ハッピーメリークリスマス!

パ・ラー・アブラハティ

こんにちわ、新人サンタのカルミアです。

 皆さん、こんにちわ。新人サンタのカルミアと言います。


 みなさんは今日が何の日か知ってますか?そう、子供達が願いを夜空に託すクリスマスです。町は華やかな装飾に包まれて、辺りは夜なのに昼のようにピカピカとしています。


 大人は大きくなった子供に言います「サンタさんは居ない」って。それは嘘です。私達サンタは存在しています。サンタは子供達が欲しいと願った希望や夢をソリに乗せて、眠りにつく夜に満点の星空が輝く空を走っていきます。


 そんな私は今日初めて子供達の願いをソリに乗せて夜空を走って行くのです。今から上手くやれるかドキドキで心臓が高鳴っています。


 もし、失敗したらどうしようと頭の中は不安で埋め尽くされていて希望や夢とはかけ離れすぎています。


 でも、きっと大丈夫。だって、私は希望と夢を届けるサンタなのだから。


 さあ、行きましょう。希望と夢を子供達に届けに。とその前に所長に挨拶をしてたから行きましょう。


「所長、今から子供達に希望と夢を届けに行ってまいります!!」


「おい、カルミア。張り切るのはいいが、サンタの心得をちゃんと覚えているか?お前はいつも張り切って空回りをするのだから」


「はい、所長ちゃんと覚えています!」


 彼はサンタ協会の所長デイジーさんです。白いヒゲを蓄えて、お腹には脂肪を蓄えていますがとてもおおらかなで優しい人です。でも、帽子を脱ぐとピカっと月のように光る頭は少し残念です。


「サンタは子供に姿を見られるな!見られたら即サンタ資格剥奪!ですよね!」


「正解だ。サンタは希望と夢を与える存在だ。その存在が見られたとなったなら、幻が幻ではなくなってしまう。幻は幻だから美しいのだ。私情は挟むなよ、カルミア。お前は特に優しいからな」


「はい、わかっています!任せてください!それじゃ、行ってきます!」


「……本当に分かっているのだろうか」


 さあ、張り切って行きますよ。私の初仕事、何がなんでも成功させないとです。


 トナカイ小屋にいるトナカイさん、サンザシさんとレンギョウさんは私の相棒です。私が訓練生の時からずっと一緒です。酸いも甘いも全て三人で味わってきました。だから、絶対に成功させないといけません。

 サンザシさん、レンギョウさんの背中に股がっていざ出発です。星と月が美しく輝く空へ軽やかに飛び立って行きます。雲を突き抜け、月明かりと星だけが鮮明に見える世界はとても幻想的で、この景色は何度見ても心が惹かれます。


 あ、いけません、景色に見惚れるなと何度もデイジーさんに注意されていますから仕事に集中しないとです。


 気を取り直して、地図を開いて目的地を確認しましょう。地図は懐にちゃんと入れておきましたから。


「えっとお……今はここだからこういってこうですね!」


 今日のルートは北から南へと巡るルートです。ちょっと大変ですけど、初仕事ですからこれぐらい難なくこなしてみせます。


 私はそこから夢の世界で遊んでいる子供達にバレないようにと、抜き足差し足忍び足で希望と夢を置いていきました。


「ふう……疲れますね。でも、次が最後です!ええと、お名前はブルバリアちゃんですね。叶えて欲しい夢はお母さんかサンタさんと遊びたい」


 これは困りました。サンタさんと遊びたいという夢はサンタの心得に反するので絶対に叶えてあげれません。お母さんと遊びたいはどうにかできるでしょうか?


 とりあえず、彼女の家に行ってみましょう。考えるのはそこからにしましょう。


 彼女の住む町は北にあるアルストロメリアですか。


「レンギョウさん、サンザシさん。お願いしますね」


 私はソリを走らせ彼女のいる町アルストロメリアに着きました。アルストロメリアは真夜中だというのに、お酒に呑まれた人達で賑わっていました。


 どんちゃんどんちゃんと騒ぐ都心部からどんどんと離れていき、やがては静かな田園風景が広がる田舎へとやってきました。


 彼女の家の特徴は煉瓦造りの家で煙突がありますね。私は辺りを見渡して、煙突がある煉瓦造りの家を探しました。


 田園風景が広がる田舎のおかげでしょうか、少し先に一際目立つ煉瓦造りの家を見つけることが出来ました。


 バレないようにそおっと近付きます。家の中の様子を見ようとしたのですが、ソリがでかくて降りないと見れません。私は仕方なく、家の裏にソリを置きます。足音が一切立たないようにソリから降りて、私は窓から家の様子を見ます。


 家の中には子供が一人で寝るには大きすぎるベッドで寝ているブルバリアちゃんの姿が確認できました。お母さんはどうやら居ないようです。お仕事でしょうか。


 ブルバリアちゃんの願いを叶えてあげたいですが、デイジーさんに私情を挟むなと言われているのでソリに乗って退散するとしましょう。


 私はバレないようにそっと踵を返そうとしますが、ツルッと滑ってしまい窓ガラスに激しく頭を打ち付けてしまいました。


 大きな物音がして、驚いたようにブルバリアちゃんが跳ね起きてしまいました。


「……なんの音?」


 ブルバリアちゃんは大きな音に驚いた様子です。私の頭は激しく痛んでいます。早く退散しないとブルバリアちゃんに姿を見られてしまいます。だけど、私の頭がジンジンと痛んでそれどころじゃあありません。蹲って頭をさすっていたら、ガチャと扉が開く音が聞こえました。


「……お母さん?」


「……これはまずいですね」


 私はとうとうブルバリアちゃんに姿を見られてしまいました。とてもまずい状況になりました。


 幸いというのでしょうか。ブルバリアちゃんは寝ぼけているせいか私をお母さん、と勘違いしているのでお母さんだよと言えば誤魔化しが効くでしょうか。


「……お母さんなの?今日はお仕事じゃなかったの?早く帰って来れたの?一緒に寝れる?」


 ブルバリアちゃんの少し涙ぐんだ目を見て、私の胸はズキンと痛みます。誤魔化し、をしていいのでしょうか。


 今、目の前の彼女は涙ぐみながら希望と夢を語っています。それを希望と夢を配ると豪語しているサンタが見逃していいのでしょうか。


「私情は挟むなよ、カルミア」


 デイジーさんはそう言っていましたが、本当にそうなのでしょうか。デイジーさん、私は希望と夢を配るなら与えるなら、自分の保身を考えるべきでは無いと思うのです。


 だって、保身は希望と夢とはかけ離れすぎた存在なのですから。私は、私は彼女の希望と夢を叶えます。それが私の希望と夢が無くなることだとしても。


「いいえ、違います。私はお母さんじゃあありません。私は貴方のブルバリアちゃんの願いを叶えに来たサンタです!」


 私は胸を張って言います、サンタクロースだと。


「え?サンタさん!?来てくれたの!?」


 涙ぐんでいたブルバリアちゃんの目はキラキラと星空のように輝いた目に変わります。そうです、子供にはこの表情が一番似合います。涙ぐんだ顔なんて不似合いです。


「ええ、もちろん来ますよ!だって、私は希望と夢を届けるのですから!さあ、遊びましょう、ブルバリアちゃん!願いを叶えますよ!」


「本当!?本当!?やった!やった!嬉しい!」


 私はブルバリアちゃんと遊びました。お人形さん遊び、ごっこ遊び、お絵描き、紙折り、かけっこ、色々な遊びをしました。


 その時のブルバリアちゃんはどんな煌めくものよりも本当に美しく煌めいていました。私が見たかった光景です。子供のこういう表情が見たくて、私はサンタになったのです。


「サンタさん、私のお願い聞いてくれてありがとう。お母さんとは遊べなかったけどサンタさんと遊べてよかった!」


「……ブルバリアちゃんはなぜお母さんと遊びたいと願ったのですか?」


「それはね……お父さんが死んじゃってお母さんは仕事、仕事で私となかなか遊んでくれなくなちゃって。大変なのは分かってるけどたまにはお母さんと遊びたいなって」


「そうですか。そんな事情が」


「でも、これ言ったらワガママになっちゃうから言わないんだ」


「ブルバリアちゃん、それは違いますよ。子供は多少の我儘を言っていいんです。そんな小さい頃から気持ちに蓋をしてしまったら駄目です。ちゃんと言いたいことは言わないと相手には伝わりませんよ」


「でも……」


「ブルバリアちゃんの気持ちは分かります。けど、ブルバリアちゃんのためを思って動いているお母さんならきっと伝わるはずですよ。運命はちょっとの勇気があれば変わるのです」


「本当?」


「本当です。サンタは嘘をつきません」


「……わかった、私言ってみるね」


「はい、そうしてみてください」


 さて、そろそろ時間でしょうか。私も帰らないと行けません。まさか、初仕事が最初で最後の仕事になるとは思いもしませんでした。


 でも、最後にブルバリアちゃんの願いを希望と夢を目一杯叶えられたのですから悔いはありません。


「ねえ、サンタさん……お願いって増やせる?」


「十二月二十四日までに願った、お願いなら確かいけるはずですよ。どうしてですか?」


「私はねもう一つお願いができたんだ。それはね……」


 ブルバリアちゃんが言おうとした瞬間、扉のノブが動く音が聞こえました。ブルバリアちゃんのお母さんが帰ってきたのです。


「ブルバリアちゃん、ごめんね。そのお願い聞けそうにないです。私、もう行かなくちゃ、バイバイ。楽しかったです!」


「あ、待って!」


 私は慌てて窓から飛出て、家の裏に待っててもらったサンザシさん達に飛び乗ってまた幻想の世界へと飛び立って行きます。


 リンリンと夜空を走っていきます。私はサンタの心得を破ってしまいました。サンタの資格は剥奪されて、デイジーさんからはきっとキツイお叱りが待っているはずです。心は重たいですが、前向きに転職先を探さないとですね。


 私はサンタ協会に着くと、直ぐにデイジーさんに呼び出されてしまいました。


「カルミア、自分が何をしたか分かっているのだろうな?」


「はい。サンタの心得を破ってしまいました。心積りは出来てます」


「潔いな。それじゃあ、剥奪と言いたいがそれは出来なさそうだ」


「えっ……?」


「子供の希望と夢のせいでな、カルミアのサンタ資格を剥奪出来ない」


 そう言って、デイジーさんは一枚の紙を私に手渡します。紙にはブルバリアの願いと書かれています。その願いの内容は。


「今日遊んでくれたらサンタさんにありがとうと言いたい」


「そう。その願いのせいでな、カルミアのサンタ資格を剥奪出来ないんだ」


「デイジーさん……」


「だか、反省文五百枚は書いてもらう。分かったな?」


「は、はい!喜んで書かせてもらいます!」


「よし、じゃあ行っていいぞ。カルミア、ハッピーメリークリスマス」


「ハッピーメリークリスマスです!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハッピーメリークリスマス! パ・ラー・アブラハティ @ra-yu482

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ