第14話 新しいステージ
「ついに二十階層か……」
「思ったよりも早く感じましたね」
春重たちは、拍子抜けしていた。
警戒に警戒を重ね、スキルによる『索敵』と、スライムによる索敵を併用し、とにかく慎重に歩を進めたこの数時間。
レベルも上がったし、スキルも増えたし、多くの素材も拾えた。
しかしながら、あまりにも順調すぎる探索が、逆に二人の不安を煽っていた。
――――俺たちは、一体どこまで行けるんだ……?
春重は額に浮かんだ汗を拭う。
今二人は、己の欲望と戦っていた。この調子なら、もっと下層に挑んでも十分安全に探索できるかもしれない。
ただ、それも一歩間違えれば、死に直結する。
冷静に選択しなければならない。
まだ時間は十分残っているし、二十階層付近で狩りを続ければ、稼ぎも増える。安全を第一に考える春重には、その選択肢もひとつの候補だった。
「……いや、ここは攻めたほうがいい……よな?」
「え?」
「『直感』だけど、そう思ったんだ」
春重は、己のスキルを真琴に説明した。
『直感』は、行動を起こそうとした際に、それが自分にとってマイナスにならないかどうか感覚で教えてくれるスキルである。
このスキルによって、春重は前進することが悪手ではないと判断した。
今までの春重であれば、この決断は下せなかっただろう。
「……分かりました、リーダーに従います」
真琴は、決意のこもった目で春重を見つめた。
春重の判断には、
「よし、行ってみよう。引き続き、身の危険を感じたら即撤退で」
「はい!」
こうして二人は、二十階層の脱出ポイントをスルーして、二十一階層への道を歩き始めた。
名前:
種族:サイクロプス
年齢:
状態:通常
LV:15
HP:301/301
SP:0/0
スキル:『棍棒』
身長三メートル近い一つ目の化物が、春重に向かって巨大な棍棒を叩きつける。春重はすぐに『緊急回避』スキルで棍棒を避け、すれ違いざまにサイクロプスの胴を切り裂いた。
――――浅い。
噴き出した血の量を見て、春重は顔をしかめた。
サイクロプスの肌は、ザラザラとして硬い。回避しながらの攻撃では踏み込みが足りず、決定打とはならなかった。
「そこ……!」
直後、真琴が気合と共に放った矢が、サイクロプスの唯一の目に突き刺さる。体を仰け反らせたサイクロプスは、そのまま崩れ落ちるように絶命した。やがて体は粒子となり、辺りには数本の太い骨が散らばる。
名前:サイクロプスの骨
種別:加工用アイテム
状態:未加工
HP:20/20
「すら一郎、頼む」
春重が指示を出すと、すら一郎はサイクロプスの骨を自身の体で包み込んだ。スライムの『吸収』で体に取り込んだものは、本来すぐに消化されてしまう。しかし、春重が「消化するな」と命令することで、スライムは立派な荷物持ちになった。
ちなみにこれは、真琴の発想である。
「やっぱり、サイクロプスは目が弱点みたいだな」
「ですね。その分皮膚が硬いから、近接タイプだけだと苦戦するのかもしれません」
このフロアは、サイクロプスの巣窟になっていた。ヘビーリザードなどと比べて、サイクロプスは格段に強い。しかし、群れで行動しないという特徴があるようで、パーティを組んでいる春重たちにとっては、大した脅威にはならなかった。
「この調子でどんどん狩ろう。ここは稼ぎどころだ」
「そうですね……!」
今のところ、二人は三十階層を越えるつもりはなかった。
サイクロプスの骨は、一つ八百円ほどで買い取ってもらえる。実力的に、危険はほぼ皆無。経験値と金を稼ぐなら、二人はここがベストだと判断した。
『索敵』スキルでサイクロプスの気配を探知し、瞬時に討伐する。
次第に慣れてきた春重も、自身の力でサイクロプスの首を刎ねることに成功し、大きな成長を実感した。
敵の湧きが悪くなってきたら、次の階層へ。新たな階層で狩りを再開し、危険度が変わらない三十階層まで同じことを繰り返す。
二人とも、単純作業は嫌いではなかった。淡々と、ただ狩り続ける行為に、楽しみさえ覚えていた。驚異的な集中力を発揮しながら、一時間、また一時間と時間が過ぎていく。
我に返った春重がステータスを開くと、そこに表示された数字は驚くべき変化を遂げていた。
名前:山本春重
種族:人間
年齢:38
状態:通常
LV:36
所属:NO NAME
HP:892/892
SP:1013/1013
スキル:『
『
名前:
種族:人間
年齢:18
状態:通常
LV:34
所属:NO NAME
HP:721/721
SP:789/804
スキル:『弓術(LV8)』『緊急回避(LV3)』『危険感知(LV4)』『索敵(LV4)』『集中』『装填速度上昇』『
自身のステータスを見て、真琴は苦笑いを浮かべた。
あまりにも強くなりすぎている。体の調子はどんどん上がり、できることも増えてきた。
『
「かなりレベルが上がったな。これなら次回は三十階層よりも下を目指せるかもしれない」
「……そうですね」
みんなこういうものだと思っている春重と、自分の成長速度に違和感しかない真琴。春重が彼女の気持ちを理解するのは、まだまだ先の話である。
「……ん?」
二十八階層に下りてすぐ、春重は前方に目を凝らした。
見えたのは、パーティと思われる数名の探索者。休憩中なのか、彼らは地べたに腰を下ろして談笑している。
「このフロア、結構人がいますね」
「ああ、確かに」
『索敵』によって、二人は近場にある気配を把握した。
上の階層で他の探索者にほとんど出会わなかったのは、ルーキーの数が極めて少ないからだ。
春重たちは、ついに初心者を卒業した。ここからは、モンスターを狩るために、数多の探索者との競争に身を投じる必要がある。
ステージが変わったことを理解した春重は、柄にもなくワクワクしていることを実感した。
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