第2話 全国大会出場!
私たちは簿記部への入部が決まると、堂本先生に練習場所である簿記室に連れて行かれ、部員の前で自己紹介をさせられました。
「初めまして、一年一組の小島です。二級検定に合格する目的で入ったのですが、全国大会があるというのを聞いて、それにも出られるように頑張ります」
「「「パチパチパチ!!!」」」
──小島のやつ、優等生な挨拶しやがって。こういうのは、笑いを取ってなんぼだろ。
そう思った私は、とっておきの自己紹介ネタを披露しました。
「初めまして、一年一組の丸子です。……あっ! もしかしたら、この中に二度目や三度目の人もいるかもしれませんね。ということで、最初からやり直します。初めまして、一年一組の丸子です。二度目まして、一年一組の丸子です。三度目まして、一年一組の丸子です」
「「「あははっ!!!」」」
この自己紹介ネタは、めちゃめちゃウケました。
それに気を良くした私は、調子に乗ってこの後、芸能人のものまねを披露したのですが、それはまったくウケず、やめておけばよかったと後悔しました。
「じゃあ、お前らの実力を測るために、今から俺が作った問題を解いてもらう」
堂本先生はそう言うと、私と小島にプリントを配りました。
「じゃあ、始めろ!」
先生のドスの効いた声を合図に、私たちは揃って問題用紙に目を向けました。
すると──。
──なんだ、これは? まだ習っていない問題ばかりじゃないか。
そこに書かれていたのは、ほとんどが二級で習うものだったのです。
──こんなの、できるわけねえだろ。先生は一体何を考えてるんだ。
私は
「じゃあ、そろそろいいか?」
先生は、私たちが退屈そうにしているのを見て、そう言ってきました。
私たちが軽くうなずくと、先生はすぐに解答用紙を回収し、その場で採点し始めました。
ほとんどの解答に不正解を表すチェックマークがついていくのを、私はなんとも言えない気持ちで見ていたのですが、多分それは小島も同じだったと思います。
「二人とも、まだまだだな」
採点を終えると、先生は私たちに向かってそう言いました。
それを聞いて、私は怒りを通り越して呆れていましたが、小島はきゅっと唇を噛みしめ、とても悔しそうな顔をしていました。
その後、他の部員が一級合格に向けて勉強する中、私と小島は二級の問題をせっせと解いていく日々が続きました。
そして、二年次の六月、私たちは二級の試験を受けて見事合格しました。
その間、同学年の女子三人と下級生の女子四人が入部したのですが、彼女たちもそれぞれ二級と三級に合格していました。
「やった! 今まで頑張って来てよかった!」
当初の目的を果たせたことで私は大喜びしていましたが、小島は特に嬉しがるわけでもなく、いつもと変わらない様子でした。
「さて、試験の結果が出るまでは、お前らも気が気じゃないだろうが、そうも言っていられない。一ヶ月後には、全国大会の地方予選があるからな」
先生の言ってることがよく分からなかったので先輩に訊いてみると、すぐ結果が発表される二級と違い、一級は結果が出るまで一ヶ月かかるとのことでした。
堂本先生は、そんなことなどお構いなしに、この日から私たち部員を練習漬けにしました。
実際に大会で採用された問題を何度も解いているうち、次第に問題の傾向が分かるようになり、確実に力がついてきていることを肌で感じた私は、(もしかしたら、いけるんじゃないか)と思うようになりました。
そして予選当日、連日の猛練習により自信を深めていた私たちは、意気揚々と大会会場へ出向きました。
会場に着くと、私は周りをよく観察し、こんな風に思いました。
──みんな、緊張した顔をしてるな。これはやる前からもう勝負はついてるんじゃないか?
これは私だけではなく、ほとんどの部員がそう思っていたことでしょう。
その思いは現実のものとなり、私たちは二位に大差を付けて県代表の座を射止めました。
ちなみにこの地方予選は、それぞれの高校の上位三名の合計点で順位を決めるのですが、私と小島はその中に入っていました。
入部した当初、落ちこぼれだった私たちが、優勝に貢献したのです。
「丸子、小島、よく頑張ったな。お前らならやってくれると信じていたぞ」
学校に帰ると、堂本先生はそう言って私たちを褒めてくれました。
はにかむ小島の横で、私は「全国大会も俺たちの手で優勝に導くので、大船に乗ったつもりでいてください」と、自信満々に答えました。
「はははっ! それは頼もしいな。じゃあ二人とも、大いに期待してるぞ」
全国大会出場が決まってからずっとみんなの笑顔が絶えず、この和やかなムードのまま解散するのかと私は思っていたのですが……。
「言い忘れていたが、全国大会へ行く前に合宿を行うから、みんなそのつもりでいろ」
先生のその言葉を聞いた瞬間、たちまちみんなの顔から笑みが消え、周りは水を打ったように静まり返っていました。
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