第24話 新メンバー
翌日の朝。
春重と真琴は、新宿ダンジョンで稼ぐためにN新宿駅に集まっていた。
「どうして私たちのパーティなんでしょう……」
駅前のベンチに腰掛けた真琴は、緊張した面持ちで呟いた。
春重も、真琴と同様に強い疑問を抱いていた。
十文字桜子が所属していたアブソリュートナイツは、日本国内にて最強を誇る探索者パーティ。当然、現在の春重たちとは天と地ほどの実力差がある。
それなのに、何故か桜子のほうから、このパーティに入れてほしいという依頼があった。レベルの差からして、本来であればあり得ない話である。
「きっと、俺たちには分からないような熟練探索者なりの狙いがあるんだろう。細かいことは気にせず、今日は十文字さんを頼ってみよう。いつもより効率よく狩れるはずだし」
「……そうですね。穴熊さんにお金を払わないといけないですし」
真琴は、穴熊が用意してくれた新品の弓に意識を向ける。
名前:
種別:弓(★★★★★★)
状態:通常
HP:54000/54000
スキル:『
それは、今まで使っていた初心者セットとは、比べ物にならない性能の弓だった。外見は少々古めかしいものの、むしろそれを魅力と思わせるような上品さを醸し出していた。
ただ、ダンジョンで見つかった弓型の
こうして真琴が穴熊製の武器を持っていることから分かる通り、春重たちは桜子の頼みを聞き入れた。三人になったパーティで、これから新宿ダンジョンの四十層を目指す予定である。
「すまない、待たせたか」
間もなく、十文字桜子が現れた。
長い赤髪を一つに結び、腰には
率直に言って、春重は目のやり場に困っていた。まだ少女の枠に収まっている真琴と違い、桜子は歴とした大人の女性。歳の差はともかく、春重が異性として見てしまうのも無理はない。しかも、春重には女性への耐性がほとんどない。こんな露出度の高い女性が現れたら、意識を削がれるのは自明だった。なんたって、彼は立派な童貞なのだから。
それを面白くないと思うのは、薄々自分が異性として見られていないと気づき始めている真琴だった。春重の目が泳いでいるのを見て、真琴は顔いっぱいに不満をあらわにする。
「……負けませんから」
「なんの話だ?」
唐突に宣戦布告をされた桜子は、何も分かっていない様子で首を傾げた。
「ごほんっ……えっと、十文字さん? その恰好でダンジョンに行くんですか?」
「ああ、これが私の勝負服だ。今日はお前たちに仲間と認めてもらうために、一騎当千の活躍を見せる必要があるからな。気合を入れてきた」
「……露出度が高い理由は?」
「動きやすいからだ」
「えっと……防具は必要ないんですか?」
「防具は不要だ。敵の攻撃に当たらなければいいだけの話だろう」
――――なんか、世界観が違くないか?
春重は自分と彼女の恰好を比べて、そう思った。ジャージに胸当て。その不釣り合いな装いに、くたびれたおっさんのダサさが加わり、なんとも言えない哀愁が漂っている。
強さと華を兼ね備えた桜子。若さと可愛らしさで庇護欲をくすぐる真琴。このパーティで浮いているのは、間違いなく春重だった。切ないことこの上ない。
「あと、敬語はやめてくれ。戦闘中の声掛けの妨げになる」
「え? あ、ああ、分かった……」
「それと、私のことは名前で呼べ。苗字は字面が硬くて可愛くないからな。私もお前たちのことは春重、真琴と呼ばせてもらう」
とんでもなくマイペースな女である。さっきから春重はたじたじだ。
「じゃ、じゃあ! 私も春重さんって呼んでいいですか⁉︎」
「え⁉︎」
真琴から何かを期待するような視線を向けられ、春重はひどく困惑した。自分が何を求められているのか、まったく分からない。最終的に、彼は思考を放棄して、ただ頷いた。
「わ、私のことは! ま……真琴でいいので……」
「……?」
真琴の声が尻すぼみになっていく。彼女の顔が赤くなっている理由を、春重はまだ理解することができなかった。
「話は済んだか? では行こう」
強引に話を切り上げ、桜子が歩き出す。これから初探索だというのに、パーティ内のコミュニケーションは、決して円滑とは言えなかった。
「春重はレベル48、真琴は44だったか」
ダンジョンを進みながら、桜子は二人にそう問いかけた。ホワイトメイルを倒し、春重と真琴のレベルはまたさらに上がっていた。すでに中堅冒険者の中でも、かなり上位と言っていいレベル帯である。
「それだけのレベルがあれば、四十階層までは無傷で行けるだろう。そこまでは足を止めずに行くぞ」
「「は、はい……」」
自分たちとは比べものにならない強者のオーラに、反射的に返事をしてしまった二人。一応、このパーティのリーダーは春重なのだが、経験値で言ったら圧倒的に桜子が上。わざわざ彼女の判断に逆らう意味はない。
ところで、なぜ彼らは新宿ダンジョンに来たのか。
それは、アブソリュートナイツが攻略に失敗したからである。彼らが攻略できなかったということは、当分の間、新宿ダンジョンはそのまま最難関ダンジョンとして君臨し続ける。つまり、慌てて探索しに来る必要はない、ということだ。
こう言った理由で、攻略に失敗したダンジョンは、一時的に人気が減るという特徴がある。その傾向を教えてくれたのも、この十文字桜子だった。
「む?」
三十一階層にたどり着いた三人の前に、巨大な蛇のモンスターが現れた。桜子は振り返ると、春重たちに向かって得意げな笑みを見せる。
「やつは私に任せろ。お前たちに実力を見せるには、ちょうどいい相手だ」
そう言いながら、桜子は太刀を抜いた。
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