4 第イチ話 その1

「おい、何言ってんだよ研一。女の夢でも見てんのかぁ?」


曜子さんの声ではない、若い男性の声だ。

目を開くと、そこはさっきまでお茶を飲んでいたはずのスーパーの休憩室ではなかった。


一見すると小さい会社の事務所っぽい。

特徴的なのは、窓や壁にたくさんの紙が貼ってあること。

その紙には、あ、部屋の間取りかな。多分そうだ。部屋の間取りが描いてある。

俺は自宅暮らしだから行ったことはないけど、ドラマやコマーシャルで見る不動産屋さん、たしかこんな感じだったと思う。


すると、隣にいた男が馴れ馴れしい態度で俺に話しかけてきた。


「どうしたんだよ研一。はやく決めないと取られちゃうぜ?代官山でこんないい条件の部屋、滅多にないだろ」


その男の顔を正面から見て、俺は驚きを隠せなかった。


本人ではない。結構似ているが、本人ではないのはわかる。

でも俺の知っている人の顔によく似ていた。

『君の瞳に恋してる』の出演者、男性側のメインのイケメン、その友達役の役者さんによく似ていた。

つまり、俳優のO Gさんにそっくりだったのだ。


だが俺の驚きはそれだけでは済まなかった。


「ダメです!この部屋は、私が先に見つけたんですっ!」


背後から、かわいらしい女性の声。

声の主に振り向くと、俺は20年の人生、過去イチで驚愕した。

マジもんで心臓止まるかと思った。いや実際止まった。嘘だけど。


本人ではない。結構似ているが、本人ではないのはわかる。

でも俺の知っている人の顔によく似ていた。

『君の瞳に恋してる』の主演女優にして、当時のアイドル四天王の一人。

俺が世界で一番好みの顔であるアイドル、歌手、女優のNMさんによく似ているのだ。


うわっ、Mポリンがいるっっ!うっそマジか。

俺はパニックに陥った。


「な、なんで……」

「その紙、返してください。不動産屋さん!代官山のこの部屋、私が契約しますから」


女性はいつの間にか俺の手にあった紙をひったくると、カウンターの不動産屋さんに迫る。

あれ、なんだかデジャブが。

ここって俺の一番好きなドラマ『君の瞳に恋してる』の第一話のシーンに似てないか?


本物のドラマではない。結構似ているが、本物ではないのはわかる。

でも俺が一番好きなあのドラマの場面によく似ているのだ。


いや、全然違うか。

そもそも、なんでそのシーンに俺、山本研一がいるんだ?

あれは30年以上前のドラマだ。出演者をそのまま連れてきたとしても、もういい年齢のおじちゃんおばちゃんになっているはずだ。


それとも、あれか?当時のドラマのリメイクを作ることになって、その当時の役者のそっくりさんを連れてきて、そこに俺だけを当てはめている。そんな感じか?


そのとき「ドラマユニバース」急にそんな言葉が浮かんだ。

曜子さんが魔法?の中で言っていた言葉だ。

ツッコミたいとこだらけだったが、特にその言葉に違和感を覚えた。

これって、アレだ。アレに違いない。俺は大声で叫んだ。


「何これ。曜子さんでしょ!ドッキリ企画なのコレ?」


俺がそう叫んだ瞬間。

世界が止まった。


その場にいる俳優さん、女優さん、不動産屋さん、みんな微動だにしない。

さらに音すら一切聞こえない。


そこに軽くエコーがかかったような声が聞こえてきた。


「ダメだよ、研一ちゃ〜ん。

ちゃんとその場に相応しいセリフ言わなきゃ、せっかくの大事なシーンが台無しでしょ?」

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