第056話 開戦!

 工廠地帯とその敷地外を分かつ、舗装された主要幹線道路。

 その上を重鎧歩兵のナホが西から東へと駆け、工廠地帯内の未舗装路に設置されているバリケードを次々と破壊。

 建物の屋根、屋上からはムコと忍者部隊が、守備兵を毒矢で次々と失神させる。

 仕上げに、建物から下りてきたシーが、百々目鬼の念動力で地雷をすべて看破、暴発させた。

 シーとナホが大きく両手を振って、建物内のラネットへと完了のジェスチャー。

 ラネットが團長のフィルルへと向けて、勇ましく発声──。


「進路っ、退路っ、ともに……確保っ!」


 受けてフィルル、不敵な笑みを浮かべて頭上へと右剣を掲げ、号令──。


「陸軍戦姫團、海軍特務部隊・セイレーンによるクーデター制圧部隊……これより進軍を開始しますっ! 作戦通り、工廠地帯西側より段階的に敵地を制圧! 工廠内の工員、並びに投降兵は西側より離脱させますっ! そして目標は……二つっ! 工廠地帯中心部のガスカ社制圧! ならびに双胴空母・シーガルダインの無力化っ! ラネット!」


「はいっ!」


「あなたは工員の脱出経路の案内と、クーデター兵への投降勧告を継続っ! そして戦況に変化あらば、逐一伝令なさいっ!」


「わかりましたっ!」


「それではクーデター制圧部隊……進軍開始っ! まずは機動部隊、オートバイによる斥候、攪乱を展開っ!」


 ──ブロロロロォン!


 三台のオートバイにて編成された機動部隊。

 イッカ、同期のシャガーノ、先輩のギャンによって構成された、小銃と長剣を武器とするオートバイ部隊。

 三人は揃ってエンジンを一ふかしさせてから返答。


「「「はっ!」」」


「そのあとへ砲隊が続きますっ! 部隊を三班へ分け、一基ある四八式野砲は砲隊長率いる一班にて運用っ!」


 フィルルの正面へと砲隊長・ノアが回り、拳で力強く胸を叩いた。


「はッ! 四八式野砲ヨンパチの整備は万端ッ! 敵主力部隊を発見次第、速やかに撃滅せしめんッ!」


「……よろしい。敵の重火器部隊を掃討、もしくは膠着状態入りを待って、われら騎馬隊が突撃! それに歩兵が続きますっ! 鍛え抜いた剣技にて敵を制圧っ!」


「「「「はっ!」」」」


 歩兵隊が声を重ねて気炎を上げる。

 自分たちがなかなか呼ばれず、わずかに焦れていたネージュがフィルルを一瞥。

 その視線にすぐさま気づいたフィルルが、ネージュへと顔を向け、にやり。


「海軍特務部隊・セイレーンは、隊長のネージュ・スコルピオの指揮の下、戦局へ臨機応変に対応っ! 主力武装、ウイング・ユニットを用いて空からの奇襲を主と……ええええっ!?」


 勇ましいフィルルの号令が、唐突に甲高く変調──。

 ウイング・ユニットを装着して並ぶ、ネージュ以下三人。

 ユーノはすでに忍者部隊として交戦中なため、ここにいるセイレーンは四人。

 ネージュ、マヤ、ミオンの後ろに並ぶ、最後尾の兵。

 それは戦姫團副團長のステラ。

 フィルルの驚きの理由は、そこにあった。


「ステラ……いえ、副團長っ!? なぜそこにっ!?」


「セイレーンの一人が行方不明だそうで、代わりにわたしが」


「代わりにわたしが……って、副團長が團を抜けては統率を崩しますわっ!」


「戦姫團の副團長は代々、己の裁量で動ける遊撃兵の役割を持ちます。でしたね、


 淡々と述べたステラが顔を向けた先には、隊列を遠巻きに見る前副團長のロミア。

 退役後に映画俳優へと転向したロミアだが、いまこの戦場においては、軍人時代の険しい表情を取り戻している。


「ええ、そうヨ。強き統率者の團長と、当意即妙な副團長。そのバランスが戦姫團を戦姫團たらしめてきたのよネ、團長様。ンフフッ♪」


「くううぅ……」


 現在は民間人の志願兵にすぎないロミアだが、團内での支持は根強い。

 また、部隊としての歌舞の公演で人気を得たまま俳優業へ転身しているため、国民的な人気もフィルルも遥か上。

 美貌でも後塵を拝んでいる自覚があるフィルルは、ここは自分が退いたほうが團内の結束を乱さないと、クレバーに判断──。


「わ……わかりました。では副團長の配置はそのように。そして、いまご意見をくださった民兵の方々には、脱出してきた工員の誘導と、投降兵の捕縛。そして万一の、敵の増援への対応をお願いしますわ」


「ンフッ、了解ヨ♪」


 ルシャ、その兄のログ、セリ、そしてリムたちを代表して、ロミアが返答。

 フィルルは仕切り直すように、小さな咳ばらいを一つ。

 それから再び勇ましく、号令を発する──。


「……これより全軍突撃っ! 国賊の掃討を開始いたしますっ!」


 そのころ、民兵扱いとなるエルゼルは、衝突事故の衝撃でいまだベッドにふせっていた────。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る