29 第キュウ話 その3
誰かにハメられた、西田は俺にそう言った。
その誰かとは、5人に絞られる。
俺がこの世界で知っている人物は、たったそれだけだ。
ドラマユニバースという世界で、ここから全く別の真犯人が登場するわけがない。ドラマチックじゃないし、そんなの視聴者からしたらクソドラマだ。
「心当たりは……ないな」
本当は5人の誰かしかいない。だがそのうち二人がここにいるのだ。話せるはずもない。
「僕はね、動機を考えているんだ。もし犯人がいるなら、なぜ義庵くんが殺されなければならなかったのか。強い恨みなのか、金なのか、それとも別の理由なのか」
「……そうですね」
「でも僕は正直、君たちのことはよく知らない。桃香ちゃんとの付き合いは1年以上あるけど、美緒ちゃんも、トモミーちゃんも」
「俺のことは、知ってるとでも?」
「知らないさ。美緒ちゃんのことを好きなんだろう、ということぐらいしか」
そうだ、西田のやつ。あのあとポルシェで、美緒をどこに連れて行ったんだ?
美緒と、何かあったのか?
問い詰めたい。彼女にもし何かをしていたら、許せない。
だが俺は湧き上がってきた怒りを抑える。
今は、その話をする時ではない。まずは今、ここでできることをするべきだ。
「西田、さん。単刀直入に聞くけど、あんたじゃないよな」
西田はこちらを向くと、苦笑しながら言う。
「僕?動機は?たとえば、義庵くんと美緒くんが彼氏彼女だった、というならまだ理屈はわかるよ。彼女と別れろ!とかね」
いや、でも。あの鍋パーティの時、西田も美緒と義庵のキスを目撃している。
それにカッとなって、とかあるのではないか。
俺がそう言うと、西田は今度こそ声をあげて笑った。
「はは、学生さん同士のキスを見て動揺するような歳じゃないよ、さすがに」
嘘をついているようには見えない。俺は矛先を変えることにした。
「ミズキさん、あなたはどうなんですか?」
客が俺たちしかいない店内、カウンターの向こうでミズキさんは器用なことに、立ったまま舟を漕いでいた。
「へっ?なんや。オーダーか?」
こりゃ違うわ、事件に関係あるとは思えない。
俺がもう一度同じことを聞くと、ミズキさんは呆れたように言う。
「エロい目をした刑事が来て、あんたと関係があるんかー言うて、根掘り葉掘り聞かれただけやで。エエ迷惑やわーホンマ。とんだ拾いモンやったわ」
まあ、そうだろうな。
ミズキさんはそもそも義庵と面識がないのだ。
実はミズキさんの正体は殺し屋で、西田に頼まれたとか……ないな。
「だとしたら、美緒、桃香、トモミーの誰かしかいないことになる」
無意識に避けていた3人への容疑。
でも、この3人の誰かに絞られてしまうだろう。あとは誰もいないのだ。
「僕はね、研一くん」
西田は真顔で俺に向かい、こう言った。
「トモミーちゃんが犯人か、または事情を知っていると思っている」
ドキン。心臓が大きく跳ねた。
と同時に、ホーンセクションが陽気な感想を奏でる曲が店に流れ始めた。
Boys town gangの「Can’t take my eyes off you」のサビだ。
あと1話、次が最終話。
どうやらドラマの途中で「打ち切り」にはならずに済みそうだが、事件は何も解決していない。
西田が言うように、トモミーが犯人なのだろうか。
最終話で犯人が捕まり、そして俺は美緒とハッピーエンドを迎えられるのだろうか。
どんな結末が待ち受けているのだろうか。
そして、世界は黒にフェードアウトしていく。
ドラマチックに。
最終話につづく。
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