21 フジノトモミ
私は、男が苦手だ。
物心ついた頃は男女の区別はなかった。
道場の中では強さだけが人を区別し、年齢性別は存在しないと言うのが父の流儀だった。
なのに隠れてこそこそ私に手を出すのは、いつも男だった。
剣は強くないのに力だけは強い、乱暴な男たちだった。
道場唯一の女である私は、男という存在自体が嫌いになっていった。
私は、史上最強だ。
私に棒一本持たせれば、父ですら1分と持たずに膝をつく。
私に楯突く男、手を出す男はすべて剣で倒してきた。
私は、親友が宝だ。
高校で知り合った桃香、そして美緒。
彼女たちのためなら命すら惜しまない。
1000年に一人の剣の天才。
そう呼ばれるのが嫌になったのは中学3年の時だった。
男が苦手な私が、初めて男に興味を持った。
その男を見ていると、心臓が高鳴る。
その男のことを考えると、全身身悶える。
いま考えると、その男はケンちんにどことなく似ていた。
だのに。
その男は教室で友人とこんな会話をするのを聞いてしまった。
「女はやっぱりカワイイのが一番だよな」
カワイイとは、何だ。
もちろん定義は知っているが、ちょっと意味がわからない。
カワイイ女は、私よりも強いってことか?
ならば、私はカワイイ女と対決しなければならない。
1000年に一人の剣の天才として。
私は探した。
カワイイ女を。
興味を持った男が一番と認める女を。
そして見つけた。
男が「福岡のトップ2のカワイイ子」と言っていた女を。
それぞれ別の学校だった。
私は連日、彼女たちの後を付け回した。
明らかに戦闘能力では私の爪先にも及ばない。
だが私の好きなあの男の言うことだ。
きっと私の剣をも上回る、何らかの力があるのだろう。
そのうち、幸運にもその二人は同じ高校を志望していることがわかる。
高校であの二人の強さ、何らかの力を探ってやろう。
高一の冬。
その二人と親友になった。
私にとっては些細な事件だったが、彼女たちは感謝してくれた。
生まれて初めての女の友達。しかも親友。
そして私は、はじめて好きだった男の真意を知る。
美緒のことを守りたい。
桃香のことを守りたい。
二人といると、常にそう思ってしまうのだ。
二人のことは、私が一生守る。
彼女たちを、私の力で守る。
これは決定事項だ。覆ることは、きっとない。
その3年後、東京。
初めて好きになった男のことは、顔も名前も思い出せなくなっていた。
美緒と桃香がいることで、もう彼の存在はどうでも良かった。
ある日。
その男は、棒が準備できない密室で私を犯そうとした。
不覚。
1000年に一人の剣の天才たる私でも、密室では男の力にねじ伏せられてしまうだろう。
私は覚悟を決め、私を凌辱しようとする男の顔を見た。
マジイケメン。
つーかめっちゃ好み。
ヤベえなんだコレ。
これが運命の出会いってやつ?
パニックを起こした私は、思わず叫んでいた。
「キャーーー!チカーン!!」
あれ?なんか違う。
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その男の名は「ケンちん」ふふっ、変な名前。
でも大好き。
男嫌いの私だけど、男の好みは昔から一貫してるの。
ひとつは、あまり強そうじゃない男。
喧嘩が強かったり野球が上手かったり頭が良かったり。
こんな男は絶対にダメ。
男ってのは単純で、なまじ自信があると増長するところがある。
つまりイイ気になるってことね。
そんなの男を見ると、木刀で眉間をカチ割りたくなっちゃう。
「あんたが自慢してること、私にはゴミ同然よ」って言いながら。
ケンちんにはそんなところが一切ないわ。
なんだか自信無さげだし、女性苦手そうだし、押しに弱そうだし。
私のおもちゃにして、メチャクチャにしてあげたくなるの。
抵抗したときは、頚椎とかを棒で打ち付けて眠らせればいいしね。
でも加減しないと半身不随とかになるから、それだけは注意だね。
ああ、想像したら興奮してきちゃった。
闇鍋パーティが決まった時、私はすぐに計画を練ったわ。
強引にキスしちゃうのは最初から決めてた。
桃香が買ってきた女性雑誌のエロい特集に「好きな男には積極的にキスちゃえ!」って書いてあったし。
いろいろプランを考えたけど、暗くしちゃえばこっちのものだ。
照明のリモコンを隠し持って、突然消す。
ケンちんの場所を確認してなかったから探すのに苦労したけど、「誰?」と言う自信無さげな声が聞こえた。その声はケンちん!
私は声の主の頭をがっしり掴み、キスをする。ケンちんの匂いがする。
私も初めてのキスだったけど構いやしない。ケンちんは私のものだ。
雑誌で見たように舌を入れる。ケンちんは抵抗したが、少し力を入れて口の中を舐め回すと抵抗が弱まった。
弱いケンちん、カワイイ。
次にキスする時は全身にしてあげるね。何時間もかけて。
「何するのよ!誰なの?」
不意に誰かの声がした。ヤバい、バレたか?
仕方なくケンちんを放し、私は頭を抱えてうずくまる。
自分も誰かの被害者ですよ、という演技でごまかそう。
そして照明のリモコンを点けた。
周りでは皆が何かを言い合っていた。ごめんとか間違いとかそんなこと。
でも私は頭を抱えてうずくまっていて、会話を聞いていなかった。
さっきのキスでめちゃめちゃ興奮していたしね。
ああ、さっきのこともっと思い出して、ベッドでアレをしたい。
もうみんな帰ってくれないかな。
「もうヤダ!みんな帰って」
私は嘘泣きをしながら叫んだ。
それがあの日の顛末。
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来週パパとママにケンちんを紹介したら、すぐに福岡に連れて帰ろう。
パパがなにか文句を言ったら、久しぶりに痛めつけてやろう。
そして今年中には式をあげて、そうね、子供を最低10人は作ろうかな。
そうだ。才能ある子を集めて道場を作ろうかな。
パパの道場は弱い男しかいないし、うん、私の道場にしちゃおう。
名前は「ケンちん道場」うん、美味しそうでカワイイ名前!
来週が楽しみだな。
早くケンちんを飲み干しちゃいたいな。
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