第31話 本番
第七十階層――――。
春重と真琴にとって、そこは未踏の地だった。
「デビルスケルトンか……厄介な敵だな」
桜子が呟く。
三人の前には、白骨化した悪魔のような外見を持つモンスターが待ち構えていた。
「『鑑定』」
春重の視界に、モンスターのステータスが表示される。
名前:
種族:デビルスケルトン
年齢:
状態:通常
LV:81
HP:1577/1577
SP:0/0
スキル:『大鎌(LV7)』『緊急回避(LV5)』『本能強化』
――――強い。
レベル81。現状の春重よりも、レベルが高い。
ただ、勝てないとは微塵も思わなかった。
「この日のために、何度も何度も桜子に打ちのめされた甲斐があったな」
「そうですね……!」
春重と真琴に足りなかったのは、戦闘経験。それを積むために、二人は桜子と何度も模擬戦を重ねた。そうして手に入れたのは、戦いに対する慣れ、そして弱腰にならない覚悟である。
「真琴、援護を頼む」
「はい!」
春重は両手剣を構え、デビルスケルトンに襲いかかる。
デビルスケルトンは、巨大な鎌を持っている。その軌道は独特で、さらに岩すらも容易く両断するほどの威力を持っていた。触れたら、今の二人でも大ダメージは避けられない。
「……っ!」
春重は瞬時に体を反らし、大鎌をかわす。そして一気に肉薄し、デビルスケルトンの胴体に剣を突き込んだ。骨を砕く感触がして、刃が貫通する。
名前:
種族:デビルスケルトン
年齢:
状態:通常
LV:81
HP:701/1577
SP:0/0
――――もう一撃必要か……。
至近距離にいる春重に対し、デビルスケルトンは鎌を振り下ろす。
「させません!」
しかし、真琴の放った矢がデビルスケルトンの腕に突き刺さり、そのまま砕き割った。
「春重さん! トドメを!」
「ああ!」
春重は刃を引き抜き、再びデビルスケルトンに叩き込む。
デビルスケルトンは袈裟斬りにされ、地面に崩れ落ちる。そしてすぐに粒子になり、ドロップアイテムであるデビルスケルトンの角だけが残された。
「いい戦闘だった。この様子なら、この先の階層でも十分戦えるな」
「桜子の足を引っ張るわけにはいかないからな。こっちも必死さ」
「必死なのはいいことだ。油断があるよりも、よっぽどな」
そう言いながら、桜子は刀を抜き放ち、真後ろにいたデビルスケルトンの首を刎ねる。その太刀筋は、今の春重でも見切れない速度だった。
「……ますます腕が上がってないか?」
「ああ、この刀を手にしてから、やたら体の調子がよくてな」
「穴熊さんが言っていた、新しいスキルの影響か?」
「分からんが、その可能性が一番高い」
刀自体が持っているスキル『能力解放・太刀』。
その力の真髄は、まだ何も分かっていない。
「二人とも、新手が来ます!」
「……もう少し進まねば、話している時間もなさそうだ」
迫り来るデビルスケルトンを前に、三人は構えを取り直した。
◇◆◇
「――――桜子がダンジョンに入ってから、どれくらい経った?」
「大体四時間くらいかと」
「そうか、頃合いだな」
新宿ダンジョンの入り口広場にいた神崎レオンは、自慢の剣の柄を撫でながら、悠然と立ち上がる。
その様子を見ていたパーティメンバーたちは、どこか浮かない表情だ。
「レオンさん……本当に桜子さんを追いかけるんですか?」
「ああ、彼女が僕らに同行しないなら、こっちから同行するまでだ」
「でも、それなら最初から一緒にダンジョンに潜れば……」
「バカめ。それでは桜子がダンジョン探索をやめてしまうかもしれないだろ」
レオンは不機嫌そうに言った。
発言からして、自分が避けられていると気づいているはずなのに、何故かレオンは自信満々で、桜子が自分の側に戻ってくると思っている。その矛盾を孕んだ様子に、パーティメンバーは困惑を隠せずにいた。
神崎レオンという男は、すでに歪みきっていた。
若くして手に入れた……いや、手に入れてしまった、強さ、名声、財産。何もかもが上手くいっていたからこそ、彼のプライドは取り返しがつかないほどに膨れ上がっていたのである。
――――僕は王だ。
思い通りにならないことは、すべて力で捩じ伏せてきた。
王の誘いを断った女を、彼は決して許さない。
「僕のパーティに戻りたくないと言うなら、戻りたいと言わせるまで……行くぞお前たち。姫を迎えに行く」
レオンの先導のもと、最強パーティである『アブソリュートナイツ』は、新宿ダンジョンに足を踏み入れた。
◇◆◇
「ふう……」
第八十三階層――――。
春重は水筒の水を口に運び、息を吐く。
モンスター避けのアイテムによって安全を手に入れた春重たちは、長めの休息をとっていた。すでに探索は経験したこともない長丁場に突入している。
「ダンジョンに潜ってから、もう二日だ。体調は大丈夫か? 春重、真琴」
「二日? そうか……もう二日も経ったのか」
陽の光が届かないせいで、ダンジョンの中にいると時間の感覚が曖昧になる。しばらく時間を見ていなかった春重は、ここに来て自分たちが二日もダンジョン内にいたことを知った。
「特に異常はないって言いたいところですけど……少し体が重い気がします」
「無理もない。新宿ダンジョンは洞窟型で、常に圧迫感がある。それに加えて、この緊張感だ。消耗も早い」
「情けないです……」
落ち込む真琴の肩に、春重が手を置く。
「ゆっくり休めば大丈夫さ。できるだけ力を温存して、長く探索を続けよう」
「……はい!」
彼らは、すでに
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