46 サバトラの決意

 大船観音で賢者ソース様、勇者モフに合流した後、三毛猫ロイエンの案内で僕たちはある一軒家にやってきた。

 庭に入ると、いるわいるわ、猫だらけのまさに猫屋敷だ。


「騒がしくてすまないね。ここのご主人、捨て猫たちを家で引き取っている奇特な方でな、今は家に30匹ぐらいの猫が住んでるんだよ」


 勝手にロイエンにミステリアスなイメージを持っていた僕はちょっとびっくりしたけど、彼女は猫屋敷の中でもリーダーらしい。


「あっ、ロイエンさん、おかえり!」

「ロイ姉、遊んでよ!」「僕も遊びたい!」「あたしも!」


 あっという間に子猫たちに取り囲まれるロイエン。ずいぶん子猫たちにも人気みたいだ。子供好きの女性って、いいよね〜。


 そうだな、僕もパートナーを見つけたら、子供はたくさん欲しいな。で、毎日パートナーと子供達と日なたぼっこしたり、遊んだりするんだ! ロイエンさんと、日なたぼっこ……!


「どうしたんだよ、サバトラ。なんだか顔がだらしなくなってるぞ?」


 勇者モフが僕に言った。いけないいけない、つい妄想が膨らんでしまった。


「それでは一晩お世話になる。ロイエンどの、かたじけない」と賢者様。


「いいってことさ。有名な賢者様に会えて、ここの猫たちも嬉しいだろうよ。良かったらみんなの挨拶、受けてくれたら嬉しいね」

「もちろんだ」

 そのままソース様とモフは、しばらく猫たちと挨拶をしていた。


「で、何だってこの街に立ち寄ったんだい?」ロイエンが尋ねてきた。

「はい、魔王を倒すために探し物をしているんです」


 ふっ、とロイエンの顔が曇った気がした。何か変なこと、言ったかニャ?


「アタシはね、賢者様みたいに予知能力はないけどさ。最近、すごくイヤな夢ばっかり見るんだよ」

「悪夢、ですかね。どんな夢を?」

「夢だからモヤモヤしてるんだけどさ。すっごい邪悪な何かが話しかけてくるんだ。『人間をコロせ』ってさ」

「それは……物騒な夢ですね」


 確かにイヤな夢だ。ロイエンには何か悩みでもあるんだろうか?


「アタシは別に、人間のことは嫌いじゃないさ。なのにこんな夢を見るってことは、潜在意識で人間を憎んでいるんだろうかって悩んじゃってさ。もしくは」

「もしくは?」

「……悪夢は魔王の仕業じゃないか、ってね」


 ドキン。魔王の仕業、それはつまり魔王が夢に干渉してくるということなのか?

 確か、魔王は動物を操ることができると賢者ソース様が言っていた。夢に現れて、動物を操って……

 僕はブンブンと頭を振った。それは、いくらなんでも怖すぎる。魔王マジヤバすぎだ。


「どうしたんだい、サバトラ? アタシに何かあれば、守ってくれるんだろ?」


 ロイエンはオッドアイの目をイタズラっぽく光らせながら、そんなことを言ってくる。


「も、もちろんです! どこにいても、絶対駆けつけますから!」

「ありがとね。頼りにしてるよ」


 今までフワフワと流されるように生きてきた僕の猫生。でも今この瞬間、僕には一番の優先事項ができた。

 このロイエンさんのために、俺は強くなる。彼女を守って、そして彼女と……

 僕、もっと頑張らないとニャ!


 ◇◇◇


 翌朝。

 朝めし(エサ)もご馳走になった俺たちは、リーダーの三毛猫・ロイエンさんと集まった猫たちに別れの挨拶をした。


「皆の者、世話になったの」

「ロイエンさん、一宿一飯の恩義、決して忘れません。皆さんもお元気で!」

「また飛んでくるチュン!」

「……バイバイニャ」


 なんだかサバトラに元気がないけど、どうしたんだコイツ?

 と、サバトラは顔をキッと上げ、ロイエンさんに向かって言った。


「ロイエンさん。僕、もっと強くなるニャ!」

「……がんばってね、サバくん」


 周りの猫たちも事情を察したのか、まわりでヒューヒューはやし立てている。まあ音としては「ニャーニャー」だったが。

 俺も何か冷やかしてやろうかと思ったが、サバトラの目があまりにも真剣そのものだったからやめておいた。


 ◇◇◇


「ねえ、モフさん」


 猫たちと別れてしばらく黙ったままだったサバトラが、歩きながらポツリと俺に尋ねてきた。


「どうすれば、強くなれるのかニャ?」


 ダメだこいつ。もうあのリーダー三毛猫のことしか頭になさそうだ。


「それを生涯成績3戦全敗の最弱ポメラニアンに聞くかね? 俺も強くなりてーよ!」

「……強くなるニャ」


 人に聞くだけ聞いといて、話聞いてねーよコイツ!

 まあいいか、同じパーティの猫が強くなるのは悪いことではない。問題は勇者と呼ばれる俺が弱すぎる、ってことだ。これ、なんとかしないとな。


 そして1989年5月1日。

 俺たち勇者と賢者のパーティは約2ヶ月ぶりに東京に戻ってきた。

 目指すのは東京のど真ん中・皇居だ。

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