第065話 皇帝 -EMPEROR-
「……伝令! 敵精強部隊、数は二……いや三! 工廠地帯中心部の南側、西側……そして東側に出現っ! 繰り返す! 敵精強部隊、三! 工廠地帯中心部の、南側、西側、東側に出現っ!」
工廠地帯全域に響き渡るラネットの声。
信号灯の煙の数、および色を受けての速やかな伝令。
上り立つ三本の黄色い煙の中心には、ガスカ社支社ビル。
その正面側の、一つ手前の通りに建つ倉庫より現れたのは、赤い塗料に全身を包んだ機蟲・
まるで返り血を全身に浴びているかのような、ところどころが赤黒い塗装。
そのボディーには、鋭利な鎌を揃えた前脚が一対。
ほかの機蟲より鎌は一回り大きく、人間が見ればもれなく、己の全身を真っ二つに折られる恐怖感……畏怖感を覚えてしまう、禍々しい造形。
しかし、それと対峙するフィルル以下歩兵数人は、
「まさかっ……鋼鉄製の蟲っ!? それも……かなり再現性が高いっ! そしてそれが……恐らく三体同時出現っ!」
双剣を握るフィルルが、機蟲を真正面にして一瞬動揺。
これまで数々の修羅場を潜り抜けてきたフィルルのおののきは、機蟲そのものではなく、蟲の再現性の出どころ。
「蟲の情報……存在は、戦姫團と軍上層部の重要機密。その姿を再現した機械が現れたということは、蟲の詳細がどこからか……漏洩?」
「……わたしが原因かもしれません」
「ステラっ!?」
──すたっ!
フィルルたちの上空を滑空してきた、ウイング・ユニット装着のステラ。
まるで慣れ親しんだ装備であるかのように背負った鋼鉄の羽を操って、フィルルから距離を取って着地。
その距離は、右手に握るステラの相棒、
「……蟲は機密ですが、わたしの
「なるほど……。ちょうど先ほど、会ってきたところです。その鎌が、蟲から奪ったものだと見抜くことができる昆虫学者と」
「まあ情報漏洩については、戦いのあとで精査しましょう。まずはあの、人造の蟲を片付けます。やっ!」
「あっ……ちょっと待っ……。ああんもうっ、わたくしの見せ場があっ!」
軽く地団太を踏むフィルルを尻目に、ステラが先陣を切って飛翔。
腰のベルトに備わっているウイング・ユニットの運転装置を、左手で器用に操作。
右手で
「ほかに最低二体はいるようですから、すぐに終わらせます。せやああぁああっ!」
戦姫補正特有の蒼いオーラを飛行機雲のように描きながら、ステラが飛翔。
それを迎え撃つべく、機蟲も両鎌を振りかぶる。
その鎌が、まるでステラに対抗するかのようにパチパチと金色の火花を放った。
瞬時に、ステラの目の色が変わる──。
「ハッ!? まずいっ!」
一直線に蟲へと飛んでいたステラの体が急上昇。
全身を縦にして蟲の鎌の間合いから逃れた。
すでに振り下ろされていた機蟲の鎌が、そのまま勢いよく地面を穿つ────。
──ドッ……バババババッ!
地面に刺さった鎌の先端から、バチバチと放電のような音が鳴り響く。
未舗装路からは、不規則に砂塵が弾け飛ぶ。
聡明なフィルルにも、簡単には理解不能な出来事。
「な……なんですの、いまの一撃は……。まるで落雷のような……」
「そうです。落雷……電撃です、奴の武器は」
「電撃っ!?」
機蟲がゆらりと鎌をもたげ、エンジン音を鳴らしながら、ほんのわずか前進。
フィルルが細い目をこらすと、両鎌の周囲で常にバチバチと火花が散っているのが見える。
ステラは空中でウイング・ユニットを停止させ、重力で垂直に落下。
再び、フィルルから距離を置いた場所へと着地。
「奴の鎌には、高圧電流が流れています。鎌の付け根に絶縁体があるのを見ました。刃を合わせるのは危険と判断し、急遽回避しました。んっ……?」
なにかに気づいた様子のステラ。
足元の未舗装路を、つま先で数回すばやく擦る。
黄色っぽい土の中から、銀色の板が十センチほど露出、太陽光を反射。
その長方形の板は、機蟲の方向へと伸びているのを思わせる────。
「セイレーン集合っ! この場にいる兵を二人ずつ持ち上げよっ!」
ステラには珍しい、緊迫の大声。
直後ステラはフィルルへと駆け寄り、その左手首をガッチリと掴んで急上昇。
入れ替わりに急降下してくるセイレーンのネージュ、マヤ、ミオン。
三人は両腕に歩兵一人ずつを掴んで、重そうに浮上を開始。
直後、機蟲が両鎌を地面へと振り下ろした────。
──ババババババババッ!
土中に隠されていた鋼鉄製のレールを伝って、激しい電流が走る。
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