第2話 ブラッディクリスマス


 世間は恐ろしい事にクリスマスだった。

 俺は慄いた。家の戸を叩く音がする。

『開けてくださいまし! カスミン!!』

 アリアの声がする。俺は怖い。

 あのストーカー女が怖いのだ!

 どうしてこうなったかというと12月23日、クリスマスイブイブにまで遡る。

「ん? スマホが震えてる?」

 何かと思えばイクシードデュエルから通知が来ていた。

 件名:アリア・ベルナデット

 内容:愛しの魔法少女カスミン! あなた――

 そこでスマホをそっとスリープさせた。

「見なかった事にしよう」

 しかしその後、スマホが壊れんばかりの通知が来る。

「こわいこわいこわい!?」

 そしてその大量の通知の中に紛れる魔魂発生通知。

 よく見逃さなかったなと思う。

 俺は渋々、変身して現場へと飛ぶ。

 飛行能力はパッシブスキルだ。

 今回の魔魂は巨大なラクダのようだった。

 あからさまに弱点っぽいコブに狙いをつけて死神稼業デスサイズを振るう。

 一閃。

 俺より早く剣戟が飛んだ。

 その剣筋は黄金に煌めいていて――

「みぃつけたぁ」

「ピッ!?」

 アリア・ベルナデットその人だった。

 剣士として覚醒した彼女は今、とても高い戦闘能力を有していた。

「あらあらあら全然返信が返って来ないと思えば魔魂退治! 流石ですわ!」

「あはは……アリガトウゴザイマシタ‼」

 俺は全速力で飛んだ。

 持っててよかったパッシブスキル!

「お待ちになって~」

 声が遠くなる。

 俺はとりあえず雲の高さまで飛び上がった。

 大きな雲の中に隠れる。視界は真白。

「とりあえず……家に……いや今日はしばらく空にいよう、そうしよう」

 さっむと呟きながら俺はクリスマスイブまで空中待機していた。

 幸いな事に魔法少女でいる間に生理現象に襲われる事はない。

「寒いもんは寒いけどな」

 だが凍え死ぬことはない。

 雲から雲へと隠れながらの耐久戦。

 よもやこのままサンタクロースとご対面、いやいやそれは明日。

 などと考えながら約20時間弱が経った時の事。

「あーそういやあのケーキの消費期限、今日までじゃん」

 そう思って流石のアリアも、もういるまいと家へと直帰した。

 それがいけなかった。

 俺の家の前。

 奴はいたのだ。

 俺はめんどくさがりなのでベランダから入ったのだが。

 音でバレた。

 そして叩かれれる戸。

「カスミンカスミンカスミンカスミンカスミンカスミンカスミンカスミンカスミンカスミンカスミンカスミンカスミンカスミン……」

「こぇぇよ!?」

「嗚呼、どうして私の愛を分かってくださらないの!?」

「知らねぇよ! 愛の押し売りならお断りだ!」

「押し売りではありません! これは私からの無償のモノ!!」

「そういうもんだいじゃなーい!!」

 チャキという金属音が鳴った。

 俺は猛烈に嫌な予感を覚える。

 連続する切断音。

 切り裂かれるドア。

 現れるアリア・ベルナデット。

「ごきげんよう?」

「状況がシャイニング(映画)なんだよ!!」

 俺は思わず死神稼業デスサイズを振りかざす。

 しかしそれは剣の一振りで防がれてしまう。

「あのアリクイモドキの時から思っていましたが、武器のさばき方は素人ですのね」

「んなっ」

「素の出力が良いだけに勿体ない」

 剣の一閃が俺の顔に跳ぶ。

「あぶなっ!?」

 寸での所で避ける。

「あらどうして避けますの?」

「痛いからだよ!?」

「でも死なないでしょう?」

「サイコパスなのかなぁ!」

 俺は思わずベランダから逃走した。

 もう此処には帰らない、帰れない、カントリーロード。

「俺は悲しきサンタさんだぜ……」

 独り宿を無くした俺は空を果てまで飛び続けたのだった。


 次回、オーストラリア編、続く。

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マジカル☆カスミンの死神稼業(デスサイズ) 亜未田久志 @abky-6102

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