第4話 復讐心のために


 盗賊団を殲滅後、ボスとエドワードの首だけを取ってあとは火葬する。

 盗賊を弔ってやるのは業腹だが、これをやっておかないと死体がゾンビとなって徘徊してしまうのだからしかたない。


盗賊クズ共の焼却は完了だ、村に戻るぞ!村人も弔ってやらないといけねぇからな」


 団長おやじたちにとっては火葬というよりゴミの焼却に近いイメージだったらしい……




 村に帰ってみると居残りの連中と、武装した集団が一触即発の雰囲気で睨み合ってる。


「てめぇらこれは何事だ!」


 団長おやじが居残り組の連中に声を掛ける。団長おやじの図体と顔つきを見て殺気立つが、後方の俺達の人数に狼狽える武装集団。


「こいつ等が俺達のことを盗賊だと言ってて、違うと言っても聞かないんでさぁ」


「なにぃ!寄りにもよって俺達を盗賊だとぉ?」


 団長おやじがキレそうになってる。ヤバいな多分コイツラは領主軍だ揉めたくない。


「そうだ!そんな図体してて怪しまないわけがないだろうが!」


「なにおぅ、やんのかコラ!図体で人を判断してんじゃねぇぞ!」


「違うというなら1度縛に付け、そして改めて詮議する!」


 あちゃあそんな端から決め付けて来られたら、こっちもやるしかなくなるな。出来るだけ殺さないように制圧するか?


「ようしその喧嘩買ったぞ……総員ヤローども戦闘準備カチコミだ


「やる気か?やはり盗賊団だったか!総員戦闘準備!」


 とりあえずこの武装集団(多分領主軍)の総大将を捕まえてこの場を抑えよう。今問答してる先頭のやつは違うな話にならない、集団の真ん中辺りに居そうな陣形だけど……あそこか?

 戦闘が始まったら人死が出る、そうなったらどちらもあとには引けなくなる。だから始まる前に抑えるしかない、体に負担が掛かるが強化を最大にして最速で兵士こいつ等の間をすり抜けて、戦闘が開始される前に間に合え……

 陣形の中央、5騎ほどの騎馬の中で唯一旗を掲げていない馬、間違いないこいつが総大将だ間に合った!

 

「双方剣を引け!引かなければこいつを殺す!」


 騎乗している総大将の後ろに相乗りし首に腕を回して脅しをかける、


 先頭の隊長格のやつが突然のことに狼狽えながら、


「いつの間に?ええい卑怯な!すぐに救出いたしますぞ!攻撃準備!」


 マジか攻撃準備の命令出しやがった、馬鹿なのかあいつは?総大将を押さえてて手を出したら殺すって言ってんのに攻撃しようとしてやがる!


「セバスは頭に血が登ってるな……俺を殺す気か?てかお前はステイルだよな?」


「あん?お前は……アル、アルバートか?」


 総大将は昔馴染みだった……なら話は早いか?


「なに?お前盗賊になったの?」


「そんな訳あるか!盗賊団は俺達が潰してきた」


「そうか……なら村民の話はホントで盗賊団の襲撃はあったんだな……」


 アルは一瞬痛ましそうに俯いていたが、やおら顔を上げてひと声、


「双方剣を引け!」


「あん?喧嘩を吹っ掛けてきたのはそっちだろうが!」


「こちらにも誤解があった!それは詫びよう!」


「坊ちゃま!いえ総大将なにを言っているのですか!相手は村を襲った盗賊団ですぞ!」


「ぷっ!坊ちゃまだって……」


「セバスのやつ、それはやめろと言ってんのに……」


 後でイジってやる。それくらい許されるだろう?


「盗賊団なら俺達が潰した!ここにその首も有る、改めてくれ!」


「セバス確認しろ」


 セバスと呼ばれた男は不承不承に首の確認を行う。


「なんと!確かに手配書にある盗賊団のカシラの顔ですな……村の者に確認しておりますので間違いありません」


「セバスこれで分ったな?そこの御仁こちらは剣を引く、申し訳ないがそちらも引いてもらえないか?」 


 団長おやじに対して多少下手に出ていくアル、そんな事もできるようになったのか……そう来られたら団長おやじだって引かないわけにはいかない。


「分かった、そちらに誤解があったと言うならとりあえず引いてやらぁ」


「感謝する」


「お前ホントにアルか?」


 もしかして偽物かも、影武者とか?


「兵士の命を預かってるんだ、らないで良いならそれでいい」


「あのセバスとか言うのは戦りたがってたみたいだが?」


 アルは苦笑しながら、 


「あいつは正義感が強すぎて真っ直ぐ過ぎるだけなんだ……まあ見てろすぐに印象が変わるから」







「真に申し訳ありませんでした!」


 セバスとやらが団長おやじに対してキレイな土下座をカマしていた。


「主の領土にある村の壊滅に際して敵討ちをしていただいた方々に、あろう事か盗賊の嫌疑をかけるなど無礼千万!本来なら万死に値しますがなにとぞそれがしの首ひとつでお赦しいただき、部下には寛大な処置をお願いしたく思います!」


 対する団長おやじはこういうおとこが大好きなジジィだから、


「お前さんはお前さんの正義で動いてただけだ、まあ今回は誤解で衝突しかけたが、ウチの若いのの機転とお前さんとこの主家のあんちゃんの度量で収まったんだ、お前さんはあんちゃんの度量に胸を張れば良い」


 と不問にする感じみたいだな。


「はっ!有難う御座います!」


 上手く収まったのに水を差す事になるが、これは言っとかないとな……


「セバスさん……少し良いか?」


「何でしょう?」


 最大強化の後遺症できしむ体を誤魔化しながらセバスさんに向き直り、


「今回はうまく収まったが、あんた自分とこの総大将を殺すところだったって分かってるか?」


「どういう事でしょうか?」


 ちょっと不機嫌になったな、これは分かってないか?団長おやじは分かってるから口出しして来ない。


「今回は俺にあんたのところの総大将を殺す気が無かったから脅しだけで済ませたが、本当の戦闘なら俺はあんたが攻撃準備を命令した瞬間に総大将を殺してた。そうなったらあんたどうする気だった?」


「うぐっ……それは……」


「正義感も真っ直ぐさも大事だが、あんたも将だ少しは大局を見なきゃいけない」


「はい、かたじけない。ご忠告痛み入る……」


「いや、俺も若造が出過ぎた事を言った……すまない」


 まあこれ以上は俺が言ってもしかたない、ぶっちゃけアルが教育することだ。


「いやぁ士官教育ありがとう!」


「てめぇんとこがちゃんと教育しとけば、セバスさんだってこんな若造に説教されなくて良かったんだよ!」


「いやぁ耳が痛いねぇ、てかあのステイルが人に説教ってウケるわ」


「うるせぇよお坊ちゃまが!」


「誰がお坊ちゃまだ!このシスコン野郎が!」


 言うに事欠いて誰がシスコンだ!ちょっと妹を溺愛してるだけだろうが!


「なんでぇ2人共知り合いか?」


「ああ、昔馴染みだ」


「え?坊ちゃまの昔馴染みだとすると、ステイルさんはき「セバスそれ以上は言うな」はっ!申し訳ありません!」


「ソシオ殿、領内の村の敵討ちと盗賊団の討伐感謝する」


 アルが普通に礼を言ってる、こっちの方がウケるわ。


「渡世の義理だ礼を言われる事じゃねぇ」


「そういう事ならお言葉に甘える。それとステイル」


「なんだ?」


「もう1つ首を持ってたよな?あれは誰だ?」


 あ〜あ聞いてきやがった。こいつの家を絡めると面倒くさくなるから、俺だけで処置しようとしてるのに変なところで鼻が利きやがる。


「なんの事だ?」


「しらばっくれるな、セバスからも首が2つ有ったと聞いてる盗賊らしくないともな」


 団長おやじのほうへ目配せすると、気を利かせてくれたのか部屋から出てくれた。ありがたい、ここから先はさすがに聞かせられないから……セバスさんは気付きもしない、知らねぇからな?


「見たらお前の家も巻き込まれることになる。見ないほうが良いと思うがな」


「ウチの領内で起きたことだ、俺達が知らないでは通らない。もう巻き込まれてるんだよ、だから見せろ」


「知らねぇからな、後で苦情は聞かねぇぞ」


 首を2つ入れてる袋を持ってくる、中を確認してボスの首を取り出しアルの方へ放り投げる、


「こいつには賞金かかってねぇの?」


 驚くこともせず片手で受け止めて、


「結構かかってる、後で渡すから取りに来い」


「了解、まいど。さてお待ちかねの本命だしっかりと見やがれ」


 エドワードの首をテーブルの上にドンと乗せる、アルがとてつもなく嫌そうな顔をして、


「うわぁやっぱり見なかったことに出来ないか?」


「だから見ないほうが良いって言ったんだ、ちなみにこいつが首謀者だから。なんでも、ここら辺の開拓村で唯一軌道に乗ってたビイム村が有る事で、調子に乗ってるバルス領が大層許せなかったみたいだな。かなりご立腹だったぞ?」


 ちょっと色を付けて言ってみた。


「まあグリン伯爵家が直接は絡んでないだろうけど、多分裏で糸は引いてただろうな」


「そうだろうな……で?エドワードの死に顔がこれって事はかなり絶望させただろう?なにを言ったんだ?」


 勘が良いやつだな、まあ分かりやすく絶望してくれてるからな。


「なにをって、俺の事を思い出させてお前と同じ事をしてやるって言っただけだが?まあ領民には極力手は出させないつもりだけどな」

 

「ああそりゃあ絶望するわ、てかお前帰る気か?」


「帰る気はないが貸しは1つ返してもらう」


「あの家を巻き込むって事は本気でグリン伯爵家を潰す気だな」


「ああ、この村は俺を受け入れてくれた良い村だった。それを自分たちの醜い自尊心のためだけに、こんな残虐な方法で虐殺するなんて赦せない」


「そのために戻る気か、ステイル・フォン・アークライト公爵家総領に」


 アルの言葉にセバスさんの顔面が蒼白になる。空気を読めないから聞かなくてもいいことまで聞いてしまう、いい勉強になっただろう。


「戻ってやるさ、何よりも自分の復讐心のために」










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