おまけ 夏の2時間スペシャル(ダイジェスト)

あの後、俺と美緒は正式にお付き合いをすることになった。


桃香はしばらく仕事を休んで旅に出ていたが、1週間ほど経った頃、さっぱりした表情で「もっといい男見つけた!」と言って俺たちを驚かせた。

ちょっと残念そうな顔をした俺の尻を美緒が思い切りつねりあげるという昭和のラブコメ展開があったりしたが、そんな事はまあいい。


それより桃香のいない1週間の間、さらに大事件が起こった。

トモミーが「婚約破棄だ!許せない!」と俺の部屋に乱入して大暴れし、テレビやら戸棚やらガラスやらが木刀ですべて叩き割られ、結局警察沙汰になってしまった。

でも俺と義庵が示談すると警察に申し出て、トモミーは今まで貯めた給料すべてを弁償金として払ってくれた。


西田俊一にはそれ以降会う事は無かったし、ミズキさんが暇そうにしている六本木のバーに顔を出すこともなかった。


だがドラマは新たな局面を迎え、あのドラマに出てきたイケメン役者そっくりの「吉川耕作」というヤツが美緒にちょっかいを出したり、これまたドラマに出来た女優さんそっくりの「中田奈美子」というエロくて派手な女が登場してきて、美緒に誤解されて別れることになったり、桃香と義庵がさまざまなエピソードを経て付き合うようになったりと、ドラマチックな出来事が続け様に起こった。


そして2年半の時が経ち……

この日は俺と美緒の大学の卒業式だった。

楽しかった4年間。いま、僕たちは未来に羽ばたきます。

そんな小学生みたいな感想を胸に抱いている俺に、一人の女性が近づいてきた。


「研一くん、久しぶり」


見ると、桃香がセクシーなスーツルックで花束を抱えていた。


「桃香さん。仕事は大丈夫なの?」

「西田のおっさんに相変わらずこき使われてるわよ。今日は黙って打ち合わせ抜けてきちゃった」


そういうと、二つ持っていた花束の一つを俺に渡してくれた。


「はい、卒業おめでとう。これからは私がビシビシ鍛えてやるからね」

「はは、お手柔らかに」


俺の来月からの就職先はS-WAVEだった。


世間は就職氷河期と呼ばれる新卒学生にとっては困難な時代。

就職活動の出遅れが最後まで響き、4年の秋になっても就職先が決まらない俺に手を差し伸べてくれたのは西田純一だった。

俺は背に腹は変えられず西田に頭を下げ、特別に面接を受けさせてもらい、まずは契約社員として採用してもらうことになったのだ。


「山本くんね、桃香ちゃんの新番組のADやってもらうから」


相変わらずニヤニヤしながら西田は俺に言った。

今や彼はS-WAVEの取締役に出世したらしい。

しかもちょっと前に再婚をした。相手は有名な野球選手の娘でプロゴルファーだが、なんと歳の差22歳という、うらやまけしからん相手だった。


「で、研一くん。そろそろ仲直りはできてるんでしょうね?」


そう、俺はとあるエピソードで酔っ払って浮気寸前だったところを美緒に見つかって大ゲンカ。それからずっと冷戦状態が続いているのだ。


「私も義庵と別れたばかりだし。どう?やっぱあたしたち、付き合っちゃう?」


魅力的な提案だった。

桃香も、なんてったってアイドルにそっくりの美貌だ。

お互いフリーなら、そんな展開もドラマチックだろう。

付き合ったら、あんなことしてこんなことして……と俺は想像して鼻の穴を膨らませた。


と。

後ろから俺は思いっきり何かで頭を叩かれた。

カポーン!と乾いたいい音が響く。

振り向くと、卒業証書を入れた筒を構えた美緒が立っていた。


「あっそ。やっぱり、桃香に未練タラタラだったというワケね。どうぞ、付き合えば?」


そう言うと、踵を返して立ち去ろうとする。


「みーお!待って!」


桃香が美緒の前に回り込んで言う。


「せっかくコキ使える部下を、上司の私が誘惑するワケないでしょ?」


フンッ、という感じで美緒は顔を背ける。


「はい、これ卒業祝い。機嫌なおして、ね」


花束を渡された美緒は、驚いたように目を見開いた後、少し笑顔を浮かべた」


「……ありがとう、桃香」

「でもね!あんたたちがそんなんじゃ、いつかは本当にケンイチくん、取っちゃうかもよ?じゃ、あとは若いお二人で!!」


そう言うと、桃香は立ち去っていった。

同い年じゃん、そう呟く美緒の前に俺は立った。


「……おす」

「……うん」


冷戦状態はまだ続いているらしい。

でも、俺たちは。


「な、美緒。お腹、空かないか?」

「……空いた」

「センター街のイタメシ屋でエスカルゴ食べない?」

「えー?またエスカルゴ?」

「美緒だって、あれ好きじゃん?」

「だけど毎回だよ?たまには違うの頼もうよ」

「それはどうかなぁー?」


ぷう、と顔を膨らませる美緒。

出会ってから3年も経つのに相変わらず美少女だな、と俺は思う。


俺は美緒の分も花束を持つと、俺の卒業証書を美緒に渡す。

そして空いた左手で美緒の右手を握った。


「さ、行こっか。俺たちの戦いはこれからだ!」

「なにそれ、なんか打ち切り漫画みたいなセリフ!」


まあ、セリフなんてどうでもいいんだ。

俺たちのドラマは、まだこれからも続くんだから。


おわり

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ドラマみたいな恋をしたいと思ってたら なぜかバブル時代に転生した僕のドラマ キサラギトシ @kisaragi4614

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