。太古の時代からこの世界に存在する。精霊の種類は多岐にわたるが、人間の魂を食らうものから畑の作物を腐敗させるものまで、いろいろだ。そしてその精霊を統べる『精霊王』という存在を封印したのがこの僕、大天才魔法使いレイヴナー様というわけさ」


 説明を聞いたが、どうも釈然としない、と香菜は思った。

 もしかしたらレイヴナーですら、精霊が何なのかよくわかっていないのかもしれない。


「この監獄塔『バベル』については僕も詳しく知らないが、下界に住んでいた頃に様々なうわさを聞いたことがある。戦争捕虜や他種族の民、犯罪者たちが各階に囚われていると聞いた。10回、20階のような10の倍数の階には、そのエリアを束ねる『支配者アルコン』たちが、囚人たちを管理しているらしい」


 この塔は監獄なのか。悪い人が閉じ込められる場所。

 カナリア姫はいったい何をやらかしたのだろうか。


「『アルコン』って何?」


「下を目指す僕たちにとっては、強敵となる存在だ。支配者アルコンどもを倒さなければ、その階を通過できない。だが安心したまえ。この大魔法使いレイヴナー様が、あらゆる敵を倒してみせよう。お前たちは僕の強さに驚嘆し、ひれ伏すことになるだろう!」


「スーザンはアルコンなのかな」


 タオルがぽつりとつぶやいた。


 確かに、スーザンは90階に住んでいると言った。

 逃げようとしたら香菜のことを殺すとまでいったスーザンも、やはりアルコンの一人なのかもしれない。


「お前たちがよく話しているそのスーザンというのはなんだ?」


 レイヴナーが偉そうに尋ねた。


「90階に住んでいる女の人だよ。おいらにペンダントをくれた人」


「も、もしかして、女か?」


「そりゃそうだよ。何か問題でもあるのかい?」


 レイヴナーが目に見えて青ざめて、ごくりと唾をのみ込んだ。


「そのスーザンとやらは、もしかして年増の女だったり……するか?」


「年増かは知らないけど、40歳前後くらいだと思うよ、たぶん。どうしてそんなことを聞くんだい?」


 レイヴナーがいきなり立ち上がり、面食らう香菜とタオルの目の前でどなった。


「やめだ! この塔からの脱出はやめにする!」

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