第4話 ドキドキの結果発表

 採点がすべて終わると、控室で待機していた私たちは表彰式の行われる場所へと移動しました。


──いよいよ、あと何分後かに優勝校が発表される。果たして俺たちの順位は──。


 私は控室にいる時に他の部員に出来を訊いてみたのですが、皆一様にはっきりと答えなかったため、自分たちがどの順位にいるか、まったく想像がつきませんでした。


 そうこうしているうちに、司会者が舞台に上がり、ついに発表となりました。


「それでは只今から優勝校を発表します。第五回全国高等学校簿記選手権大会優勝校は、広島県立子丸商業高等学校に決まりました!」


 その瞬間、ほとんどの部員が信じられないと言った表情で互いに顔を見合わせる中、私は「やった!」と一人大声で叫び、喜びを爆発させました。


「それでは代表の方、前に出て来てください」


 司会者に促されると、部長の宮田直子さんが感極まった顔で登壇して行きました。

 この宮田さんはとても面倒見のいい人で、私もよく悩みを聞いてもらいました。


「それでは次に個人成績を発表します」


 優勝に浮かれていた私は、司会者のその言葉で、ハッと我に返りました。


──あぶない、あぶない。大事なことを忘れてた。学校内で三番目までに入ってるかどうかが問題なんだ。


 本選は予選の時と同じで、学校内の上位三名の合計点で順位を決めるため、ここで三番目までに入っていないと、優勝に貢献していないことになるのです。

 私は団体優勝の発表の時と同じくらいドキドキしながら、司会者の声に耳を傾けていました。


「それでは発表します。第一位は──」


 この後、四位までは他校の生徒が呼ばれ、五位になってようやく我が校の生徒の名前が呼ばれました。


「第五位は広島県立子丸商業高等学校の前岡由紀さんです」


 この前岡さんは簿記部のエースと呼ばれているほど頭の良い人で、予選の時も学校内で一番でした。


──まあ、これは納得だな。問題はその後だが──。


 そんなことを思っていると、すぐに次の順位が発表されました。


「第六位は同じく広島県立子丸商業高等学校の小島博司君です」


──マジか! 小島の奴、さっきは自信ないって言ってたのに……。


 小島の言葉を真に受けていた私は、彼より順位が下ってことはないだろうと高を括っていたのです。


──まあいい。次に呼ばれればいいだけのことだ。


 その後、七~九位までは他校の生徒が呼ばれ、いよいよ残すは十位のみとなりました。


──次がもし他校の生徒だったら、三番目が誰なのか、どうやって判断したらいいんだ?


 そんなことを思いながら、私は司会者の声により一層耳を傾けました。


「第十位は広島県立子丸商業高等学校の石沢房江さんです」


──石沢? 誰だよ、それ……。


 と現実逃避したくなるほど、その名前を聞いて私はショックを受けました。

 

 それというのも、彼女は普段から目立たない存在で、予選の成績も芳しくなかったため、完全にノーマークだったからです。

 

 私は自分が優勝に貢献していないことを知って、さっきまでの浮かれ気分はすべて吹き飛びました。


 その後、広島に帰ってから、簡単な祝賀会が行われたのですが、私は心からは喜べず、その会も途中で退席しました。


 また、その一件から小島との仲もぎくしゃくし始め、部活も時々サボるようになりました。


 その頃、私の周りでは麻雀がブームで、学校帰りはクラスメイトの家で、休日は自宅か地元の友達の家で麻雀ばかりしていました。


 そんな私を見て、後輩の立花が「先輩、最近なんか暗いですね。先輩の取柄は明るさだけなのに、それが無くなったら何も残らないじゃないですか」と言ってきました。


 いつもなら、面白い返しをするのですが、「悪かったな。何の取柄もなくて」と、私はくそつまらない返しをしてしまいました。

 それだけ、その時の私は心に余裕がなかったのだと思います。


 そんな私を見かねたのか、ある日、堂本先生が「お前、ここにいるのが嫌になったのなら、辞めてもいいんだぞ。俺は無理に引き止めたりしないから。もし、そうでないのなら、サボらずにちゃんと真面目に出ろ。今のような中途半端なことはするな」と、叱咤しったしてくれました。


「お前は自分が優勝に貢献していないと思ってるみたいだが、なにもあの三人だけで優勝を掴んだわけじゃない。お前だって十分貢献してるんだよ」


 先生の言っていることがよく分からず、「どういうことですか?」と、私は訊ねました。


「お前は日頃から冗談を言って、みんなを笑わせてるじゃないか。とかく暗くなりがちなこのクラブにおいて、お前はもはや欠かせない存在なんだよ」


「……先生」


 先生のこの言葉は涙が出そうなほど、私の心に響きました。


 私は先生の期待を裏切らぬよう、簿記部のムードメーカーとしてクラブに貢献し続けることを、この時決意しました。


 


 

 

  


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