1-7 大魔法使いレイヴナー

 香菜とタオルは顔を見合わせた。


「レイヴナーですって。知ってる?」


「さあ」


「失礼だね君たち!」


 男性――大魔法使いレイヴナーは鼻をふくらませた。


「僕はあの邪悪な精霊王を封印し、世界を救ったレイヴナー様だ。もっと崇めたたえよ」


「あのおじさん、水を吸ったらしわが伸びたよ。まるで雑巾みたいだ」


 タオルがつぶやく。レイヴナーはきっとタオルを睨んだ。


「おじさんではないっ。僕はまだ若い! それに雑巾はお前の方だろう、薄汚い小僧め」


「ちょっと、それは失礼じゃないの。タオルはあなたを助けようとしていたのよ。あなたこそ、そんなにすごい人なら、なぜこんな塔の中にいるの?」


 香菜の質問に、レイヴナーはいきなり口ごもった。


「精霊王の封印がとけかかって、僕が疑われたのだ。だが別に、僕の魔力が足りなかったからではなく、ごにょごにょ……」


「よくわからないけど、つまり冤罪で閉じ込められちゃったってこと?」


「そうだ! ものわかりのいい女だ。水竜の末裔ネプチュメロス族の、生命の源は水。水がなければ干からびてしまう。僕がちょっとばかり弱っていたところを、お前が助けてくれたのだ。褒美として、お前を僕の助手にしてやろう」


「助手ですって?」


 香菜が目を丸くすると、レイヴナーはびしっと指を香菜の顔に向かって突きつけた。


「そうだ。僕はこんな狭苦しいところに閉じ込められるような器ではない。絶対に王都へ戻るのだ。女、雑巾。僕がこの塔から脱出する手助けをしろ。いいな」


 ちょっと待ってくれよ、とタオルが言って、香菜を部屋の隅に引っ張っていった。


「どうする、カナ。あのおじさんに協力する?」


 タオルが小声で香菜に尋ねる。


「そうねえ……悪い人には見えないけど」


「でもなんかすごい高慢ちきだよ。おいらはおじさんが死にそうだったからカナに水を出してもらったんだ。なのに、あんなに元気になるなんて」


「私も下へ行きたいのよ。こんな高いところ、まっぴらごめんだわ。レイヴナーは偉大な魔法使いらしいし、ここから出してくれるようスーザンを説得してくれるかも。タオル、あなただって、塔の下に家族がいるんじゃないの?」


 タオルは目を丸くした。


「おいらの……家族?」


「そう。あなたにだって、お父さんやお母さんがいるはずよ。もしかしたら、きょうだいだって。家族に会いたくない?」


 タオルはぽつりと「会いたい」と言った。


「そうこなくっちゃ」


「相談は終わったか、女と雑巾」


 レイヴナーが腕組みしていった。

 香菜とタオルは立ち上がって振りかえった。


「私は香菜。この子がタオルよ。私たちもあなたと一緒に行くわ」


「そうかそうか。この塔『バベル』には、様々な強敵が待ち構えている。だが、どーんと構えていてくれたまえ。僕が全員やっつけてやるからな。それでは手下たちよ、まずはこのずぶぬれになった部屋を掃除したまえ。僕の寝床がびしょびしょだ」


 いつのまにやら「助手」から「手下」にされている。

 タオルがため息をついて、「雑巾を持ってくるよ」と言った。

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